【あつ森ファンタジームービー】春はどこへ行った【原作版 最終章&エピローグ】
最終章 春はどこへ行った
それからの僕は、エカキさんに弟子入りし、ひっそりと絵を描いて暮らした。
エカキさんはとても喜んで、僕を実の孫のように可愛がってくれた。
本当は魔力の影響で時が止まっていた僕の方が、エカキさんより年上なんだけれど…それは秘密だ。
魔力を失った僕は、魔力のない人と同じように歳を重ねていった。
かつて杖を握りしめていた手で絵筆を握り、今日も世界の姿を描く。
トーコの願いを叶えたいから。
僕の…トーカの人生、残り全部君にあげる。
君が見ることのできない、
夏の青葉の美しさも、
秋の紅葉の美しさも、
君と見た冬の美しさも、
そして、君自身の春の美しさも…
もしもいつか、君に会えたら伝えられるように。
長い冬は去り、春はここにあった。
春はどこへ行った END
エピローグ
魔法が存在した時代は遥か遠くに過ぎ去り
、いつかどこかのある島でーー
その日はいつもと違う朝で、不思議と心が騒めいた。
この島に引っ越してきて2度目の休日、僕は朝から島を散策することにした。
「灯火(トーカ)もう出かけるの?」
玄関を出ようとした僕を、僕の双子の兄の雪(ユキ)が呼び止めた。
朝に弱くて、休みの日は大抵お昼くらいまで寝ているのに珍しい。
さらさらの白い髪とアイスグリーンの瞳が、朝日に照らされてきらきら光っていた。
「うん。なんだかそんな気分でさ。雪も行く?」
「ううん。僕は家でゆっくりしてるよ。いってらっしゃい、灯火。」
「いってきます。」
微笑む雪に手を振って、僕は玄関を出ていった。
朝の島の空気は爽やかで、はじめて見る風景に心が踊った。
しばらく散歩していると、立派な白い石造りの建物が建つ広場に出た。
気になってスマホで地図アプリを開くと、「博物館前広場」と表示された。
「あれ?この前転校してきた灯火くんだよね?」
博物館前のベンチに座っていた男の子が、突然話しかけてきてびっくりする。
金色の短い髪の毛に、くりっとした緑の瞳、はじけるような眩しい笑顔だった。
「うん…そうだけど。」
「俺、光(コウ)。同じクラスだよ!」
そういえば、なんだか見覚えがある…。
初めて喋るのに物怖じしない彼は、多分いい人そうだ。
「難しいうちの転入試験を、兄弟2人とも楽々突破した〜って噂になってたよ。
お兄ちゃんの方は隣のクラスでモテモテらしいじゃん!」
「えっ。」
なんだか周りから注目されているような気はしていたけど…。
それにしても、相変わらず雪は凄いな…綺麗すぎて他人を惹きつけてしまう。
「灯火くんもどこか不思議な雰囲気があるよね!これからよろしくね!」
「うん。これからよろしく。」
光は古びた分厚い本を抱えていた。
『歴史から消えた魔術師 スノウの謎』
「ねえ、その本…。」
なぜか気になって聞いてしまった。
「これ?さっき図書館で借りてきたんだ!大昔は魔法があったなんてわくわくしない?
俺たちだってもしかしたら、前世は魔術師だったかもしれないじゃん?」
光は瞳をきらきらと輝かせて楽しそうだ。
『スノウ』…?なんだか頭にひっかかるけど…まあいいか。
「うん。前世は魔術師なんてかっこいいよね。考えたことなかった。」
「本当!灯火くんとは気が合いそうだよ!あっ、すっかり引き止めちゃってごめん。どっか行くとこだった?」
「ううん。島を回ってみたくて適当に散歩してたところ。」
「だったらそこの博物館に行ってみたら?
面白い展示たくさんだし、素敵な絵もあるし
、おすすめだよ!!俺そろそろ行かなきゃ。じゃ、また学校でね!」
そう言うとあっと言う間に走り去って行った。
なんだか春の嵐みたいな子だったな…。
素敵な絵か…僕は小さい頃から絵を描くのが好きで、絵画教室にも通っていたから、とても興味を引かれた。
博物館に行ってみようかな。
光くんの言っていたとおり、工夫が凝らされた博物館の展示は面白くて、すっかり夢中になっていた。
最後は美術品展示室。
とても古い風景画の前で、僕は足を止めた。
暗い空に輝く美しいオーロラの絵。
どうしてだろう、初めて見るはずの絵なのに不思議と懐かしくて。
いつか誰かと、この風景を眺めたような…。
作者名のプレートを見て驚く。
「トーカ ?年〜□年」
僕と同じ名前…。
どれだけ眺めていたのだろう、
気がつくと僕の後ろに同い年くらいの女の子が立っていた。
振り返り目が合った瞬間、彼女はにっこりと微笑んだ。
「灯火(トーカ)!」
そのくちびるから僕の名前がこぼれる。
春の花のようにほころぶ彼女の笑顔に、僕はずっとずっと、会いたかった気がした。
彼女の名前は董子(トーコ)。
春生まれで、董は「すみれ」という意味だと後から聞いた。
僕がこれからたくさん呼び続ける名前だった。
ートーカとトーコで居たかった、君と僕の物語ー
おしまい
読んでいただき、ありがとうございます🥰
スノウが握りしめていた杖は、バラの花と絵筆に変わりました。
春はどこへ行った 続編、原作小説版•YouTube版、近日公開です🌸
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🌸共同制作 ゆりーなちゃん
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