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【あつ森ファンタジームービー】春はどこへ行った【原作版 プロローグ・第1章】

〜世界に忘れられた、君と僕の物語〜

プロローグ


むかしむかし、空から星が降ったあの日から、世界に魔法の力を持つ子が生まれるようになった。

魔法の力で文明は発展し、人々は豊かに暮らした。

しかし、星がもたらした魔法の力は長い時を経て弱まり、次第に力を持つ子が生まれなくなっていった。

やがて数少ない魔法の力を持つ子は政争の火種となり、争いを繰り返すうちに世界はゆるやかに衰退していった。

これは魔法が最後に存在した時代のお話。


第1章 運命の出会い

その日はいつもと違う朝で、不思議と心が騒めいた。

数日続いた吹雪が止んだから、森の奥で薪を集めないと。

僕は森の中で1人暮らす家を出て歩き出す。

雪深い森はしんと静まりかえって、僕の足音しか聞こえない。

ぼんやりと歩き続けて森の奥へ辿り着くと、視界の端に見慣れないものが映った。

あれは…人…?

じっと見つめると、雪の中に女の子が倒れていた。

銀色の三つ編みが凍りついて、きらきらときらめいている。

「君、どうしたの!大丈夫!?」

急いで駆け寄ると、女の子は声に反応して目を覚ました。

けれどとても眠たそうで、凍えてうまく動けないようだった。

「待ってて!」

急いで集めた薪を積み上げ、僕は杖を振る。

杖からあたたかな光があふれて、あっという間に薪が燃え上がった。

震えながら焚き火にあたるうちに、蒼白だった女の子の頬に赤みがさしてきた。

「森に僕以外の人がいるなんて初めてだ。
ここじゃ凍えちゃう…。僕の家に行こう。」


女の子を連れて家に辿り着くと、

僕は暖炉に火を入れ、温かいお茶を淹れた。

女の子は応接間のソファーのすみっこに縮こまって座っている。

凍った泉のような青色の瞳が悲しそうに潤んでいた。

「もう大丈夫だよ。」


どうにか安心させてあげたくて、そっとお茶を彼女の前に置いた。

女の子は俯いて不安そうだったけれど、お茶を口にして身体が温まると表情が和らいでいった。

「僕の名前はトーカ。きみは?」

「わからないの…。自分のことが思い出せなくて。」

女の子は小さな声で答えた。

「君もなの…!実は僕もなんだ…。」

あまりの偶然にびっくりしてしまう。

「あなたも…?」

「僕が目覚めたのは数ヶ月前。自分の名前も思い出せなかった。

僕の側には1冊の本があって、僕の名前や、ここが僕の家であること、この世界と魔法について書かれていたんだ。」


『トーカへ』と記された本の記述によると、

この世界はずっと「冬」で、とても寒くどこまでも白い雪に覆われているという。

かつては魔法という世界の理に干渉する力を持つ者がたくさん居たが、今ではとても少なくなってしまったらしい。

魔法の隆盛期に作られた耐寒性の強い作物と魔法道具のおかげで、人々は凍えながらもなんとか暮らしているそうだ。

本には魔法の力の使い方も書かれていて、僕は少しだけれど火の魔法が使えるようだった。

女の子は不思議そうに僕の話に耳を傾けていた。

「ねぇ、君のこと『トーコ』って呼んでいいかな?記憶のない僕たち、似た者同士みたいだから。」


「『トーコ』…?『トーコ』!

すてきな響き!そう呼んでほしいな。」

トーコはお日様のようにぱあっと瞳を輝かせ、声をはずませて喜んだ。

「トーコ、元気になったら、僕たちの記憶の手がかりを探しにいこうよ。」

「うん!」

世界に忘れられた、僕たちの物語が始まった。

第1章 冬の世界 おわり


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❄️共同制作 ゆりーな

原作加筆版第2章は、5月16日月曜日更新予定です!

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