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【あつ森ファンタジームービー】春はどこへ行った【原作版第5章】

第5章 過去と過ち


「僕」はーーー「私」は思い出した。

私の名はスノウ。


王国の貴重な魔術師だった。

生まれてすぐ、強い魔力を持つことが分かった私は王の元へと召された。

親のことは顔も名前も覚えていない。

王の命令であればどんな任務でも遂行し、人々に畏れられていった。

そんな生き方しか知らなかった。


魔力を持つ者は老化が遅く、魔力の源である星のように長く生きる。

誰よりも強力な魔力を持つ私は、その影響が顕著で、ずっと少年の時の姿のままだった。

延々とこの暮らしを続けていくうちに、心の何処かに解放されたいという気持ちが芽生えて行った。


そんな時、王都から遠く離れた雪山で異変が起きているという知らせがあり、氷雪魔法に長けた私が遣わされることとなった。

そして私は、雪の山で美しい冬の精霊と出会ってしまったのだった…。

彼女は私に取引を持ちかけた。


「もう少しだけ冬の世界で雪と踊っていたいの、あなたの力を貸して頂戴。

そのかわりに、全てを覆い隠す雪の忘却魔法で、世界からあなたのことも忘れさせてあげる。」

「そんな…世界規模の魔法を…」

「私とあなたならできるわ。」

冬の精霊は冷たく白い手で私の頬に触れ、耳元で甘くささやいた。

私は…迷った末に取引に乗ってしまった。

できることなら誰かを傷つけることなく、ひっそりと自由になりたかった。

世界に降り積もる忘却の雪の中、私は全てを放り出して逃げ出した。

一箇所だけ、身を隠す場所に心当たりがあった。
王都から遠く南に離れた森にある、かつて使われていた魔法の研究小屋だ。

私も昔利用したことがあるが、今では魔術師の人員が足りず、昔の設備を残したまま無人になっていた。

数日かけて研究小屋に辿り着くと、私は魔法で扉を解錠した。

中に入ると、埃は溜まっているものの、暮らすには十分綺麗だった。

もう誰からも畏れられることはなく、初めての自由に心は晴れやかだった。

私は久しぶりにぐっすりと眠り、翌朝からは読書をしたり森で採集したり、好きなことだけをして過ごしていった。

しかし、穏やかな日々も束の間だった。

時が経つにつれて、強力な魔法は術者自身をも蝕んでいった。

私は私のことが段々と思い出せなくなった。

世界の理を狂わせてしまった私への罰なのだろうか…。

もしかしたら心の奥底では、自分のことさえ忘れ去りたいのかもしれない…。

いつか全て忘れた私が困ってしまわないように、暮らしていくための魔法道具を準備していった。

そして次の私を「トーカ」と名付けた。

周りを明るく照らして温められるような、ともしびのような優しい人になりたかった。

『トーカへ』と題した本に、この世界で生きていくために必要な事を書き連ねていった。


冬の精霊との取引や、私自身のことは書かなかった。
新しい私には、どうか自由に生きてほしかった。

長く伸びた白い髪もばっさりと切ってしまった。
はさみをまともに使ったことがないから、なんだかぼさぼさになってしまったけれど…。

次の私は琥珀色だといいな…。太陽の光に照らされて、きらきらとあたたかくきらめくような…。

欠落していく記憶に頭が朦朧としながら、私はペンを置き、眠りにつく。

次に目が覚めたら、違う自分になれるようにと祈って。

第5章 過去と過ち おわり。


読んでいただきありがとうございます🥰
原作者イラスト スノウです❄️

❄️前回のおはなし

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❄️共同制作 ゆりーなちゃん

第6章 旅の終わりは5月30日(月)更新です!

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