見出し画像

神殺しの魔法使い 小説

天使に祝福あらば罪を払い、悪魔に願い事あらば、これを滅ぼさん。                                天使と悪魔を作りし神を断罪すべく、魔術は神に抗う剣なり。

                ー魔術祖・アルテミシア=プリンセプス

プロローグ

むかし誰かが言った。ー天使は善を成し、悪魔は悪を成す、と。

彼がそんなことを思い出したのは、まず、彼は目の前の光景を見て、天使と悪魔の境界線など到底捕捉できようはずもなかったから。彼は旧約聖天書を紐解き、聖天書の使徒としての彼らを心得ている。されど、少年は、そんなものは紙の上の絵空事でしかないことを此の頃、極々痛感させられていた。

「ーくッー!」

殺意に身を焼かれて木立を逃げ惑う少年を、暗闇から生じた巨爪が薙ぎ払う。とっさに身をひるがえして両腕を固めて受けるが、流しきれない衝撃に体が浮きあがった。地面と足が離れた無防備な一瞬、追い打ちの爪撃が風を切って走り少年を八つ裂きにして手足が散り散りになる。

「ーぐはッー」

彼の鮮血は樹林を黒い炎に染めた。彼の地は赤い煉獄のカルマに焼かれるような深淵なる血の湖に沈む。この深い夜に明星の月明かりが、彼の闇をも喰らう瞳を照らし出した。

「ー手間かけさせんなよ。くひひひー」

「ーわれら、天使と悪魔は偉大なる王に創造された身、貴様のような偽りの亡者には死をー神に祝福あらんことをーエンゼルデビル」

二人の天使と悪魔は彼の亡骸を腐った蛆虫でも見るかのように一瞥して、暗黒の深部に去っていた。

薄れゆく意識の中、彼は自分の魂がこの暗い夜でももっとも底知れない闇を湛えた深淵に吞まれていくのを感じた。

第1章

入学式セレモニー

ここから先は

2,711字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?