見出し画像

よりみち通信10 ブックカウンセリング “家族”と暮らす –暮らしを問い続けること–

緊急事態宣言発出からの、国民一人当たり10万円の給付金支給の決定――仕事を失ったり、収入が減ってしまったりした人が多くいる中、その措置については(金額やスピードに欠けるにせよ)評価したいと思うのです。が。

違和感を持ったのが、「世帯主に対して振り込まれる」というその給付方法。なぜに個人宛てではないの?日本は「家族」という単位を様々な物事の基準にすることが多いけど、そもそも「家族」って何なんだろう。

血縁?住まいが一緒なこと?同棲は?ペットは?…考え始めると止まらない「家族」の「?」を解き明かすヒントになる2冊の本をご紹介。

 
南森忠晴『正しいパンツのたたみ方』(岩波ジュニア新書)の著者はもともと英語の教員でしたが、「自分の暮らしを自分で作りあげる力をつける」教科である家庭科の魅力に取りつかれ、家庭科の教員に変身します。

生徒たちと繰り広げられる「お弁当を自分で作ってみる」「なんのために働くの?」「家族って、“誰”?」といったワークショップは、私たちが「普通」とか「当たり前」と思い込んでいた暮らしのあれこれに対して、「本当にそうかな」と考え直すきっかけをくれます。

タイトルにある「正しいパンツのたたみ方」は本当に存在するのか。あるとすれば、それはどんなものなのか。それは「家族」と同じように、常に問い直し続けていくことによってのみ存在するもののような気がします。

 
その“問い直し”を続けることによって成立しているのが、最近話題の「シェアハウス」というものではないでしょうか。阿部珠恵・茂原奈央美『シェアハウス』(辰巳出版)では、他人と「暮らす」若者たちのリアルな姿が赤裸々に紹介されています。

なぜ他人と共に住むという選択をしたのか――節約のためだったり、さみしさを紛らわすためだったり、理由は様々ですが、それが「楽しい」と思えるように一人一人が様々な工夫を凝らして、暮らしを成り立たせているということが垣間見えるのがとても面白い本です。

恋人の連れ込みはOK?家事はどうやって分担しているの?そんなトラブルになりそうな事柄を丁寧にすり合わせ、お互いの価値観を問い直していく過程こそ、人々が「家族」になっていく過程のような気がします。言い換えれば、そのすり合わせができていない家族は、家族として成り立っていると言えるのかどうか…。

そして。これから配られる10万円の給付金を家族で一緒くたにして使うのか、個人個人に分配して使うのか。その話し合いから「家族」というものの“問い直し”が始まっていくのかもしれません。

(小笠原千秋)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?