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コロ休みアダルト文庫『片手間』前篇

唐突ですが、「コロ休みアダルト文庫」です。
2回に分けてお届けするのは、
平和(たいらなごみ)作 『片手間』
ハーモニー発のちょっぴり大人のハードボイルドお楽しみください。
どうしてアダルトかって?
そりゃ、決まってます。
エッチだからです♡ 

....どうぞ!


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片手間
作:  平 和(たいら なごみ)

「ねぇ。明日、19時半にGINZA SIXに来てよ。僕の誕生祝いを友達がやってくれるって言うの。トシさんを自慢したいから♡」
「……暇になったら連絡する」
「あっ! フンッ。まぁ、良いや」
 男は青年…否、少年には目もくれずその部屋を出ると、さっさと自宅マンションに戻った。
 身体はまぁまぁ。開発の余地がある分がOK? 顔は可愛い系。クルクル天パはアッシュブロンドに染められていて、大きくて溢れそうな黒目がちな瞳は良く動き、お喋り大好きな大学3年生。訊いた話に依ると、早々に内定を貰っているそうで、齷齪(アクセク)企業面接に向かう連中を小馬鹿にしている。
 そんな大学生とは、外回りで雨に降られた日、たまたま同じ軒下で雨宿りし目が合った。それが縁で、何となくこの2ヶ月余り身体の付き合いを続けていたが、それ以上以外の必要性も重要性もないので、明日の事なんざ知ったこっちゃない。
 広々とした自分のベッドでグースカ寝て、翌日も元気に出勤。
 車は、マンションに5台、社にも3台置いているが、窒息しそうでも電車とバスの方が遅刻はしないで済む。ラッシュ時の都内の道路事情は、腹が立つ。程度なら良いが、収まらなかった時に困るし、迷惑も、更に心配も掛けちゃうと思うので、お利口に電車とバスを使っている。とは申せ、下りに乗るので窒息はしない。
「おはよ〜ございま〜す!」
「ああ。おはよう」
「おはようございます!」
「おはようございます」
 男が社のエントランスに姿を現わすと、彼方此方から声が掛かった。それに、にこやかに返す。
 男の名前は田口俊(タグチシュン)。表会社用の、部下思いで優しくて頼り甲斐がある人の良い小太りの二枚目半の重役待遇の営業部部長、を演じるのも、これで中々大変なものだった。何しろ、役職以外の対人用の印象は、どれも持っていない。しかし、なくせない。本業である二足目の草鞋を円滑にこなす為だけの、実に表面的な問題だから、気を張ってなきゃならない分面倒だし疲れる。
 その日も21時迄残業して…たら、本業でお呼びが掛かっちゃった。部長は、アメリカ出張。
 出張は間違いじゃない。アメリカも当たっている。NY? うんうん。立ち寄ったね〜。支社あるから。でも、お仕事先はシアトルなんだなぁ。けど内緒。田口部長は、NYのお取り引き先の重役にご指名受けての商談中・なのです。この、商談に費やされたらしいNY時間の2泊3日で、アメリカの人口が、ほんのちょっぴり減った。
 ほんの1,500人弱。
 1面トップだった。
 世界中を駆け巡った。
 何分にも、万全のセキュリティを謳っていた、シアトルの市街地にそびえ建つ、地上75階地下5階からなるタワーマンションが、真っ昼間いきなり倒壊したのだから仕方なかったろう。専門家と呼ばれる先生様方の稼ぎ時だ。アレコレと、尤もらしい事を神妙な口調と表情で語ってくれちゃっているけど、これは自然倒壊ではない。こりゃ、たった1人がたった1人を消す為に演出したショーだ。巻き添えを食らった1,499人にはお悔やみも申し述べるが、やったらイカン事をやれば、罰も当たる。女房子供は連帯責任。一族根絶やしじゃなかった事に、感謝して欲しいものだ。当人も、外に出たらいつ殺されてもおかしくない、という自覚があったから外出しなくなったんだろうし、ならば余計に、仕掛けは派手にしないと見せしめにならない。
 と、言う訳で、魔王のお仕事完了。と同時に、部長の仕事も終わり。
 飛行機の中で寝倒して、着いた日だけの休みで翌日から通常勤務。
 常日頃から不満だらけだったらしい魔王が、憂さ晴らし出来たらしくて、何処かしら足取りも軽いような気がして怖いです。
 そんな変化、呑気な表社員に判る訳がない。判るのは、本業にタッチしている二足の草鞋組連中。気付くなり、距離を取る。逆に距離を縮める表社員に、怖い物知らずと内心で思ってる。だって、呑みのお誘いとかしているんですものぉ。怖過ぎます。
 1週間振りの日本。
 酒がうめぇ。
 部長の急な出張はいつもの事なので、疑う表社員なんて居やしないが、労われる労はなかったけど労って貰おうじゃんと、わざわざ定時に上がって表社員数人と呑みに出た。これも、本業を円滑に進める為に必要なお付き合いだ。
 夜20時にはお開きになり、それで気分が良くなった俊はどうしようと考えて、1番新しい情人に連絡を付けた。そして、いつもの都内某一流ホテルロビーで落ち合い、同じホテルに年の単位で借りてる部屋に向かって情を交わした。
 元々絶倫の遅漏なのだが、今夜は良い感じ(だから、ボトル単位)で酒が入っている疲れマラだったから、30分犯っててもイかない。
 犯られてる側としては辛かったけど、文句の一つでも言ってやりたかったから我慢した。
 2時間後。
 やっと1発イってくれて、でもこっちは5発もイかされていた。いくら若いからったって、1回に5発は辛い。しかも、その間中ずっと突き上げられていた訳だから、くったりもしよう。
 けれど、俊はケロッとしている。然もありなん。彼は1発しかイっていない。はっきり犯り足りない。だから、伸びてる奴になんて用はないと別の情人にmailして、バスルームに消えた。
 そんな俊を、ムッとして睨み付ける。労ってもくれないの? 1週間も放っておいてさ!
 良い家庭に生まれ何不自由なく育ち、国立大学に通っている少年は、ちょっとした悪戯心で俊が脱ぎ散らかしていた背広の内ポケットから名刺入れを取り出した。そして、中を確認した上で、1番枚数のあった名刺を、スマホの名刺リーダーで読み取り、元に戻した。それから、散らされていた衣服を纏めてソファの上に置いて、自分の立ち位置が不自然じゃないようにした。
 俊のスマホには、敢えて触れていない。何処の誰にmailしたのか気にはなったが、今は色々とセキュリティがある。
「ほろ酔い気分が冷めた〜」
「え〜! 酔ってたの〜」
「ああ」
 ガシガシと、バスタオルで頭を拭いて、次いでに滴り落ちる汗を拭う。そして、さっさと服を着始めた。
 その手を止め、スマホを弄ってmailの返信を確認する。どの情人も、俊からの誘いなら二つ返事だ。俊に惚れない情人なんて居ない。自分だけのモノにしたい、となら思うが、付き合いが長くなるとその思いも消える。彼の抱える闇の深さに恐怖し、足が竦むのだ。彼は広い。だけじゃなくて、深過ぎる。1人の人間にどうこう出来るモノではない。それに気付き、惚れるが口にはせず…否、出来ず、内に秘めて、俊からのいつ来るとも判らぬ呼び出しをひたすら待つようになる。
「ふむ。呑み直そ」
 2人にmailした。2人共OKで、この2人は面識がある。
 1人は第一線のスーパーモデル。身長は俊よりあったが、彼女の作られたイメージとは反対に、可愛い女だ。
 もう1人は医者。そこらのペーペー医師よりも俊の方が圧倒的に医術に明るく、だから彼は、俊も同じく医術を志す者なのだと思っていた。しかし実際は、必要だったから学んだだけの、何に必要なのかは計りようのない営業部部長。
 俊は、2人に同じ内容のmailを更に送信し、続きを始めた。とーーー…。
「何処、連れて行ってくれるの?」
「あん?」
 藪から棒に何を言い出す。お前にはもう、用はない。
 突然の声で目をぱちくりさせたが、手を止める事はなかった。
「飲むんでしょ? カクテル置いてるお店が良いな」
「お前とは呑まないと言ったろう」
「今、言った!」
「別人とだ」
「僕、放って?!」
「ああ。タクシーで帰れ」
「え〜! ウソ〜っっ」
 精一杯の可愛子ぶりっ子。20歳も過ぎていると言うのに、似合うのが何ともーーー。
「ふぅ。お前は酒に弱いだろう」
「フツーだよっ。トシさんがバケツなんじゃないかっ」
「だったとしても、俺に付き合えるくらい呑めなきゃ、話にならねぇ」
「ゔっ」
 ぶうっと膨れて上目遣い。
 これやると、同い年の女子でさえ負けるのに、この人には効かない…や…今回も。
 俊は、もう少年には目も向けず、せっせと身支度。この間に、少年はシャワーを使った。
「トシさん」
「ん〜?」
 悠長にタバコを燻らせ、自分が出るのをそれでも待っててくれた恋人に声を掛ける。
「誕生パーティー、どうして来てくれなかったの? 待ってたんだよ、僕」
 俊の前で両膝を着いて、ゆったりとソファに腰掛ける彼の膝にそっと手を置く。ダメ押しで、うるっと涙汲んでみせた。勿論、嘘泣き。
「約束したのにぃっ」
 甘ったれた口調と視線。自分が実年齢よりも幼く見える事も、美人系ではなく可愛い系だと言うのも折り込み済。
 けれど、その程度のモノで我を忘れる程、俊は初じゃない。なので、フンッとつまらなさそうに鼻を鳴らすとタバコの火を揉み消し、立ち上がった。
「約束は破らないが、お前とした約束は一つだけだ」
「えっ」
「俺の呼び出しに応じられる範囲で応える。お前からの呼び出しも約束もない」
「そんな」
「タクシーで帰れ。暇があったら連絡する」
「あっ!」
 万札をテーブルに投げ置き、俊は部屋から出て行った。
 その背を正しく黙って見送るしかなかった少年は、キュッと下唇を噛むと、ダンッと右足で床を蹴り毒吐いた。
「そんな態度、取れないようにしてやるんだからっ」
 ガキの戯言なんざ知ったこっちゃないと、俊は呼び出した2人の情人と自宅マンションで呑み直し。この2人とは長いので、自宅にも呼ぶし、自宅の固定電話の番号も教えてある。
 この2人はこの2人なりに、いくつもの壁を乗り越えた。それでも俊が好きだった。否。骨の髄まで惚れ抜いていた。
 酒は、た〜んとある。でも、自炊してないので、食料がない。なので、呼び出した情人2人それぞれに、食料調達を頼んでおいた。だから、食う物にも困らない。
 明日は土曜日。何事も起こらなければ休みだ。
 楽しく呑んで、食って、犯った。
 定時に鳴った目覚まし。それで起きた部屋の主人が目覚ましを静かに止めて、目元をコスコス。そして、大欠伸。もう2人は仲良くベッドで爆睡中。因みに俊は、ソファベッドで寝んでいた。疲れて眠っているお客2人が入っているベッドが、俊が普段寝んでいる特注のキングサイズのベッドで、出張が年の1/3あるけど、更に半分は外泊するけど、そこはかとなく香る俊の匂いに安心して、2人は熟睡。
 俊は、手早くトレーニングウェアになると、2人を起こさないようにそ〜っと、部屋を出た。そして、マンションに併設されているトレーニングルームに行って、黙々と身体を動かす。
 俊が発破掛けたタワーマンション程お高くはないが、このマンションもデザイナーズマンションだ。勿論、分譲。24時間管理人の居る、セキュリティのしっかりした物件を選んだ。なので、と言う訳でもないが、トレーニングルームの他にプールもある。
 俊の、長短の銃火器類や乗り物を巧みに操る節太で不恰好な指に握り締められているグリップが、今にも壊れそうな悲鳴を上げていた。
 厚い胸板。
 太い首と腕と太腿。でも、足首は締まっている。
 大きくて張ったお尻。
 体脂肪率6%。実戦で鍛え上げた闘う漢の肉体。
「酒臭ぇ〜」
 自分の流した汗の匂いに顔を歪め、みっちりと60分。いつ何時、魔王にお呼びが掛かるか判らない。魔王の出動は余り望ましくないが、それを決めるのは自分ではない。その、望ましくない事が起きた時に充分なパフォーマンスが出来るよう、トレーニング出来る日は毎日やっている。
 自分の部屋に戻るのにコソコソもないもんだが、2人を起こしたくないから、やっぱりコソコソしてしまった。
 気持ち熱めの湯で汗を洗い流し、ゴリゴリと手挽きでコーヒーを落とす。
 この、コーヒーの香りで目を覚ましたのが、コーヒー大好きのモデルのリズ。名前は大久保律子(オオクボリツコ)。26歳。俊との付き合いはかれこれ6年。7年目に入ったとこ。
「い〜香り〜♡」
「静かにおいで」
「はーい」
 ペロッと小さく舌を出し、今以て夢の中のもう1人を起こさないようにベッドから抜け出ると、笑顔でサービスカウンターに来た。無論、全裸だ。
「シャワー、浴びて来い。シャツ、好きなの出して」
「タオルはいつもの所〜」
「良く出来ました」
「うふ」
 目を細めて笑ったリズは、クローゼットから俊の普段着用のシャツを1枚引っ張り出すと、シャワーを使いに行った。
 バスルームに置かれてある女性用のシャンプーとコンディショナー。ボディソープと洗顔フォームも別にあって、いずれも一流ブランド品。何人の女性の為に置いてあるのかなんて知らないし訊けないし、訊く立場にないけれど、それが不幸だとは思わない。正確には、思わなくなった。今、共に在れる事が全てだと思えるから・・・。
 長い明るい栗色の髪をドライヤーで乾かしてから、勝手知ったる何とか宜しく、使用後のバスタオルとフェイスタオルを洗濯機に放り込んだ。そして、これ又、女性の為に用意してある化粧水と乳液でピタピタパタパタ。シャンプーとコンディショナーはまだ良いとして、こうやって直接的に肌に使う物は、低刺激、要はデリケート肌用の物が揃えられていた。これは有り難い。撮影で強いライトに晒されるし、衣装、コンセプト次第でメイクをコロコロ変えるから、家では肌にナチュラルな物を使っている。
 俊のブカブカのシャツを素肌に羽織り、いざいざ行かん、コーヒーの待つカウンター。
「トシさん、おはよ〜ん♡」
「おはよう」
 チュッと、唇へのキス。
 キスを許してくれたのは、自宅に連れて来られてからだったから、今から4年くらい前。
「どうぞ、女王陛下」
 リズの目の前に、コーヒーカップが置かれた。
「ん。苦しゅうない」
 それをキョトッと見遣り、薄く笑いながら踏ん反り返ると、デコピンされた。
「この」
「えへ」
 ショーや誌面のリズは大人びていて綺麗だが、素のリズはお茶目で可愛らしい、家庭的な女の子だった。
「股が痛いよっ」
「悪い悪い。1発抜いたのが悪かったな。疲れマラだ」
「お仕事?」
「ん。NY。1週間で行って仕事して帰って即出社」
「うわっ。壊れちゃう〜」
「壊れないように、リズとマサシに来て貰った」
「ふむふむ。人選ミスはないな」
 偉そうに何度か頷いて、カップの上っ面を啜る。
「お味は? グアテマラだ、深煎りの」
「・・・疲れマラだけに」
「座布団取る」
「え〜! コクッ。おいひ〜」
「おっ」
「えっ?」
 ベッドに残っていたマサシと呼ばれた医師が、コロッと身体を返すなり唸り声を上げて動かなくなった。
 事の成行を静かに見守る俊とリズ。次はどうなる?
 マサシは通称。本名は吉岡正史(ヨシオカマサフミ)医師。若く見えるが、さる有名私立大学病院の外科部長で教授だ。年齢は32歳。俊と同い年だが、この2人も俊の実年齢は知らない。勤務先も役職も教えて貰えたけど、それ以上の介入はさせて貰っていないのだ。元より、する気はない。名刺持ってるけど、電話しようとも思わない。だって、好きなんだもん。嫌いになれなかったんだもん。待ってれば良いだけなんだもん。1年でも長く、関係を続けていたいんだもん。
「う〜〜〜」
 低く唸っていたマサシが、力の入らぬ声で毒吐いた。
「ケツ痛いっ、腰痛いっ、身体動かないっ」
 マサシとの関係は実は結構長くて、お互いに大学生だった10年前からの付き合いだ。
「あそこにも疲れマラの犠牲者が! 助けるのはトシさんの役目だよ!」
「バカ言ってんじゃねぇよ。ホットミルク出してやるから、適当にシャツだしてシャワー浴びて来い」
「ふぁ〜い。あたた」
 四苦八苦しながら起き出しバスルームへ。
 酷使したアナルが腫れている。触らなくても判っちゃう。このままじゃ辛いだけなので、バスタブにお湯を張って腰湯。これで大分マシになる。
 野郎にしては長めのバスタイムだったが、それを咎め立てる者など居ない。フラフラしながらサービスカウンターのスツールに掛けると、目の前に蜂蜜入りのホットミルクが置かれた。
 マグカップを両手で包み、フーフーしながらもさっき耳に届いた不穏な話を振ってみる。
「疲れマラって何っ」
「NY行ってたんだってぇ〜。帰るなり出社して昨夜のランチキ騒ぎ」
「話をはしょるな」
「でもそうでしょう?」
「う〜む・・・」
「ま、良いや。おはよ。そしてお帰り♡」
 マサシも唇へキスした。
 マサシとリズは、面識はあるがお互いの事情は何も知らないし詮索しない。当然、肉体関係にもない。きっぱり、呼び名を知っているだけだ。こう言うのが5人居る。但し、それぞれに5人ずつだから、合計で10人。この10人は一緒にはならない。リズの知っている5人は、リズが居る時なら一緒になった。マサシのグループも同様。
 この部屋に泊まれるのはリズとマサシの2人だけで、もう10人は呼び付ける事はあるが泊めずに帰している。特別は、何人も要らない。
 今のトコ固定情人はリズ・マサシ入れて12名。摘み食いは星の数。
「ケツ、痛い〜」
「舐めてやろうか」
「私、舐めて♡」
「ズルイ〜っっ。俺も〜」
 ちゅぷちゅぷ舐めて貰い、気持ち良くなって1発ずつ犯って貰ったら、更に厳しい現実が待っていた。
「お股ヒリヒリするぅ〜」
「お尻ズキズキするぅ〜」
「知らね」
「お化け」
「何だと?」
「きゃー。凄む〜」
「腹減った。何か食いに行くぞ。もう昼だ」
「わーい♡」
「やった〜♡」
 お客2人は、着て来た服でビッと決めた。いつも居てくれない人からの急な呼び出しだったけど、綺麗なところを見て貰いたいから、当然とお洒落着になる。
 リズは、ワンピースドレスに9㎝のヒール。長身細身なのでエレガントだ。
 マサシはアルマーニのソフトスーツ。元々お洒落だったのだろう。小綺麗な、細面の美青年。
 俊は、代々使っているテーラーにボディがあって、毎月10着のスーツが新調されて来る。流行を取り入れながら、少しずつスタイルの違うダブルのスーツが10着に、フルオーダーのブラウス、ネクタイと一式届く。その中からリズに選んで貰い(ここはプロに任せた方が良いだろう)、良い男の出来上がり。
 但し、それは俊の裸を知っている者の思うところで、対外用には、人の良い小太りのチビだ。体脂肪率は確かに6%だったが、体重は三桁。その全ては筋肉の重さなのだが、服の上からでは判らない。特に、身体のラインをハッキリさせないようにと注文を出している。身長は170㎝半ば。ネックの首と腕の太さはフルオーダーのブラウスとスーツでカバー。これで表仕様の俊が仕上がる。
「トシさんとデート♡」
「ふっ」
「腕組んで良い?」
「写真撮られるぞ」
「サングラスっとぉ。これで良し」
「腕組んで良いが、助手席はマサシだぞ」
「はーい」
 俊のドライヴするBMWで、まずはランチ。都下に在る、隠れ家的フレンチレストランで、ゆっくりとランチのコースを楽しんだ。3人共ヘルシー嗜好なので、オーガニックな素材で、低カロリー高タンパク質の特別メニュー。中でもリズは、ボディラインが商売道具なので、更に別にして貰った。
 俊の顔の効く店なので、本業絡み。だから、冷やかしはなし。寧ろ、店全体がピリピリしている。そりゃそうだろう。魔王から電話来た時は、声がひっくり返っちゃいました。ウチの店、要予約制で、土日のランチはキャンセル待ちなんスよ、知らないでしょうけど。大慌てで3人分の席を用意して、万が一用の食材が役に立ってくれたけど、毎回毎回、思い出したように訪ねて来るの、止めて貰えませんかね。心臓に悪いッス。
「美味しかったぁ〜」
「お腹一杯」
 俊はドライバーなので舐めてすらいないが、もう2人はワインをデキャンタで注文し、呑めない俊に申し訳ないとも思わずに呑んでいた。ここらに、付き合いの長さが出る。
「ドライヴでもするか」
「はーい」
「わーい♡」
 リズの椅子を引き、腕を組んで車迄行った。マサシは後ろから付いて来ている。しかし、俊が助手席のドアを開けて促したのはマサシの方で、リズは後部座席に鎮座していた。
 この日は土曜日で、俊からの呑みのお誘いだったから、この日の予定は全てキャンセルしている。いつも居てくれる人じゃないから・・・。
 高速を素っ飛ばして、森林公園に着いた。
「腹ごなしに少し歩こう」
「うん」
「はい。手、繋いで♡」
「ん」
 俊が左手をくれた。
 ニコッと笑ったリズが、自分の細っそりとした白い華奢な指を俊のフランクフルトのような太い指に絡め、あっち向いて何かを見ていたマサシに声を掛け手を延べる。
「マサシ君。手、繋ご♡」
「ん? うん」
 3人は手を繋いで、遊歩道を歩いた。
 長身細身のマサシは美男で、同じく長身細身のモデル体系のリズは歩く姿がまず美しい。顔は大きなサングラスで半分は隠れているので判らないが、出ている口元は美人! で、この2人だけを見るとお似合いのカップルなのだが、も1人居るチビが邪魔臭い。
 おおっ! と、目を奪われるなり眉を寄せるのは、お邪魔虫の俊を見付けてから。だが、一見するとお似合いの2人は、揃って、小太りのチビに見えるように意識している俊に首ったけ。
 恋人じゃなくても、俊に惚れる男も女も五万と居る。そいつらは、俊の手駒に当たる兵隊達だったが、『いつか若のお役に立って死ぬ!』と、心に決めた連中がスクラム組んでいるから、頼もしい限りだ。
 森林公園を散策し、公園内の喫茶店でコーヒーブレイク。マサシもお尻の痛みが引いていたので、大好き…になったマンデリンを頼んだ。
「マンデリンを3つですね。少々お待ち下さい」
 マンデリンは、俊が好きな銘柄。実はリズも、マンデリンが好きになった口だ。今朝、用意しておいてくれたグアテマラが好きだったけど、愛している人と同じモノを好きでいたい。
 この感情に、男女差はないと思われる。その証拠に、リズもマサシも幸せ一杯だ。
 次を考えると不安で押し潰されそうになるが、俊を信じている。
 俊しか信じない。
 俊が全て・・・。
 許される限り、共に在りたい。
 都内に戻ったのは、良い加減日が暮れてからだった。俊の嫌いな渋滞は、自然渋滞だけで済んだ。
 マサシは大学病院の教授先生様だから、明日の日曜日も基本休みだが、リズは撮影が入っていた。でも、まだ帰りたくない。
「お前ら、これからどうする〜?」
「どうって?」
 素っ惚けたマサシの声に、リズの声が覆い被さる。
「晩ご飯でしょ!」
「おっ。晩メシ迄たかる気か」
「たかる〜! ねっ、マサシ君」
「勿論♡ 俺、和食が食べたい」
「和食か。リズは」
「マサシ君に譲る〜。今日は一日、トシさんと手繋いでたから♡」
「分かった。さて。何処に連れてくかなぁ」
 何て事言っておいて連れて行かれたのは、赤坂の、一見さんお断りってぇ高級料亭だった。
 一流所とは浅からぬ縁のある2人だが、超一流とは逆に縁がない。名前にビビッて、カチコチになっている。
「おい。おーい」
 通された部屋も贅沢だし、どうしよう。足、崩せない。
「もしもし?」
「はっはいっ」
「はいっ」
「大丈夫か?」
「大丈夫かって、トシさん…」
「俺が訊きたいよ。大丈夫? 高いよ、ココ」
「追い出されたりしてな」
 俊は高笑い。
 そこに、誠にタイミング良く女将が入って来た。
「滅相もないですよ。田口の若を追い出したりしたら、お店、なくなっちゃいます」
「大袈裟な」
「もっと利用して下さいましな」
「だから来た。恋人連れて」
「3ヶ月振りです」
「怒るなって。俺、体一つだよ」
「あらっ。そうでした?」
「女将」
「ほほほほほ。それで、こちらのお嬢様が?」
「ん? 俺の恋人?」
「はい」
「両方」
 女将さんと親しいらしいと判ったけど、明かして良いの? それを声にしたのはリズだった。
「トシさん」
「ん〜?」
「やっぱり、若の体は一つではありませんでしたね」
「うるへぇ」
「お料理の方は」
「任せる」
「畏まりました。お酒は?」
「この2人には旨い日本酒を。俺にはフレッシュジュース」
「まぁ」
「運転手なんでね」
「わ、私もジュース」
「え?」
「どうした」
「明日、午後から撮影なのよ」
「じゃあ、俺も〜」
「しゃ〜ねぇ。旨い日本酒は次の機会って事で、フレッシュジュースと茶」
「はい」
 女将が居なくなって、深呼吸するリズとマサシ。俊は不思議そうにしている。
 訊きたい事も確かめたい事もあるが、それらのどれか一つでも尋ねたら、永遠の別れが来るのだろう。だから、疑問は疑問のままで丸飲み。ずっとそうして来たじゃないか。俊を失う痛みと絶望を思えば、容易い事だ。

(後編につづく)


【おねがい】
ハーモニーでは、新型コロナウイルスの蔓延により、所内活動を見あわせています。また『幻聴妄想かるた』関連のイベントや講演が中止になってしまい、工賃収入の見通しを失ってしまいました。
このnoteは、メンバーたちに在宅で生活や特技や趣味などを紹介してもらい、みなさんにサポートしていただくことにより、メンバーの工賃の一部にあてさせていただくことを目的に企画しました。
すこし、気取って言うならば、
在宅でありながら(Stay home)
外にむかってはたらきかける(From home)
試みでもあります。
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