モノローグ「茄子が降る」　初稿

　自分が許せる一番突拍子もない格好の男が詰め寄っている

だからさ、なんでなの。いきなり変えたの。
何で脚本通りじゃいけないの。
何で野菜が降るの。
何でその場で食べなきゃいけないの。
脚本に野菜の「や」の字もないのにだよ。

見ろよ。見ろって、こっち見ろよ。
この格好、この格好は許容したんだよ。

問題があるかって？
当たり前だろ。
命に係わるんだから。

身の危険を感じるの。
大根に。
よりにもよって、なんであんなでかいの仕入れてくるの。
知ってるよ。お前の実家が農家なのは。
でも、あれ当たったら死ぬよ。

目の前に落ちるようになってるけど
外だよ。足場組んでビニールシートかぶせただけのテント。
突風が入るかもしれないじゃない。
風ぐらいじゃ大丈夫？
だから、風が吹くぐらいじゃびくともしないから、
かえって危ないんだろ。
あの大根だけならいいよ。
人参も胡瓜も茄子も振ってくるでしょ。
なんか相互作用で落下の軌跡が変わったらどうするの。

　間

じゃあ役、下りればいいって。
いいのかよ。もう明日なんだよ
どうすんだよ。俺の役。
俺が言ってるのはオープニングのところだけなんだよ。

そういうところだよ。
お前とは長い付き合いだけど。
そういうところ。
意固地で何考えてるのかわからなところ。
みんな、お前がいやがらせしてんじゃないかって言ってるんだよ。
お前の持ってきた脚本を俺が蹴って、違うのにして
そのうえでお前に演出頼んだから。
俺は、まんざらお前の考えてることが分からないでもないから。
あいつは、そんなことしない。
あいつは、自分のパッションに従っただけだって言って否定しといたさ

　間

え、ほんと、変えてくれるの、普通サイズに。
ありがとう。
そうだよね。命に係わるもんね
おじさんに、今度大根食べに行きますって言っといて。

次は茄子だ。
まだあるのかって？
当たり前だろ。
茄子も命に係わるんだから。
茄子には毒があるんだよ。
ソラニンっていう。
だから危険なんだよ。
みんな平気で食ってるって？
そ、それはあれだよ。
花粉症と同じでみんな限界値に達していないんだよ。
俺は自分でわかるんだよ。
もう限界値が近いから。
食ったらやばいって。

なんだよ、その目は
疑ってるのか
俺のこと信じてないのか

お前には信念がないって？
えーないですよ。
お前みたいなパッションのかけらも、持ち合わせてないんですから。
俺はね。卒業したら普通にサラリーマンになって
普通に結婚して
普通の暮らしをするの
普通って何？
だから、そういう議論したいんじゃないの

ああ、お前とは腐れ縁で、このサークルに入ったよ。
だけど、お前ほどのパッションはないの。
俺には！！

　間

正直に言うよ。
茄子がダメなんだよ。
あの皮の口に残る感じとスカスカした食感。
苦味と渋み。
茄子を外してくれよ。
茄子外しても充分ぬか漬けだろ。
人参と茄子と胡瓜と大根なんて、ぬか漬け意識してるんだろ。
茄子が抜けると彩が寂しいかもしれないけど。
いいじゃないかまだ人参と胡瓜と大根が残るんだから。

　間

え、ほんと、いいの、食べなくて。
じゃあ、落ちてきても茄子は食わなくていいんだな。
約束だぞ。
茄子は食わないからな。
そうだよね。命に係わるもんね。
降るのは全然かまわない。
あたっても茄子なら全然平気。

でも、ほんとよく許可したよね公園が。
お前、俺の出番の後で、トーチ持って踊るじゃない。
脚本にないのに。
え、だって火を燃やすんだよ。
しかも踊るんだよ、タヒチのダンスみたいに。
何で主人公が道を聞かれるだけのシーンの前に、
野菜が降って、火が燃えるの？
バーベキューの許可を取った？
だから野菜が必要？

ふざけんじゃないよ。
お前がタヒチダンス踊りたいからって。
俺は命がけで生野菜の雨を受けて、それを食うのかよ。