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ゲーム感想『ナツノカナタ』。ちょっと不便が中々面白いADV

感想を書きたくなる時。今回のゲームについて

久々のゲーム感想ですね。キーボードを叩きたくなるゲームを遊んだから、こうしてキーボードを叩いています。今回のゲームはこちら。

ナツノカナタ natsuno-kanata | テキストアドベンチャーゲーム「ナツノカナタ」

――古ぼけたコンピュータの向こうから、知らない少女の声がした。

ナツノカナタ公式サイト『イントロダクション』より

ひょんなことから手に入れたPC。そのモニターになぜか映ったのは、終末世界とそれを旅する女子高生。プレイヤーは彼女の旅をモニター越しに見守りながら、PCの謎や世界の真相に迫っていく……というゲームです。ジャンルはテキストアドベンチャー。
このゲーム、なんと値段は無料だということで、ボリュームも値段相応かな……と思っていたら、なんか想像以上にがっつり遊べるなぁ! プレイ時間は8~10時間くらいですかね。クリア後のやりこみ要素はあまり触っていないので、人によってはもっと遊べるかもしれません。

それはそれとしてこのゲームですが、文字通りテキストによるアドベンチャーであることが核となっています。テキストと言う以上、もちろんストーリーパートはテキスト中心で進行します。キャラの立ち絵は1種類しかなく、背景も殆ど変わらない。だい~ぶ簡素な作りです。
まぁそこだけ見れば普通に安っぽいノベルゲームといった感じなのですが、そこにこのゲーム特有のシステムがひとつ加わることで、このゲームに”らしさ”が生まれました。
それは探索パート。終末世界といえばゾンビ。ゾンビといえば探索なわけですが、このゲームも例に漏れずゾンビ蔓延る終末世界を探索して、時には戦うこともあります。そしてこのゲームはテキストアドベンチャーの名の通り、探索さえもテキストで行われるのです。

このゲームの特徴。探索パートについて

彼女がナツノちゃん。このゲームの主人公?ヒロイン?相方が一番適切かも。

探索パートになるとテキストがある程度オートで流れるようになり、操作キャラは勝手に周囲を探索し始めます。そこにプレイヤーがテキストを打ち込むことでキャラクターと会話をして、探索をコントロールしていく……というのがおおよその進行方法になります。
たとえば特定の場所を指示することでキャラに物色させることができます。あるいはアイテムの名前を打ち込むことでその使用、武器防具の装備なんかもできます。

そう、武器防具。
この作品もゾンビ物の例に漏れずゾンビと殴り合うわけですが、この作品でそれをやると釘バットやハンドガンを装備したJKがテキスト上で淡々と『腕から鉄パイプが生えた感染者』みたいなゴツい名の敵をしばいていく絵面になります。このゲーム、ダメージが数値で出ないしキャラのリアクションも薄いから、戦闘が本当に淡々としてるわけですね。ちょっとヘンテコでちょっと面白い。

探索パートが、ちょっと不便で中々面白いという話

実はこの探索パート、スキップしてストーリーだけを読み進めることもできます。世間における探索パートの評判も、まぁまちまちって感じです。
が、しかし個人的にはこれがどうにも妙に好きで。なんならこれこそ、このゲームの味わい深い点とさえ思っていて。
例えば勝手に動き回るキャラクターに指示しか出せないもどかしさが、テキストを打つ間に話が勝手に進んでいく慌ただしさが、『モニター越しに話しかけることしかできない』というプレイヤーの設定と相まって、ちょっとワクワクしてきます。
テキストだけで話が進むのに、ちょっと忙しなくて反射神経を使う。この感じが新鮮かつゲーム性を高めてくれているんですよね。
道具やステータスを覗く間は時が止まっているので、このへんほどほどにヌルいのもgood。こういうのは変にむずいとストレスが溜まるタイプ。

それで、ストーリーの最中には2人のキャラと一緒に探索する場面も出てくるのですが、こうなると慌ただしさも2倍になるわけで。

中々魅力的なキャラデザインもあって、見るところが……見るところが多い!

左右のテキストが同時に勝手に進んでいきます。このゲームはキャラ毎に体力、空腹度、荷物が存在しているのでその変動も見守りつつテキストを打っていかなければいけません。これが中々忙しくてアクションゲームでもやっているような錯覚も覚えますが、無事探索を終えて一息つけば、なにやら一仕事した気分になれるので不思議なものです。

ストーリーと地続きで繋がるテキストでどこか淡々と、そして忙しなく探索をして、どうにも空き容量の少ないバッグにちょっとした成果を詰め込んで帰る。一度帰ればステータスは全回復するので、また妙に淡々とした探索に出て……という繰り返しが妙に小気味良い。
全てがテキストで進行するゆえにちょいちょい不便な点もあるのだけど、それらもテキストで読み進める上での風情かな~と浸れるくらいに、プレイ中は楽しんでいたと思います。
と、探索パートについてあらかた説明しましたが、テキスト主体である以上、ゲームとしてのメインストリームはやはりそこで綴られる物語にあるのでしょう。というわけで、そちらも軽く触れておきます。

ストーリーについて。終末世界と夏の旅

パンデミックが起きた終末世界の真相を追っていくゲームなので、衝撃の真実というやつも当然あります。なので深くは話せませんが、実のところ衝撃の真実を紐解くことに関してはそこまで重要視されていません。どちらかと言えば、それらと向き合う登場人物たちの心の在りようを色濃く描くことに力を尽くしているように感じました。
この辺、筆者個人の感覚としては好きが半分、そうでもないが半分。例えば終盤にいくほど同じ場所でぐるぐる悩むシーンが増えていくことにそこそこ退屈感を覚えたりもしたわけですが……その一方作中で何度も出てくる『生きている意味を見出すのが難しい世界で、人は何を”よすが”に生きるのか』という問いは興味深く、共感できるところも多々ありました。
そういう意味では、メインストーリーとは別に用意されたキャラ固有のストーリーの方がこの物語のテーマに沿っているのかもしれませんね。なにせそこでは世界の真相とは関係なしに、ストーリーの主軸となるキャラクターたちが終わった世界とどう向き合って生きるのか。それが短いながらも濃く丁寧に描かれているわけで。

実は本編より私にとって深く刺さった、剣道少女ミナモちゃんのストーリーでした。

世界が終わったならせめて大切な物だけでも守ろうとする人。世界が終わって、初めて自分のやりたいことを考えた人。自分を縛る全てが消えて、初めて生を実感した人などなど。後味の良い物もあれば悪い物もあり。
そんな人々の営みを緩やかに眺めながら、淡々としたテキストと、素朴ながら可愛らしいキャラデザインと、静かで綺麗なBGMと一緒に夏の終末世界を旅していく……世界の真相がどうとかより、そんな旅情そのものに重きを置いた作品なのだろうと遊び終わった今では思います。
イヤホンでもして1人だけで、のんびりやるのが個人的にはオススメかと。

総括。良いところもそうでないところも、全部含めての。

さてここまで色々話してきましたが、ぶっちゃけこのゲーム。優等生的なものかと言われると、そうでもないとは思うんですよ。
主に終盤に感じたある種のクドさや賛否両論ありそうな着地点などに、筆者はちょいちょい首を傾けました。全てをテキストだけで進行させるUIに野暮ったさを感じる人もいるでしょう。戦闘シーンの淡泊さは緊迫感を削ぐノイズともなりえますし、道具の整理やクラフトの手間など、システムゆえの風情……というにはぶっちゃけ普通に不便じゃねこれ? という細部への甘さも少なからずありました。

ただ、そうだなぁ……そういった荒削りな点も含めて作者のやりたいこと伝えたい物を剥き出しでぶつけられているような感触があって、どうにも悪くないと思えてしまうんですよね、このゲーム。じゃなきゃね、感想なんて書かないわけですよこうやって。
そんな、良さも悪さもインディースらしいゲームだったナツノカナタ。これを遊んでこの記事を書いている今はすっかり秋なわけですが、もしも興味を持たれたというのなら、夏真っ盛りに遊ぶのも良し。夏が恋しくなったら遊ぶのも、それはそれで良しですね。小さなモニターの向こうに広がる青天井と蝉の声。そんな光景を見たくなったら、ぜひ。

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