春風 鳳利 Harukaze Takato

たぶん日常とか小説とかを書く🌀🖋️

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最近の記事

【小説】フラグメント/断章 第6節「モーテル②」

ゲストハウスに隣接するモーテルが、どうやらこの世界特有の現象として、出現したばかりの未知の建物であることがわかってきた。 彼は、先ほど聞こえた、モーテルのドアが閉まる音から、車の持ち主と思われるゲストハウスへの来客が、間違えてモーテルに入室してしまったのかも知れないとの、ゲストハウスのスタッフの男の言葉を聞き、モーテルの部屋を訪ねて回ることを考えていた。 その横で、モーテルの外観を眺めていたスタッフの男は、何となく不気味さを感じてきていた。 「あぁ……君、その人に用事が

    • 【小説】フラグメント/断章 第5節「モーテル①」

      彼はゲストハウスを離れることにした。 行き先のあてがあるわけではないが、わずかな間に奇怪な出来事が頻発するような物件にいるよりはマシだろうと、例の道を先に進むことにした。 ゲストハウスを出ると、外の様子の違和感にすぐに立ち止まる。 ゲストハウスに入る前と何かが違う。 彼はそれが、建物と道の間にあるアプローチ部分が、褐色系のカラーコンクリートで舗装されているせいだとすぐに気づく。モーテルの前のその部分には駐車場スペースを示すための白線まで引かれていた。 コンクリートはすでに

      • 【小説】フラグメント/断章 第4節「ゲストハウス③」

        鏡のなかに謎の自分を見たことで、だいぶ混乱をきたした彼。 疲弊して仮眠を取ることにした彼は、開け放たれたドア越しに見える階段を、眠りに至るまでのまどろみの中でヴィジョンとして視ていた。 その階段を上がってくる者がある。 トン……トン……という足音とともに、徐々にその気配が1階から近づいてくるのを感じる。 足音は1人分。 姿は見えないが、体重が軽そうな足音や何となくの気配から、彼はその存在が1階にいた2人とは違う人物であるのを感じていた。  すると、ヴィジョンが階段出口

        • 【小説】フラグメント/断章 第3節「ゲストハウス②」

          2階への階段を上がりきると、折り返して廊下がある。 廊下の途中、奥まったところにドアがある箇所が2つーーこれが個室なのだろうーー廊下の先にはやや広めの部屋があり、ここがドミトリーのようだ。 ドミトリーには廊下とを仕切るドアはなく、床はフローリングで、室内には貧相なパイプベッドが四隅に置かれている。うち2つのベッドの間にはドアが1つあるが、手洗い場だろうか? 中央にはソファもないのにローテーブルが置かれ、あとは壁際に観葉植物が1つ置かれているだけの簡素な部屋だった。 部屋の2

        【小説】フラグメント/断章 第6節「モーテル②」

          【小説】フラグメント/断章 第2節「ゲストハウス①」

          玄関ドアを開けると同時に、ドアに備え付けられたベルが鳴る。 彼がそこに見た光景は、入口より続くわずかな通路、その先にある部屋。 部屋の左側にはバーカウンターがあり、カウンター内に男が1人立っていて、カウンター客席にも1人の男が座っていた。 予想に反して2人の人間がそこにいた。 彼は玄関ドアから半身を侵入させた体勢でフリーズしつつ、状況を把握しようと2人の男に交互に視線をやる。 入口から見える範囲の様相は木製の家具が基調の洋風のおしゃれなバーのよう。 部屋にいたるまでの短

          【小説】フラグメント/断章 第2節「ゲストハウス①」

          【小説】フラグメント/断章 第1節「道」

          (あぁ……広い……飽きるほど広い……あとどれほど続くんだ、この道は……? いや、この世界は……か……) 見渡す限りに白茶けひび割れた大地。 幾重にも重なり連なる浅い轍が巨大な道となり、果てしない荒野の彼方まで伸びている。 その道を、彼は歩いていた。 彼は荒野の旅人らしく全身あちこち砂粒や石灰にまみれ、疲れたような気だるい足取りで、それでも休むことなく歩みを進めていた。 奇妙なことに空には太陽がなく、にも関わらず乾いた陽光が上空から絶えず降り注いでいた。 暑さを感じるような

          【小説】フラグメント/断章 第1節「道」

          【小説】フラグメント/断章 序節「荒野」

          空は青く、硬く乾いた広大で平らな荒野…… 点在するわずかばかりの枯れ草が、砂塵を散らす微かな風に揺れ、地表と同じ有り様の小さな丘が、台地型に隆起しているのがあちこちにいくつか見てとれる。遥か遠くにはそれよりは明らかに高いであろう白茶けた山の稜線が地平の広範に伸びている。 そんなひび割れた世界をゆらゆらと彼方にまで伸びる、幅広の大きな道の真ん中で、その者の意識は霞が凝固するかのようにゆっくりと顕在化していった。 ……歩いている。 道といっても一定間隔の範囲で幾重にも重な

          【小説】フラグメント/断章 序節「荒野」