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【患者さんの声】病気をもつ人の”こえ” がもたらす価値

様々な価値観を尊重し「多様性」が意識される現代。
生活様式や働き方などがかわり、より生きやすい世の中に向かって変化していくのを感じます。個々のバックグラウンドや指向にかかわらず、認め合い共に存在することが自然な社会に近づいているともいえます。
 
今回お話をお聞きしたのは「一般社団法人ピーペック」(以下ピーペック)という団体を運営する宿野部さん夫妻。幼少期に腎臓疾患を発症された代表理事(CEO)の武志さんと、家族としても活動を支える事務局長の香緒里さんです。
 
病気をもつ人の「こえ」を届け、世の中に新しい価値をもたらす力を活かすピーペックの活動を始めるまでの経緯や疾患と共に生きてきた人生についての想いをお話しいただきました。

<左:武志さん、右:香織里さん>

物心がついたときから慢性腎炎と向き合う日々

―――まず、疾患についてお聞かせいただけますか。

武志さん
3歳のときに慢性腎炎だと診断されたので、物心ついたときから「気づいたら病気とともに生きていた」というのが実感です。
 
腎臓というのは「沈黙の臓器」と言われているくらい自覚症状がないんですよね。
僕の場合は、3歳児健診の尿検査でタンパクが出ていてわかったと聞いています。そして、慢性糸球体腎炎は完全に治ることはないんですよね。いかに進行を抑えるかが治療。当時おそらく親は塩分制限など一生懸命管理してくれたと思いますが、子どものころは本当に何も症状を感じたことがなかったですね。

症状を自覚したのは、18歳。高3で大学受験のときに頭痛が続いて、いよいよ透析が必要ですと言われました。受験が終わってすぐに腎臓病に強い大学病院に転院し、シャント※を作ったり透析の準備をしたんです。ずっと入退院を繰り返してきて、18歳、ちょうど大学受験のときに血液透析を始めることになりました。

※シャント…血液透析を行う際、充分な血液量が確保できるように、動脈と静脈を体内または体外で直接つなぎ合わせた血管

 これから透析をするにも関わらず、透析のことを知るのが怖かったことを覚えています。できることならずっと知らずにいたくらいでした。
当時はインターネットがなく、透析の本を買っても、怖くてページめくれなかったですね。なので、実際は透析が始まってから「針って2本刺すんだ」とか「時間がかかるんだ」などいろんなことを知りました。そこからは週3回血液透析のために通院しています。

―――現在飲んでいるお薬や、生活について教えてください

武志さん 
薬は毎日5種類飲んでいます。僕の飲んでいる薬は、透析患者の中では珍しいぐらい少ない量です。中には、1日20~30錠飲んでいる人も結構いますから。お薬の管理としては、harmoのお薬手帳を使いはじめました。

<夫:武志さん>

家族も共に「透析」のある生活に向き合う


—――奥さんの香緒里さん、支えるご家族として感じていることを聞かせていただけますか。

香緒里さん 
まず、透析になると生活が変わります。
他の病気と違うのは、症状と向き合うというよりは「透析のために週3回病院へ行かないといけない」とか「水分制限で水やお茶を好きなように飲めない」など、日常生活での制限があるところです。日々の食事にも気をつけなければいけないし、旅行や出張など何をしようにも透析は全部ついて回ります。
 
そのため、必ず家族も巻き込んで共に向き合うことが必要になります。疾患そのものよりもむしろ生活面での制限や課題が大きなウエイトを占めるのが、他の病気とちょっと違いますね。
 
我が家は結婚する前から透析患者なので、主人自身がいろいろと対処できています。自分でコントロールもできるので、外食もするし自分で食事や水分の量を調節することもできる。自分自身でちゃんと対応しているので、私は気にせず目の前でお酒も飲んでいます(笑)。
 
でもご夫婦の場合、例えば旦那さんが途中から透析になったら、奥さんがすごく食事や水分量などに気をつける、というケースもたくさんあります。そうなると、疾患の当事者である本人もつらいけど、実際対応する家族もつらいという状況に陥ってしまうんですよ。
実際、水分や食事を我慢している人を目の前にして、自分だけ楽しく食事をすることが出来なくなったりとか、症状を悪化させないために、奥さんがすごく厳しい食事制限を強いてしまったり。
 
本人よりも家族の方が大きな負担を感じてしまうことは多々あって、治療よりもどう生活していくか、の方が実際は大きな課題なのかもしれないと感じていますね。

病気をもつ人の”こえ”を活かし「どうしようもある、世の中へ」

───ピーペックでは現在どのような活動をしていますか
武志さん 
私はピーペックという団体を2019年の1月に立ち上げました。主に、「病気をもつ人の声を医療や社会に届ける」という活動をしています。そこを中心として、数年前からは患者市民参画※という”患者さんの声をどう研究と改良に取り入れていくか”という取り組みをすすめています。
 
これは国も関わる取り組みで、いろんな疾患の方とネットワークを作り、その病気を持つ方の声を届けるべく、製薬企業さんも参加する対話会などを開催しています。たとえば、製薬企業の社員の方5人が、病気を持つ方1人の声を「体験」と「想い」を交えて聞く機会を作るのも活動の一つです。

※患者市民参画…https://www.amed.go.jp/ppi/

 
―――ピーペックが目指している世の中を教えてください

武志さん
ピーペックが目指すのは「どうしようもある、世の中」なんですよ。
「患者」という言葉を使わないのも「患者だからこうしなくてはいけない」という価値観に押し込まれないように、という想いがあって。
 
病気をもつ人自身が気づかないうちに「患者」という制限の中に入り込んでしまわないようにしたいんです。「患者だからこうしてはいけない」「患者だから治療を優先するべき」など、”患者”というパワーワードで抑圧されていた価値観そのものを変えたい。ピーペックに関わることで、やりたいことを諦めない生き方をする人や病気があっても大丈夫、と感じる人を増やしたいんです。

疾患は自分の”ほんの一部分”人生全てに影響させない

───武志さんにとって疾患とともに生きるとは

武志さん
「自分=病気をもっている人」ではないというか、病気を自分の中の一部として捉えて生きていくことが大事なのかなと思っています。ピーペックの他のメンバーも「病気に支配されたくない」みたいな言い方をしていますね。やっぱり、病気ってたしかに人生にとって大きな影響を与えるものですが、それでも”人生全て”に影響させたくないっていうところはあるんです。
 
病気を持っている方のサポートというのは自分自身がやりたいこととしてやっているので、僕のミッションともいえます。慢性腎不全という病気は「1回5時間、週3回(透析条件は人によって異なる)」の透析があって、物理的に時間が必要なのは間違いないのですが、それでも病気に支配はされたくないと思っているところはありますよ。あくまで自分がコントロールする人生を生きるっていう。ピーペックのメンバーは共通して持っている想いです。

 
───さいごに、harmoに期待することはありますか

武志さん
harmoのお薬手帳を中心に、薬剤師や医療者とのコミュニケーションができたらいいですよね。たとえば僕の場合、薬の情報だけでなく、血液の検査結果がデータで自動的に入ってくると便利だと思います。
健康的な生活を送るためには自己管理が必要で、そのためには「自分自身が受けた健診結果をいつでも見れること」が大切だと思います。早く一人ひとりのパーソナルデータが集約されて管理できるようになれば、と思います。

さいごに

 お話を聞くうちに「どうしようもある世の中」という言葉がしっくりきました。
疾患とともに生きている方は、自分が体験されてきたことを心の奥では「誰かに話したい!話を聞いてほしい!」と思っても、それを拾ってもらえる場がなかったり、あったとしても、そこに一歩踏み出すのにちょっと勇気が必要だったりしていたのかも知れません。
宿野部さんが行うピーペックの活動は、疾患や治療に向き合う方にとって「想いを”こえ”にできる大切な居場所」だと感じました。
 
harmoもお薬手帳を通して、医療関係者と生活者をつなぐ役割を果たす存在になるべく、今薬の課題で悩んでいる方の話を聞き、多くの方々の健康管理に貢献していきます。

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