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ワイヤレス給電(磁界共鳴方式)のプラレール模型を作ってみた

 最初に完成したときの動画(https://www.youtube.com/watch?v=OjBlT-btamc)を見てください。趣味でやっている工作的な感じだと思ってください。あくまでもコイルを巻いてみたよという程度で、送電回路や受電回路などはキットに頼っています。高専生だったころに所属していた研究室で似たようなことをやろうとしていましたが自分は別のテーマを選びました。ただ、社会人になって、コイルを巻くくらいなら行けそうと思ったのでちょっとだけ触れてみることにしました。

 ワイヤレス給電とは電源ケーブルの接続や金属電極の接触を行わずに、電力を伝送する技術のことです。例えば身近な例でいくとスマートフォンの充電でしょうか。ただ、実用化されているほとんどの製品はあくまでも近傍でしかエネルギーをやり取りしていないところがポイントになります。今回、自分が扱ったのは磁界共鳴方式と呼ばれるもので、比較的長距離の電力伝送を行うことが特徴です。

 ワイヤレス給電にはいくつかのメリットがあります。まず、電源ケーブルの抜き差しや配線が不要であることが素晴らしいです。また、金属接点がないためショート、感電の可能性もなくメンテナンスを安全に取り組められます。非金属などであればコイルの間にモノがあっても問題なく動作します。磁界共鳴方式は特に移動体や飛翔体への給電に適しているといえるでしょう。ただ、現実的に効率が低すぎるため実用化の壁となっています。


 給電コイルの形状や無線電力伝送の基礎を学習することが目的なので、高度なことはしていません。プラレール模型があれば電気に詳しくない人も興味持ってくれるかなくらいのノリです。実は効率とかは測定してません。なんか面倒くさくなってしまったため。一応、波形とかは取ってみましたがデータをどっかやってしまった。



 キットに入っていたコイルの周波数を測定し共振周波数などを調べました。自分が作りたいコイルにも適用できる計算方法がキットにも適用できるかを確かめたかったためです。それをもとに自分で送電・受電コイルを自作しました。


 おおまかなシステム構成になります。交流100[V]をコンセントからとります。次にその電圧をACアダプタにより直流に変換します。送電回路はインバータのことです。直流を高周波の交流に変換しています。コイルでには結構な電圧がかかりますし波形は歪んでいました。しかし問題はありません。空間を介して受電回路に飛ばした後、直流に直します。

 次に送電と受電に着目した図を示します。直流電圧をインバーターで高周波電圧に変換し受電した電圧を整流し直流に変換します。送電コイルに対応する共振コンデンサを入れているあたりが磁界共鳴の由来ですね。整流回路は倍電流整流回路を用いているようです。直流モータを回すのに電圧は必要ないですが、電流は確保しておきたいという意図です。

理論①

ここでは電磁誘導と自分が使用した磁界共鳴について説明します。二つのコイル(A.B) を近づけコイルAに電流を流すと空間に磁界が発生します。それをコイルBが磁束を受け取りコイルBに誘導電圧が発生します。これが教科書にもよくある電磁誘導です。しかし、磁界共鳴はこれを改良しコンデンサを用いてコイルを共振させています。そうすると高効率で遠くまで電力を送ることができます。このような違いがあります。送電側と受電側で系を分割して捉えているのに対して、一つの系とみなしてインピーダンスマッチングを行う方法でも実現可能だし、そちらの方がはるかに効率よくなります。ただ、ベクトルネットワークアナライザを買うのもお金がかかるしめんどくさそうなので今回はやめました。

 
理論②

KQ積が効率に直結することを発見したのはMITの2007年の研究です。それ以降、磁界共鳴の電力伝送に関する研究が盛んになりました。Kの式は送電コイルと受電コイルの間の結合を表す係数になります。コイルを近づけると結合が強くなり、離して配置すると結合が弱くなります。便利にしようと試みるほどKが下がっていくわけですね。Qの式はコイルに含まれる抵抗成分とリアクタンス成分の比です。抵抗成分は損失となります。そして、KQ積を大きくすると効率の理論的な限界を高めることができます。Kが下がったとしてもQが高ければ問題ないことはMITの研究が示してくれています。周波数を高くするほど効率の限界を高められます。

使用したキットはこちらになります。最初は負荷用のランプを光らせるところから始まります。自分はまず受電コイルはそのまま使用して、送電コイルに工夫を加えるところから始めました。


RFワールドなんかを見ると色んな大学の研究の記事が載っていて面白いです。給電コイルや給電システムにもいろいろな工夫があるようです。扁平コイルセットではなくAmazonで安く買える誘導加熱用のモジュールを使っても良いみたいですけど、周波数が低そうですね。最近、イチケンさんが新しくワイヤレス給電の動画を上げていました。もう少し早くやってくれていれば参考にしていたかもしれません。


こちらは参考にしたコイルの配置のパターンです。レーン型、円形コイル配置型があります。円形コイルを配置しまくるのは結構な力業になりそうなので、自分が採用したのはレーン型です。プラレールのコースを使用したので円の形に曲がっています。

最初に作成したコイルは折り返しの形状です。それで模型を動かすことができたので円形型のコイルにして実験おこないました。そうしたら動きはしたのですが、速度が少し遅かったので巻き数を増やしてコイルを作成し測定を行いました。もっと巻けば良いのかと思いきや、電線が長くなったせいでQ値が下がったのか効率に改善も感じられませんでした。あくまでも体感ですが。

こちらの画像はコイルのリアクタンスを求めるための測定回路と回路図です。非常に小さい誘導性リアクタンスになるので普通のLCRメータでは対応できませんした。かといえってnano VNAを買う気にもならなかったので無理やり測定しました。ダイヤル抵抗のリアクタンスが大きく乗っかるから無理だろうなマクスウェルブリッジの方がよいかなとか思いつつやってみたところ、案外なんとかなりました。電圧降下が等しくなる条件でこの式が成り立ちます。

送電コイルに対応した共振コンデンサの計算を行いました。共振コンデンサを求める式と回路図です。この回路図の抵抗は前のスライドの抵抗と違い回路に発生する損失を表すものです。要するに巻き線の抵抗です。

最初はこんなコースで(https://www.youtube.com/watch?v=XnwmGCIC-RM)


もう少し距離を伸ばした(https://www.youtube.com/watch?v=8RCRY32RUwo)


巻き数を変えながら測定した送信コイルに合った受信コイルを作りました。送電コイル側の設計と同様の手順でインダクタンスを測定、共振コイルを計算しました。

受電コイルは牽引しています。そのシャーシはレーザー加工機でちょっちょっと作りました。

受信・送信コイルの作成にすることができました。わーい模型を動かせました。

課題の一つ目は送受電回路を自作し効率をきちんと測定し更なる効率化が図れるか検討することです。二つ目は周波数を高めてKQ積を上げていくことです。三つ目は外装を整えるため3Dプリンタなどで製作することが必要かなと思いました。

今回やったことをベースにすれば面白い模型展示を作ることができそうです。実用化については自分の役割ではありませんので、ごりごりの研究者にまかせましょう。


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