見出し画像

モノローグ『山のあなた』 第七稿 試作朗読後

 男が一人ベットの横に座っている。ベッドには父親が寝ている。

でさ、『山のあなたになほ遠く「幸」住むと人のいふ。』
って詩を読み終わった後、大泣きしたろ。
結婚式で泣く父親なんか初めて見たって笑うんだよ。

(父親の顔に自分の顔を近づけて) 息、静かになったね。
痰の吸引はしなくてもよさそうだね。
ちょっと血色悪いね。酸素濃度あげとこうか。 
聞こえる、父さん。

父さん、今年喜寿だっけ。
俺が厄年だから、そうだよね。
伯母さんたち、お祝いに来るかな?
結婚式の話されるかもね。

寒いね。
今日は雪だよ。

静かだね。
今日は積もるよ。

母さんは、寝てるよ。
俺がここにいるから、明るくなるまで寝かせてあげるよ。

血行悪そうだから、マッサージしとこうか

 手のマッサージを始める

相変わらず大きい手だね。
グローブみたいだよね。
ほんと・・・力仕事してきた手だよね。
よく肩車してくれたよね。

泣いてると必ず肩車してくれた。
中学になってからも肩車しようとしたろ。
結婚式の時、泣いてたんだ、俺も。
気がつかなかっただろ。
気がついてたら飛んできた?

足もマッサージしとこうか。
(傍らから瓶を取り出し) 足のマッサージは馬油(ばーゆ)使うんだよね。
足先から上だよね、わかってるよ。

 馬油を手に取り、マッサージを始める

さらさらだけど、においきついね。
・・・冷たい足だ。
つるつるだ。すね毛もなくなっちゃうんだね。
獣臭かな。 馬の油ってかいてあるもんね。
かみさんがね。動物飼おうかって言ってるんだ。
子供も出て行ったし、でも、ほら 俺、犬猫駄目じゃない、 アレルギーで。
だから、魚はって聞いたら、触れないからダメだって。
毛があるものがいいんだって。
モフモフしたいんだって。
(父親の顔を見て) 今のその顔をみせたら伯母さんたちびっくりするよ。
 スキンヘッドで眉毛もなくなって。
ハムスターとか・・・
リスなら大丈夫かな。

色がもどっってきた、息も深くなったし、これなら大丈夫だ。

 間

伯母さん宛ての手紙読んだよ。
出さなかったんだね。

小学生の頃は、よく連れてってくれたよね、伯母さん家。
伯母さんね、もうだれも住んでないじいちゃん家にも連れってってくれたよ。

そこに、リスがいた。
がりがりに痩せたリスが。
遠くを見てる。

父さんが、ここでご飯炊いてたって、麦藁で、ご飯炊いてたって。
そこの竈も見せてくれた。
あっと言う間に燃えてしまうから、炊き上がるまで、ずっと、かまどの傍にいて、詩集読んでたって。
みんなで期待して学校出してやったのに、詩ばっかり読んでたって・・・

何見てたんだろうって・・・

 手紙を思い出すように

ごめんね。ごめんね。ごめんね。姉ちゃん。
恩返しできなくて。

伯母さんにあっても、手紙は見せないよ。

寒いね。
寒くて静かだよ。

父さん。
聞こえてる。

父さんはね・・・

謝らなくてもいいんだよ。

静かだね。
今日は積もるよ。

おやすみ父さん。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?