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「ヒューゴの不思議な発明」で知る映画の誕生物語

こんにちは、夏目はるちかです。
2023年のスタートをきっかけにnoteでの発信を始めました。

2021年3月にオンライン部活ENERGEIAというプラットフォームで「星をもたない映画部」を立ち上げ、2022年8月からstand.fmで「もっと映画が好きになるラジオ」を始めました。

少しずつ発信規模を広げている最中なので、今年はnoteに挑戦しようと思っています。

さて今日から2023年の「もっと映画が好きになるラジオ」もスタートしました。
1月の配信テーマは「1895年までのアメリカ。”映画”前史」です。

今から128年前の1895年12月28日パリ。
キャプシーヌ街にあるグランカフェの地下一階「インドの間」でリュミエール兄弟がスクリーンに動く映像の投影を行いました。一般的な映画史ではこの瞬間が「映画の誕生」と記載されています。

当時の人々はまだ「映像」を見たことがなく、現実が同じ姿で映し出される様子に驚いたと言われています。

今や私たちの生活に映像は欠かせないので、映像を初めて観る驚きを想像するのが難しいですよね。
どんな気持ちなんだろう??ちょっとその体験をした当時の人々が羨ましかったりもします。

それにしても、まだ生まれてから130年も経っていないだなんて、「映像」という媒体はとても新しいメディアなんですよね。
まさか将来誰もが簡単にタップ一つで映像を撮ったり編集したりする世界が来るなんて、誰も想像できなかったと思います。

ところで、映画はどの様に誕生したのか知っていますか?
ーえ、だからリュミエール兄弟が上映会したんでしょ?

うん、そうです。
でもでも、リュミエール兄弟が上映した映画はそもそも「映画」として魔法のようにポンっと誕生したわけではありませんでした。

まずは「馬は走るときに4本脚が同時に地面を離れる瞬間があるのか?」という富豪の賭けがきっかけとなり、マイブリッジという写真家に連続写真の撮影が依頼されることでカメラが進化していくのですが、そのあたりのドラマチックなストーリーは来週からのラジオに譲り渡すとして、今日は「映画はどうやって今の映画になったのか」という根本的な話のスタートを切ろうと思います。

ところで歴史の”最初”って、ある程度その分野に詳しくなると面白いけれど、何の知識もない段階ではちょっとつまらないというか、、、眠い時間ではありませんか?笑

だから私は「もっと映画が好きになるラジオ」を歴史の最初、「映画」前史からスタートする自信がありませんでした。
何の文脈もない中で「1895年にパリで映画が誕生しました」と言われても面白くはないだろうと思ったからです。

だったら「ジョーズ」「スターウォーズ」「E.T」という誰もが知っている映画タイトルの力を借り、聞いてくれている人々の記憶という文脈を借りてスタートしよう、と思ったのが「もっと映画が好きになるラジオ」でした。
それでこのラジオは「1970年代ハリウッド」から始まっています。

その作戦が成功したのかはわかりませんが、少なくても「映画前史」から始めるよりは馴染みやすい音声配信になったのかなとは思います。

こうして今月からついに「映画前史」に取り掛かるわけですが、私なりに文脈を用意してきたとはいえ、最初からリュミエール兄弟の作品である「列車の到着」やジョルジュ・メリエスの「月世界旅行」を見てもらっても、なかなか楽しめないと思います。

歴史的に貴重な作品であることと、それを面白く観れるのかは全く別の問題だからです。

そうした意味で、今日紹介する「ヒューゴの不思議な発明」は劇中で「列車の到着」や「月世界旅行」が登場するので初期の映画を知り始めるには、とても良い文脈であると感じました。

監督のマーティン・スコセッシは、この作品について自分の12歳になる娘が見て楽しめる作品にしたいという想いで制作した、と話しています。

確かに監督のあふれる映画愛を感じつつも、少年少女が映画と出会う物語はワクワクする冒険物になっているんですよ!

■ヒューゴの不思議な発明
2011年製作/126分/アメリカ
監督:マーティン・スコセッシ
出演:エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ

◇ストーリー
駅の時計台に隠れ住む孤児の少年ヒューゴの冒険を、「映画の父」として知られるジョルジュ・メリエスの映画創世記の時代とともに描き出す。
1930年代のパリ。父親の残した壊れた機械人形とともに駅の時計塔に暮らす少年ヒューゴは、ある日機械人形の修理に必要なハート型の鍵を持つ少女イザベルと出会い、人形に秘められた壮大な秘密をめぐって冒険に繰り出す。

映画が誕生した1895年、この頃のアメリカは発明大国となっていました。

「金メッキ時代」と呼ばれる南北戦争後から30年間のアメリカは土地や公共事業への投資によって、何も持たない移民が豪邸を構える資産家へと成りあがる可能性を秘めた国でした。

そして発明品はそれ自体が投資先の一つでもあったのです。

新しいものを発明すれば、新し物好きの富裕層がそれを買い求めるため金銭が動き、それが一般に広がればさらに大きな富をもたらします。

南北横断鉄道、ベルが発明した電話、エジソンとテスラが争った電流戦争もこの時期の出来事です。

そのサイクルに乗って投資が成功すれば、あっと言うまに大富豪の仲間入り。誰もがアメリカンドリームを夢見たこの時期ですが、成功の裏側には必ず失敗がありました。
というよりも、ほとんどの場合が大失敗でごくまれに成功者が現れる、というのが現実だったのだと思います。

投機ブームに乗った挙句に無一文になる人が後を絶たず、歴史に名を残す発明がある一方で歴史から忘れ去られる発明も沢山ありました。

「ヒューゴの不思議な発明」はそんな、一見華やかな歴史の舞台裏を見せてくれるのです。

この作品に登場するのは「映画の父」として有名なジョルジュ・メリエス。
彼の代表的な作品「月世界旅行」は映画史の教科書には必ず載っています。

私も大学の講義室で「月世界旅行」を初めて観ましたが、この作品の重要性はさっぱり分かっていませんでした。

もちろん映画が好きで映画の授業を受講しているわけですが、まだ私には映画の誕生に対する興味がなかったんですよね。
でももし事前に「ヒューゴの不思議な発明」を見ていたら、教室の前のスクリーンに投影されたこの映画の印象は全く違っていたのではないかしら、と思うのです。

新しくこの世に登場した「映像」に魅せられたメリエスが素晴らしいセットの中で、新しい夢の世界を演出する。
そこにはメリエス同様に、映像の魔力を最大限に引き出そうと奮闘する沢山の人たちが動き回っています。

「月世界旅行」は、こんなにもワクワクする空間で撮影されたのかもしれない、そうイメージすることが出来たらどんなに良かったことでしょう。

そして「ヒューゴの不思議な発明」はメリエス映画の絶頂期と共に、その後の姿も見せてくれます。

成長期の映画はどんどん新しい映画人に開拓され、ビジネス的な価値も見出され、急速に変化を遂げていくことになりました。
これによって娯楽として花を咲かせていくのが映画なのですが、その過渡期には映画に対して変化を起こす者、富や名声を手に入れる者、映画に振り落とされる者、忘れ去られる者にハッキリと別れて行きました。

映画の前身である連続写真を発明した写真家エドワード・マイブリッジや
初めて映画の上映を行ったリュミエール兄弟、発明王エジソン、元手品師ジョルジュ・メリエスらは、自分の手を離れた映画が成長していく様子をどう見ていたのでしょうか。

煌びやかなハリウッドの世界に自分の姿を見ることが出来たのか、はたまた時代に忘れ去られた亡霊になってしまったと嘆いていたのか、映画の成長過程に登場する偉人達を想うと、少し切なさも感じてしまいました。

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予告はこちら↓


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