噛み付かれた話(短め)

小学生の頃、私はモノを噛む癖がありました。

鉛筆をかじり、そのキャップを齧り、ペンケースを齧ったモノですから、鉛筆には歯形が付き、キャップは砕け、缶ペンケースには歯形の穴が空きました。

ついにそれを母親に咎められた私はモノを噛むことを禁止され、腕や指なんかを噛むようになりました。

そして、それをクラスの人々も見ていた、そんなある日のことです。
隣の席になった少女が、突然私に話しかけてきました。

 クラスでもヤバい奴として知られており、友達はあまりいない少女でした。

「○○って何でも齧ってるよね」
「癖で、つい」
「ならいい?」

何が?と言いたくなった。
その次の瞬間、俺の肩に鋭い痛みが走った。

……歯が、突き立っていたのです。

あまりのことに硬直する俺をよそに、少女は俺の肩をしばらく観察した後、満足げな顔でこうつぶやいたのです。

「うん。付くね、ありがと」
「え?」
「歯形をつけてみたかったんだ。キスマークも付けておいたよ」

歯形を付けてみたい。
なぜそうなったかはわかりません。
少女の好奇心の犠牲になった、そんなエピソードでした。

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