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よりみち通信18 ブック・カウンセリング「医療」―日本の医療制度は、優れているか否か―

新型コロナウィルスが蔓延し、毎日のように「医療がひっ迫している」との報道を見ます。

しかし一方、この森田洋之『医療経済の嘘』(ポプラ新書)によれば、日本の病床数は世界一多いとのこと。え、日本の医療制度って一体どうなっているの?

実は「病床数≠死亡率」というのは、医療の世界では常識らしいのです。病床数が多いとそれだけ費用がかかるので、とにかくベッドを埋めなければいけない。そのためには、本来必要ないはずの人まで「社会的入院」させられ、その地域の医療費は跳ね上がる…。

そして、病床に比べて医者の数はなかなか増やせないので、医療そのものの質は下がる。一見、良いように思える病院と病床の増加が、私たちの救いにはなっていなかったという現実に驚きます。


では、どうしたらよいのか。そのヒントは「プライマリ・ケア」という言葉にありました。身近な医師による総合的な医療、という意味です。日本では「かかりつけ医」という言葉がありますが、それとは少し違って「総合診療専門医」という患者の状態を初期の段階で的確に診断できるスペシャリストを要します。

葛西龍樹『医療大転換』(ちくま新書)では、その「プライマリ・ケア」について、これからの日本の医療制度を形作るうえで欠かせない考え方だと紹介。3時間待ち3分診療や社会的入院の解消、多すぎる投薬や検査の解消にもつながるといいます。何より、近所にいる信頼できる医者と長く付き合えるメリットは、私たちに安心感をもたらしてくれます。

まだまだ普及していない「プライマリ・ケア」ですが、この考え方があれば、コロナのワクチンなどもスムーズに接種できるようになるのではないかと思いました。

国民皆保険制度は日本が誇る素晴らし仕組みですが、医療制度はまだまだ改善の余地がある、そのことを確信させられた2冊の本でした。(小笠原千秋)

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