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よりみち通信13 ブックカウンセリング 「川」  ―私たちを生かすもの、私たちが生かすもの―

先月末の豪雨災害では、我らが山形の最上川があんな風に豹変することに驚いた人も多かったのではないでしょうか。

そんな「川」による災害の歴史と私たちの社会との関わりを紐解く本が、高橋裕『川と国土の危機』(岩波新書)です。

これまで日本で起きた水害の記録を記すとともに、どうしたら森と海に囲まれたこの日本が、豊かに安全に暮らせる土地になるのかを考えます。

そもそも、自由に変化を繰り返しながら「動いて」いた川を自分たちの都合の良いように作り変えてきたのは、われわれ人間です。それによって魚は消え、土壌の豊かさも失われ、川は自由を失って暴れるようになったのです。

川の傍に人間がいなければ、たとえ洪水があっても「被害」は生まれない…その根本に気づかなければ、いつまでも「人間vs自然」の対立の構図から逃れられない、そんなことを考えさせられる一冊でした。

また、笹山久三『四万十川 1~6』(河出書房新社)は、貧しさにあえぐ生活を四万十川の恵みによって支えられながらも、近代化の波に翻弄され、成長と変化を余儀なくされていく一人の少年とその家族を描く物語です。

毎日のように鰻や鮎や蟹を捕まえ、風呂水を汲み、友達と戯れる……豊かさの象徴としての「川」。しかし一方で、台風による洪水で一晩にして家を押し流し、生活の基盤を根こそぎ奪ってしまうのも、その「川」であったのです。

自分たちの命を守る/命を脅かす…そんな両義性を持った存在である「川」とともに生きるとはどういうことなのか。

主人公の篤義が(大人)社会への葛藤と矛盾を抱えながら生きる姿と、その「川」の両義性が重なり合い、物語は人が生きる「喜び/悲しみ」を重層的に映し出します。

川に限らず、人間と自然とがともに生きることは矛盾と葛藤抜きにはできないことなのかもしれません。

(小笠原千秋)

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