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KA'AMATAN

今年も早いもので5月も後半に差し掛かりました。
日本ではGWも終わり、各地で田植えの準備も佳境、もしくはすでに田植えが始まっている地域もあるのでしょうか。当地も例年に比べ非常に暑い日が続いているのですが、先々週頃から雨天の日が増え少し暑さが和らいできているのを感じています。

5月と言いますと、サバ州ではカダザンドゥスン族、ムルッ族、ルングス族、ルンダイェ族の人々にとって1年で最も大切なひと月です。

彼らは古くから、月を読みながら、狩猟や稲作を営んできた民族で、天地創造の神キノロヒンガン(キノインガン)の娘のフミノドゥンの犠牲により与えられた稲の精霊バンバラヨン(バンバゾン)の神話が古くから伝承されており、毎年5月は収穫後の満月の日に、ボボリアン(ボボヒザン)と言う祭司による神々と米の精霊に鎮魂、収穫への感謝、五穀豊穣を祈る儀式が各地で執り行われる重要な月なのです。

日本も古くから続く重要な神事である神嘗祭が10月、そして新嘗祭が11月行われていますが、その伝承に含まれる意味や、収穫祭に込められた精神にどこか通ずるものを感じることが出来たりします。

例えば、日本も明治6年に現在の太陽暦が採用されるまでは、月の満ち欠けの周期を基にした太陰太陽暦が使われていましたし、ボボリアンによる祈祷の儀式では、収穫前の稲穂を7束取り、それを竹で作られた棒にくくり付けて満月の日に収穫前の田んぼの真ん中に刺して祈祷を行うと言うものがあります。7束の稲穂はバンバラヨン(バンバゾン)を表しているらしいのですが、私たち日本人の間でも、米粒1つに7人の神様がいると教わってきました。また儀式の中でお供えする供物にも、お米を発酵させて作るTapaiと呼ばれるお神酒を7つの竹のコップに入れて供えると言う様式があるなど、その伝承に相違はあれど、その由来やSpiritに同じものを感じるのです。

Bobolianと祭事に使用する神物や供物

このサバ州においてとても重要な収穫祭 Harvest festival は、カダザンドゥスン語で Tadau Ka’amatan(タダウ・カアマタン)と言うのですが、ただ収穫への感謝と五穀豊穣すなわち民の平和と繁栄を祈る神事以外にも、同民族の人々の間で伝統文化やその精神を次の世代に引き継ぐための重要な役割も担っています。

昔ながらの伝統的な脱穀技法を次の世代に伝えている(Kadazanのおばさま達)

中でもとりわけ盛大に行われているのが Unduk Ngadau(ウンドゥッ・ガダウ)と呼ばれる美女コンテストです。Unduk ngadauは、カダザンドゥスン語で「太陽の冠を被る女性」という意味があり、外見の美しさだけでなく、民のために犠牲となった神フミノドゥンの精神や魂を受け継ぐ女性を選び、フミノドゥンを称えると意味が込められている一大イベントで、5月に入ると州内各地の村レベル、そして地区レベルでコンテストが行われ、30日および31日にピナンパンにある会場に各地区の勝者が集まり、その年のUnduk Ngadauが選ばれるのです。また、各民族ごとの伝統舞踊を披露しあうなど民族間の大切な交流の場にもなっています。

月のモチーフの飾りを頭につけ、色とりどりの飾りを腰下まで垂らした伝統衣装に身を纏い、籾まき・田植え・収穫までの様子を表した伝統舞踊を踊る Dusun Tonbonuoの若者達

このように州内各地から多くの民族が一堂に会する機会は他になく、色鮮やかな伝統衣装に身を包んだ老若男女が誇らしげに伝統舞踊を披露しあう姿はとても眩しく、古代から続く伝統文化が今も絶えることなく次の世代に受け継がれていることの尊さ、また彼らの想いに感動を覚えたりもするのです。

一方、日本に古代から続く伝統文化について知らないことの多い自分を情けなく感じると共に、多くの人が無宗教とされる私たち日本人の日々の暮らしの中に、しっかりと古神道の教えや習慣が根付いている事に改めて気付かされたりと、サバの人々から様々な気づきと学びを与えていただいている次第です。そして収穫祭月の5月になると、何かにつけ日本のお米や田圃を思い出し、いつも以上に日本が恋しくなる田舎育ちの筆者なのでした。

どうか世界中の気候が安定し、いついつまでも稲作文化が途絶えることのない地球であり続けてくれますよう祈りつつ。

現在、サバ州では30日、31日の一大イベントである収穫祭向けた準備が着々と進められています。

Kotobian Tadau Dagazo do Kaamatan.



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