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先人に学ぶ

先日入居者の方をお看取りしました。

97歳で天寿を全うされました。

若い頃は、大東亜戦争にも出兵されたご経験のある方で、祖国日本の為に命をかけて戦って来られました。

その後は戦後の日本を見事に復興させ、現代日本の礎を築き、最近では東日本大震災という大災害も乗り越えてこられました。

そんな歴史を歩んできた方と関わりをもてるのは、とても光栄なことだし、貴重な経験をさせていただけていると実感します。

専門職としてサービスを利用される方を「支援している」つもりでも、逆に「気づかされる」ことの方が多く、沢山のことを学ばせてもらっています。

この場を借りてご冥福をお祈りいたします。

実はこちらの入居者は、ご夫婦で入居をされていました。

入居した時期は違いますが、亡くなられたご主人は、後から入居した2歳下の奥様のもとへ何度も足を運んでいました。

入居してから数ヶ月は

「ばあさん、家に帰っぞ」

…と奥様を連れて何度も家に帰ろうと試みていました(笑)

(奥様が入居される前はご自宅がすぐ近くなので、よく歩いて帰っていました)

奥様からは

「爺さん、もう家には帰れないの!」

…と言われて渋々自分のユニットへ戻られていました。

(ご夫婦なので、同じ部屋で過ごすことも本人達や長男夫婦と相談しましたが、奥様が断固と拒否をされたので、別々のユニットで過ごされていました)(笑)

話を戻しまします。

ご主人が戻ると、スタッフに対して奥様が

「ごめんなさいね、うちの爺さんは若い時は消防団をしたり、区長もしたんだけど、すっかりボケてしまって」(奥様の言葉原文のまま)

…と仰います。

しかし、私が働くグループホームは認知症対応型の施設です。

お二人とも認知症です。

奥様も短期記憶が大分低下しており、何度も同じ話をされます。

そんなお二人の話題は事欠かさないのですが、我々スタッフが逆に元気をいただいていたことが多かったような気がします。

ちなみに施設に入居している方が家に帰る発言をすると、いわゆる「帰宅願望」と言うレッテルを貼る施設もまだまだ多いのではないでしょうか?

認知症と言う病気を利用して、

「明日帰れるから」

と嘘を言って閉じ込めている場所もまだまだあると聞きます。

私の事業所は契約の段階から本人に同席をしてもらい、忘れることは承知の上で、何度も何度も「この場所が新しい家である」ことを毎日繰り返して伝えていきます。

認知症だから嘘をついて騙すことは決して許されません。

それに今入居されている方々の殆どは、自分の意思で入居をしていません。

入居前に同居する家族がご自宅で面倒を見ることが出来なくなってしまい、「家族の意思」で入居をされています。

当たり前だと思いませんか?

何十年と住んだ自分の家に帰りたいと思うのは…

それに家に帰ると仰る方は、場所の見当識が維持できていることも、関わる上での大事な情報として知ることが出来ます。

(認知症になると中核症状の一つに見当識障害と言う、時間・場所・人の概念が低下する障害が起こります)

話をまた元に戻します。

私は最期を看取ることは出来ませんでしたが、職員から報告を受けた内容を話します。

ご主人は夜中の3時過ぎに亡くなられました。家族は勿論、地域の方々も来られました。

そして反対側のユニットにいる奥様も亡くなる前に会うことが出来ました。

その時に奥様も悲しまれていましたが、朝になりどうだったか聞くと、

「なんだか嫌な夢を見たみたい」

と仰っていたそうです。

体は忘れていても心が覚えていると感じたやりとりだと思いました。

次の日に奥様になんと声をかけて良いか分かりませんでしたが、とりあえず様子を見に会いに行きました。

ソファーに座っている隣にお邪魔をして挨拶をし、いつものようにTVの話題を話してくれました。

私の目にはいつもと変わらない様に見えましたが、いつもと変わらないように生活をされている奥様の眼を見た時に、何だか涙が止まりませんでした。

ご主人も大変素晴らしい方でしたが、奥様も気丈で強い心の持ち主だと感じました。

私達が支援することは

ご飯を食べさせて

お風呂に入れて

下の世話をすることではありません。

人と人との付き合いです。

だから、心を支えるのも仕事です。

奥様は事実を話さなければ忘れているかもしれません。

しかし、ご主人を亡くした悲しみを支えていきたいと強く思っています。

長文になりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。


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