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モノローグ「山のあなた」 第三稿

『山のあなた』

作:harlequin moom

 冬の朝、ベットに父親が寝ている。

(寝ている父親に向かって) 息、静かだかね。
痰は大丈夫そうだね。
酸素濃度あげとこうか。
聞こえる、父さん?
今日は雪だよ ストーブつけようか 。(そうは言うが動かない)

母さんは、寝てるよ。
僕がここにいるから、明るくなるまで寝かせてあげるよ。
静かだね、息楽そうだね。

 布団をめくる

チアノーゼか、マッサージしないと。 (傍らから瓶を取り出し) 
これが馬油かな 先から上だよね、わかってるよ。

 マッサージを始める

・・・冷たい足だ ストーブ強くしないと 。(そうは言うが動かない) 
苦しくない?父さん 聞こえてる? 
外の音が何もしないね。

眉毛もなくなっちゃって 押し売り追い返したって話。
スキンヘッドで眉毛もなくて、こんな顔見たら 怖くて逃げ出すよね。

 マッサージを続ける

この顔見せたら伯母さんたちもびっくりだよ。
大丈夫、僕から知らせるから。
手もマッサージしてみようか。
でっかい手だよね。

覚えてるよ、小さいころ 片手に乗せて運ばれたの。
怖かったけど好きだった。
色、なかなか戻らないね。

 マッサージの手を止める

手紙呼んだよ、 伯母さん宛のやつ、 出さなかったんだね 
会いたいよね、会わせてあげるよ。
つらいって言わない人だって・・・伯母さんが言ってた。

・・・麦藁。
麦藁でご飯炊いてたんだって、毎日。
麦藁だから、あっと言う間に燃えてしまうから炊き上がるまでずっとかまどの傍にいないといけなかったって。
詩集読んでたって、麦藁くべながら。

 マッサージを始める

聞こえてる? 父さんの好きな詩を読んであげようか。

山のあなたの空遠く
「幸」住むと人のいふ。
 噫、われひとゝ尋とめゆきて、 涙さしぐみ、かへりきぬ。
 山のあなたになほ遠く 「幸」住むと人のいふ。

静かだね 
おやすみ
父さん


【意識したこと】
 ・観客は最初のころだったら疑わない 
 最初に作品のルールの発表をする  
・主人公には嫌なことを体験させる  
・パターンを作ると観客が受け入れやすくなる 
・期待に応えるて予想を裏切る 
※作中の詩 カアル・ブッセ作 上田敏訳 「山のあなた」

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