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現代語訳 羿射九日異聞 1

10羽の太陽の目覚め

昔々もたいそうな昔。
ときの帝は堯帝(ぎょうてい)という王様が治めておりやした。
堯帝は心底ビビりで小心者、自身の治める国はどうだ?とこっそり街頭インタビューしちゃうくらいにビビリ。
だがしかしそのチキンな性格が功を奏したのかその治世は大層穏やかだったそうな。

さてさてある時なんだかいつもより寝苦しいぞと早朝に目覚めた堯帝。
部屋の窓から覗く東の空がいつもよりも赤い。
そして暑い。真夏でももう少し涼しいのにと赤くなった空を見つめると、おやおかしい、自身の目がおかしくなったのか一つだけ登ってくるはずのお日様が多い。
寝ぼけてるのかと目をこすりもう一度目を凝らす。やはり多い。それも一つ二つじゃない。10個の太陽が昇ってきてるのだ。

やがて時が経ち太陽が本格的に頭上へと昇っていくと、一個でもポカポカ陽気で暖かだった大地だが、いつもより10倍多い10個の太陽の力で服を脱いでも暑い、体を冷やそうと井戸の水を被っても温水で熱い、こりゃ耐えられないと皆日差しの届かない影へと飛び込んだ。

これは天の道に何かが起きてると感じた堯帝は、四御の一人である天道を司る神の玉皇大帝(ぎょくこうたいてい)に祈祷を始める。
「玉皇大帝様、いつもより日が多いです」
「そういうときもあるじゃろ。わしも熱帯夜は寝苦しいからエアコン26度にして寝てるぞ」
「いえいえそういうレベルでなく尋常なく暑いんです」
「どれどれ」
と玉皇大帝が下界を見て見ると日替わりで出るはずの10羽の火の鳥がみんな一斉に出てきてることに気付いたのです。
「あのいたずら小僧共が。また掛け直す」
と堯帝からの電話の受話器を下ろすと玉皇大帝は
「羿(いー)だ。羿を呼べ」
と部下に伝えるのでした。

羿登場

「はいはい、あなたの羿でござんますよ」
と告げボサボサの寝ぐせヘアーを掻きむしる若者が玉皇大帝の元にやってきました。
パジャマ姿なことに驚く玉皇大帝でしたが、いつものことかと嘆息を吐くと
「ちょっくら地上に行って太陽達を脅かしてきなさい」
と羿に告げました。
羿は大きなあくびを手で隠しながら、首を振りました。
「いえ、いま手が離せない大事な要件があるので、ちょっと無理ッス」
「ほうそんな大事な用が・・・」
「ええ、そりゃもう片時も離せないというか、はい。」
玉皇大帝は顎に手を当てフムと唸る。
「ちなみにその用とは何じゃ?」
と羿に問いかけました。
「あのー、それはですね。あれですあれ。」
「あれ、とは?」
ゴクリと唾をのみまじまじと羿を見つめる玉皇大帝。
「あのー、PS5です。PS5Pro。もうじきソニーストアの予約開始時間なんで予約するためPC前で張りついてまして・・・」
「行ってこい・・・」
「・・・はい」

虹の弓

泣く泣く予約を諦め10羽の太陽を懲らしめる旅に出ることとなった羿。
肩をがっくりと落とし玉皇大帝の部屋を後にする。
「おおそうだ、羿」
と思い出したように羿の背中に声をかける玉皇大帝。
「はい?まだなにか?」
羿は訝し気な顔で振り返る。振り返った羿に向かい玉皇大帝は手を翳す。
すると羿の目の前に空を写したような朝日の赤から宵闇を表した黒までを描いたような美しい弓と白羽を誂え矢筒が現れた。
「その弓矢は新界の宝、神をも落とす神弓だ。それを使って」
「太陽を撃ち落としてこいと?」
羿は玉皇大帝の言葉を遮りながら答える。その応えに玉皇大帝は慌て
「ば、ばかもの!仮にも10羽の太陽は儂こと玉皇大帝の子だぞ!そんな物騒なことをいうんでない」
「え、じゃあどうしろと・・・」
「その弓矢を使ってお仕置きしてこい」
「お仕置きて・・・やっぱ撃ち落とせってこと?」
「”脅し”だけで十分じゃ。いいかあくまで脅すだけだぞ!」
「わー・・・っかりましたぁ」
不穏な声色の返事に一抹の不安を感じながらも、神界の弓使いにおいて右に出る者のいない羿を置いて適任者は他にいない。
「だいじょぶじゃろな、あいつ・・・」
大きなため息を吐き地上の王である堯帝に連絡をするためリダイヤルボタンを押す玉皇大帝であった。

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