ニチイ学館のMBO

株式会社BCJ-44(「公開買付者」)による株式会社ニチイ学館(「ニチイ学館」)の株券等に対する公開買付け(https://www.nichiigakkan.co.jp/topics/assets/99b20eb8b9ed5addf8ee94f4977245225d76471e.pdf)ですが、各種論点がある中で、一つ関心を集めたのは、ニチイ学館の株式等だけでなく、合わせて、資産管理会社であって、ニチイ学館の筆頭株主である株式会社明和(「明和」)に関し、明和の唯一の株主である個人との間で公開買付けと同時に、公開買付者が当該個人から明和の発行済株式の全てを譲り受けることを明らかにしている点です。公開買付において、買付対象となる株式等を保有するいわゆる資産管理会社の株式等を取得することはいわゆる「間接取得」として公開買付規制の潜脱とならないかが論点とされてきています 。
この論点が過去において一番大きく取り上げられたのは、2010年冬に行われたKDDI株式会社による株式会社ジュピターテレコムへの資本参加ではないかと思いますが、当時は金融庁からの指摘に基づいて間接取得によるスキームは大幅に変更する形になりました(https://www.kddi.com/corporate/news_release/2010/0212/)。
今回は、当該事案が行われた後の2010年3月31日付で発表されている株券等の公開買付けに関するQ&A問15(https://www.fsa.go.jp/policy/m_con/qanda.pdf)の回答に準拠する形で間接取得を行いました。なお、回答の中身は以下のとおりです。

「当該資産管理会社の株式の取得とともに買付者又は当該資産管理会社により対象者に対する公開買付け(買付予定数の上限を定めていない)が行われ、当該公開買付けにおける公開買付開始公告及び公開買付届出書において資産管理会社の株式の取得を含む取引の全容が開示されるとともに、当該資産管理会社の株式の取得における価格に相当性があると認められる場合(資産管理会社が所有する対象者の株券等が公開買付価格と同額以下に評 価され、かつ、他の資産の評価の合理性につき公開買付届出書において説明がなされている場合等)など、取引の実態に照らし、実質的に投資者を害するおそれが少ないと認められる場合には、この限りではないと考えられます。」

当該回答は、間接取得に関しての金融庁の見解であり、今回の公開買付届出書にはかなり詳細に明和の株式取得に関しての記載がなされているところです。

なお、先行事例としては、

1. 2012年のウシオ電機株式会社による株式会社アドテックエンジニアリングへの公開買付における株式会社ミズタニ株式の取得(https://www.ushio.co.jp/documents/NEWS/ir/ir_20120213.pdf
2. 2014年のN&Cカンパニー株式会社による株式会社コーコス信岡への公開買付における株式会社ノーブル株式の取得(http://ke.kabupro.jp/tsp/20141105/140120141105073937.pdf

があり、今回のニチイ学館への公開買付によってより一層間接取得に関する実務的スタンダードが定着したと評価できるのではないかと考えます。

追記メモ

2020年8月18日に株式公開買付が成立し自己株式を除いた発行済み株式数の82.27%を公開買付者が取得したと発表されました。この結果、株式売渡請求ではなく株式併合によりニチイ学館を公開買付者の完全子会社とすることになろうかと思います。なお、5月8日の適時開示によると公開買付者の子会社となる明和のニチイ学館の株式は一定程度残るので株式併合によっても一部は間接保有として残るようです。

また、5月8日の適時開示によると

「対象者の代表取締役社長である森信介氏(以下「森氏」といいます。)は本公開買付け成立後も継続して対象者の経営にあたる予定であり、また、企業価値向上のために共通の目標を持っていただくため、公開買付者に対して直接又は間接に出資することを検討しております(その具体的な金額や時期については現時点では未定ですが、再出資を行う森氏、寺田大輔氏、寺田剛氏及び寺田啓介氏には、それぞれ、所有する対象者株式及び本新株予約権を本公開買付けに応募することにより取得した対価の範囲内でその一部を出資していただくことを想定しております。以下、森氏、寺田大輔氏、寺田剛氏及び寺田啓介氏による各再出資について、同じです。)。また、対象者の代表取締役副社長である寺田大輔氏(注2)
は、対象者の創業者であり前代表取締役会長であった寺田明彦氏(以下「寺田元会長」といいます。)の親族として引き続き対象者を支援する意向を有していることを対外的に明確化することを期し、公開買付者に対して直接又は間接に出資することを検討しております。また、対象者の常務取締役である寺田剛氏(注3)は、引き続き対象者の経営に関与し、また、企業価値向上のために共通の目標を持っていただくとともに、寺田元会長の親族として引き続き対象者を支援する意向を有していることを対外的に明確化することを期し、公開買付者に対して直接又は間接に出資することを検討しております。また、寺田元会長の親族である寺田啓介氏は、寺田元会長の親族として引き続き対象者を支援する意向を有していることを対外的に明確化することを期し、公開買付者に対して直接又は間接に出資することを検討しております。 」

とのことなので、今後公開買付者に対して経営陣・創業家がどの程度の割合及びバリュエーションで出資していくのか気になるところです。特に、元々ニチイ学館の株主だった方々に関しては、公開買付に応募して支払ってもらった金額の一部を再出資することになりますが、公開買付価格を引きあがたことがどのような影響を与えるのかは気になるところです。

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