【あつ森】World's End Happy Birthday【原作版 第3章 影と鳥籠】
第3章 影と鳥籠
1. 君の誕生日
今日は董子の誕生日。
夕方16時50分、僕は博物館前広場に到着した。
沈んでいく夕陽が空を菫色に染め始めていた。
すでに董子はベンチに座って待っていた。
本日の主役だったからか、可憐な花模様のスカートのバルーンワンピースに、ブラウンのレザーブーツ姿だった。
「お待たせ、董子。お誕生日おめでとう。」
僕がそう言うと、董子は僕をじっと見つめて不思議そうな顔をした。
「あの…。灯火じゃなくて、雪くんだよね?」
「えっ…灯火だよ。」
僕は優しく微笑む。
「違うよ!わかるもん。どうしてこんなことするの?」
董子が今にも泣きそうな顔で言う。
……ばれたか。一瞬すぎるだろ…。
カットリーヌさんに作ってもらった、ハイクオリティのウィッグとカラコンを持ってしても、董子には兄の雪だと見破られてしまった…。
僕の完璧な灯火の演技と変装を、一目で見抜ける人なんて、そうそういるはずないんだけどな…。
さすが前世からトーカを見つめているだけあるな……愛の力ってやつ?
と、修羅場寸前の状況なのに感心してしまう。
そう思った瞬間、広場に17時の鐘が鳴り響いた。噴水の水が空へと勢いよく噴き上がる。
視界の端で黒い影が蠢いたのを、僕は見逃さなかった。
2.影が蠢く
なんで今日に限って工事中なんだ…。
董子の誕生日、待ち合わせの17時まで残りわずか。僕ー「灯火」は、突然の事態に困惑していた。
なぜかよくわからないけれど、島の各地で急な工事が行われていた。
僕の家から博物館前広場に辿り着くためのあらゆるルートを試して、僕はへとへとになっていた。
董子との待ち合わせの30分前には着くはずだったのに…絶対遅れたくなかったのに…。超ぎりぎりになってしまった。
息を切らして広場の入り口に辿り着いた僕の目に、信じられない光景が飛び込んできた。
は?なんで??
待ち合わせ場所にもう僕??がいるんだ?
訳がわからなすぎて立ち止まってしまう。
……というか、僕と背格好もまるで一緒なんて、あんなことができるのは雪しかいないだろ…。
17時の鐘が鳴り響いた。
その瞬間、僕の目の前ー董子達のベンチの真向かいから黒い影が湧き上がり、鋭い斬撃が2人に襲いかかっていった。
「きゃあ!」
董子の悲鳴が聞こえた。
「董子!!」
僕は思わず叫んでいた。
広場の地面が砕け、土煙がもうもうと立ち昇る。
土煙の中、何かが激しく煌めくのが見えた。
偽物の僕が杖を振り翳し、まばゆい光で黒い影を攻撃していた。
あれは…魔法!?何が起こっているんだ!?
土煙が晴れると、董子がベンチに座ったまま震えていた。
視界の端で黒い影が遠ざかっていき、偽物の僕がもの凄い勢いで追いかけて行くのが見えた。
僕は急いでベンチに駆け寄った。
「董子!大丈夫!?怪我してない??」
「大丈夫!雪くんが庇ってくれて…。」
震えているけれど、無傷なようでほっとした。
やっぱり偽物の僕は雪だったのか…。
「雪くんきっと大変だから…追いかけてあげて。」
「ごめん、董子!行ってくるね!!」
何が起こっているのかわからないけれど、嫌な予感がする…雪を追いかけないと!
雪が向かった方向へ、僕は全速力で走り出す。
けれど…間抜けな僕は、大切なプレゼントを落としてしまったことに気づかなかったのだった…。
3.雪を追って
「灯火?」
途中の街角で、光にばったり出くわした。
買い物途中だったようで、手には紙袋を下げていた。
「あれ?灯火、さっき学校の方ですれ違ったよね…?めちゃめちゃ急いでたみたいだったけど。」
「学校!?」
もしかして…光がすれ違ったのは僕に変装した雪…?
「光、またね!」
僕は学校に向かって走り出す。
「えっ!灯火!ちょ、ちょっと待ってよ!?」
10分ほど走って、僕は学校に辿り着いた。
学校の正面には看板が立っていて、
『本日17時以降、工事のため立ち入り禁止。生徒•職員は17時までに完全に校内から退出すること』と書かれていた。
17時は過ぎているから、今は立ち入り禁止のはず…。
夕暮れの学校には人の気配がなく、怖いくらいにしんと静まり返っていた。
「灯火ー!」
後ろから光の声がした。
「えっ?光?」
振り返ると、光が息を切らして立っていた。
「はあ…なんとか追いついた…。」
「なんで…?」
「だってなんか変だったし、気になってさ〜。まるで灯火が2人いたみたいじゃん?」
その時、校舎裏の辺りの空がぱあっと光った。
「わ!なんだ!?あの変な色の光…。工事のじゃないよな…?」
光が空を見上げてびっくりしている。
本当は立ち入り禁止だけど…行ってみるしかない!
僕は看板の横をすり抜けて、校内に入って行く。
「えっ、灯火!?入るの!俺も行く!!」
好奇心旺盛すぎる光を振り切るのは無理だ…。
もうこのまま連れて行こう…。
光と2人で、空が光っていた辺りの校舎裏を覗きこんだ。
校舎裏の暗がりに、雪がこちらに背を向けて立っていた。
いつの間にか僕の変装を解いている…だけじゃなく、何故か前世の魔術師スノウのようなローブを身に付けていた。
その向こうには…何だ…?あれ。
黒い鳥が入れられた黒い鳥籠があった。
何故だろう、禍々しさを感じる…。
雪が無表情でこちらを振り返る。
僕たちに気がつくと、
「はあ…。やっぱりこうなるのか…。」と額に手を当ててため息をついた。
4. 影の正体
「俺が学校近くですれ違ったの、もしかして雪だったの…?っていうかその格好、魔術師スノウみたいじゃん!ここで何してんの?」
異様な状況をあまり気にしないかのように、光が尋ねた。
「魔法時代の、王の亡霊の封印。」
光の問いかけに、雪はさらっと答えた。
「えっ!?」「は!?」
「あの鳥籠の黒い鳥が亡霊。今は僕が魔法で封じている。」
雪は氷の結晶が彫刻された輝く杖を振り翳した。
あの杖って…前世で冬の精が使っていた…?
桜の季節なのに、あっという間に周りの地面が凍っていく。
「ええっ!!」
流石の光もびっくりしていた。
「どうして魔法が…。」
魔法は遥か昔に世界から失われたはずなのに…。
「順を追って説明するよ…。」
雪がだるそうに話し始めた。
「昔々のお話だ。魔法時代末期、魔術師スノウは、冬の精霊とともに世界を冬に変えた。」
「えっ、ちょっと待って…なにその話、スノウの通説ベースの新説??」
魔法史マニアな光が横から茶々を入れた。
「いいから最後まで聞けよ。」
雪が綺麗な顔をしかめて、めんどくさそうに言う。
「長く続いた冬の時代は、やがて終わりを迎えたが、王は治世を大混乱に陥れたスノウを怨み、後に亡霊となった。
亡霊は、画家トーカを狙い世界に現れた。その際、大災害を引き起こしたが、魔術師ギルベルトとルジュナによって封印された…。」
雪が杖を握った右手を、そっと胸の前にかざした。
「僕の前世がスノウ。
灯火の前世が画家トーカ。
光の前世が魔術師ギルベルト。
僕たちの前世は魔術師だったんだ。」
僕の前世の記憶と一致する話だった。
雪……説明が面倒なところを絶妙にぼかしたな…。
「スノウ」と「トーカ」が実は同一人物だったこととか。
隣で光が固まっていた。そりゃそうなるよね。
「………えっ、マジで!?これ、現実??」
光がはっと我に帰った。
「よかったな。現実だよ。」
さっさと話を進めたそうな雪が座った目で言う。
「俺…ずっと、前世が魔術師だったらなーって思ってたから…。ギルベルトか〜!めっちゃ嬉しい!!
しかも、2人の前世もスノウとトーカなの!?
えっ、やば…俺たちの前世、偉大すぎない!?」
超うきうきハイテンションになっていた。
光、前世を受け入れるの早くない…?
雪の話には気になる点があったので、僕は雪に尋ねてみた。
「どうして今になって、封印された亡霊が現れたの?」
「時が経ち、弱まった封印を破ったようだ。蘇った亡霊は、再び僕たちを狙っている。」
「しかも今夜は、数百年に一度の特別な流星群の夜。星の魔力が増す。
さらに今夜は新月だ。闇の力が増し、呪いが強くなる。
今はなんとか僕の魔法で抑えているけれど、夜が来て星が降り始めれば、亡霊の力も強まり鳥籠が壊れるだろう。」
「えっ!?この亡霊、夜になったら籠から出てくるの!?超危険じゃん!!」
「僕はこの事態を夢で見て、この日のために氷華さんと準備してきた。
僕の見た夢は断片的で、さまざまな展開があり得た。」
「最も早く亡霊と接触できるタイミングがあのベンチだった。
本当は灯火本人が襲われるはずだったけれど、『灯火が襲われる』という事象をできるだけ変化させずに最速で仕留めたくて、変装した。
結果は逃げられたけど…。
灯火、董子に告白したかったんだろ。妨害して悪かった。」
「えっ…、ええっ!?そ、そんなことまで知って…。」
顔が真っ赤になる。とっさに俯いたけど、きっとバレバレだ。
お見通しだったなんて、あまりにも恥ずかしい…。
「できれば2人を巻き込みたくなかったんだ…。
だけど…僕が夢で見ることができたのもここまでだ。
2人とも、力を貸してくれないか?」
第3章 影と鳥籠 おわり
第4章 ワールズエンド へ続く。
🌟読んでくださりありがとうございます🥰
次章、夜が訪れ、灯火たちは亡霊と戦います✨
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🌟共同制作 ゆりーなちゃん
🌟演技•島提供協力 fumikaちゃん ちゅーぺっ島
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