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双色

 双色《フタイロ》の話をしよう。

 昔昔、ある島の海辺の洞窟に、双色という名の異人が住んでいた。見た目はヒトのようだが、片方の目が赤、もう片方の目が黒で、根の国の使いであるとされていた。年に一度、双色が洞窟から出てくると近くの村の人々は皆家に閉じこもり、戸も窓も厳しく塞いで楽土の神に祈りを捧げながらこれが去るのを待った。
 しかしこの双色は海神に遣わされて人の世の善悪を見守る神であったともいわれ、時折子供のいる家の前に立ち子供と何事か問答をして、その子の霊魂が邪悪なものであればたちまちいずこかへ連れ去ってしまったという。双色問答ののちに連れ去られなかった子供は神に認められた者として崇敬を集め、ゆくゆくは村の指導者として頭角をあらわしたそうだ。

 時代が進むともに双色はいつしか現れなくなり、今ではそれを模した祭礼だけが残っているということだが、近年は過疎化でもうその祭りも行われてはいないのだとか。

(とある村の古い民話)

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