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『わたしのイチオシきらら』企画応募文 《スロウスタート》

これなに?

まんがタイムきらら20周年企画 | わたしのイチオシきらら (dokidokivisual.com)
きらら系列のめでたい節目なので、好きな作品の感想文を送ってくれよな! っていう企画らしいです。そんでこれに応募したけど特に本誌には載らなかったやつを原型そのままで載せています。
要はこれ気合い入れたファンレターなので、どこにも載せずひっそり心に留めておきたい気持ちと、純粋に読み返すのが恥ずかしい気持ちもあるわけですが……まぁなんか最近はnoteの更新全然だし、せっかくこの世に生まれた文なのにひっそりパソコンの奥底に埋もれていくだけなのも少し悲しいので、ここに残しておきます。
自分が良いと思った物をおろかな埋葬しておくのがここの意義だって、ふと思い出したってのもある。

ちなみにGA芸術科アートデザインクラスでもう1本上げています。良ければそっちも見てね。

応募分


スロウスタートの魅力って?
そう問われれば、いくらでも挙げることができます。

丸っこいディフォルメが可愛くて、泣き顔や笑顔ひとつ取っても描き方が多彩で飽きないです。冠ちゃんの”表情豊かな無表情”も素敵です。

花名ちゃんが泣くときの『ちーちー』や、たまちゃんが起こるときの『プキー』を始めとした個性的なオノマトペがキュートで好きです。

軽快な会話劇や緩いノリのギャグが楽しい……かと思いきや、大胆な下ネタや妙に色気のある絵がぶっこまれて驚くこともあり、栄依子ちゃんと清瀬さんの描き方がやたら湿度高くてドキドキすることもあり。

そして胸が締めつけられるように繊細で優しく、それでいて小さじ一杯分の影もあるようなエピソードが、時折するっと入ってきます。単行本3巻にて、栄依子ちゃんが花名ちゃんに打ち上げた”小さな秘密”。その回をコミックFUZで読んでから、自分はこの漫画の単行本を買い始めました。

後から登場した生徒会のつづとつっくんの掛け合いが好きです。それに億果実さんがめ~っちゃ可愛いんですね。現在刊行分の中でもずいぶん後ろの方で初登場したキャラなのに、花名ちゃんとのやり取りが全部良いです。もしも叶うならば、彼女たちの姿もいつか映像で見てみたい。その願望を自分はまだ捨てていません。

こうしてちょっと書き出すだけでも、この漫画にはたくさんの魅力があります。しかしその一方で、これらのひとつを取り上げて、たった一言で「これがスロウスタートの魅力だ!」と言うには……なにを取ってもどこか違う気がしてためらわれる。そんな不思議で、どこかごちゃごちゃした漫画でもあるわけです。

そう。”ごちゃごちゃ”です。
1周遅れの高校生活をテーマにしたこの漫画は大きな夢を追いかけるわけでもなければ、ストーリーに分かりやすい定番や一本筋があるわけでもなく。展開される話にも前述したとおり振れ幅があり、色んな要素があちこちに散っています。

花名ちゃんだって、いわゆる”主人公”にしてはあまりにもよく泣いてよく凹みます。周囲と比べて尖った個性があるわけでもなく、本当の本当に”1年遅れの高校1年生”という事実だけが、かつての彼女を辛うじて主人公たらしめている要素でした。
花名ちゃんがそ~んなに目立たない分、周囲の人の個性が際立つ。それもきっと、”ごちゃごちゃ”を形作っているひとつなのでしょう。

だけどそういう子を真正面から主人公として、10年以上もじっくりと描き続けてきたことに、スロウスタートの醍醐味が宿っているのだと自分は思います。

花名ちゃんは、いつも本当に小さなところで戦っています。傍から見れば些細であろうことでも見落とさず、よく考える。それで不安になって、よく泣いて、回りの人に助けられたり自分で頑張ったりして、最後にはいつも笑顔でまたひとつ、楽しい思い出に変えていく。
そうしてゆっくりと1つずつ、思い出と経験を積み重ねることの心地良さを、この漫画は教えてくれます。大きな夢を目指さなくても、恐ろしい困難が立ち塞がらずとも、確かに前に進んでいる。そう感じられる瞬間がこの漫画にはあります。

気づけば友達との距離が縮まっていたり、自分から何かを始めようとしてみたり、少しずつ部屋に物が増えてきたり。そうやって積み重ねたものを振り返るための時間がこの漫画には多々あって、時折訪れるその時間が大好きなんです。

11巻にて花ちゃんのお部屋を、花ちゃん自身が奥さんと2人して「お花が咲くみたいに」って例えた場面が大大大好きです。スロウスタートを良いところって、きっとそういうところなんだなと。改めて感じたワンシーンです。

なんでもないように見える。ともすれば目をくれることさえなく通り過ぎてしまいそうな日常の中から小さく大事な物を見つけて、ゆっくりと拾い上げていく。それがスロウスタートの醍醐味ならば、前述した”ごちゃごちゃ”だって立派な魅力です。

キュートで明るいコメディからしっとりとした恋愛模様まで幅広く描ける作風が、この世界に自由を与えてくれます。ひとつの本筋に縛られず、多彩なキャラクターが好き勝手に日常を過ごすことで、自然と実在感のようなものが生まれていきます。次はなにが描かれるんだろうと、楽しみにもなります。

どうにも一言では説明しづらい、けれど確かにスロウスタートだけが持つ日常の描き方。それが自分は大好きです。

なんでもない日々をゆっくり歩いていけること。日常の中にある幸せをひとつずつ拾って、少しずつ成長していくこと。それがこんなにも面白い漫画になっていることに日々励まされています。

そしてこうして10年も続いて、愛されて、多くの人に読まれている。そんな現実に救われるものもあります。10周年記念のマグカップ、デザイン可愛すぎるので大切に飾ってあります。これが今後マグカップとしての役割を果たされることはあるのでしょうか。

この漫画を読んで、この漫画のことを想っていると、ちっぽけな自分でも、少しずつでも前に進んでみたくなります。

自分と花名ちゃんと重ねるなんておこがましいことはできませんが、それでも花名ちゃんが笑ったり泣いたりしながら楽しく生きているのを見ると、それだけで勇気と元気をもらえます。自分も日常をひとつひとつ大事にしていきたいと、そう思わせてくれます。

――しあわせは、ゆっくりはじまる。

アニメ版のキャッチコピーがあまりにもピッタリ過ぎて、初めて知ったとき腰を抜かしました。なんか自分、この漫画のことを”一言で説明しづらい”とか言ってた気がしますけど。こうして長々と語ってきたわけですけど、ぶっちゃけこのコピーひとつだけでいいんじゃないかな?

そのゆっくりなしあわせをもって、自分のそばにあってくれて、辛い日々を癒やしてくれる。楽しい日々をもっと楽しくしてくれる。小さな幸せと素直に向き合い、少しずつ前に進む尊さを忘れさせないでくれる。それが自分にとってのスロウスタートなのだと、こうして感想文を書いていて改めて思いました。

だからこれからもゆっくりと、この漫画らしい早さで歩いていってください。篤見唯子先生の描く可愛さも色気も賑やかさも、そして優しさも、その全部をずっと愛しています。


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