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実話! たった1人の行動が大きなムーブメントとなった感動話【朗読 台本】

はい。どんどん貼っておきます。記事数をどんどん増やしていくスタイルです。

20200612  SEOを意識したタイトルになりました。なんだかなぁ。

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規約はこちらに記載あります。

タイトル 「コーヒーを一杯」 所要時間 約10分


※この物語は2014年8月20日、米フロリダ州セントピーターズバーグにあるスターバックス内で、実際に起こった出来事を元に創作しました。

本編

2013年1月19日 スターバックス 仙台市駅前センター店


店内には、珈琲の香りがどぎついほど漂う。

口内に苦味を感じる程、蒸せ返る香気は如何にもチェーン店といった装いだった。

カウンター手前には、幾人かの列が出来ており、テーブル席は満杯。
「コーヒーを一杯」
すらっとしたシルエットスーツの男性が、ホットコーヒーのラージサイズを注文する。

「540円です」男は一万円で支払う。
「はい、お返しは……」と元気に接客する女性店員を遮り、紳士が世間話をするように親しげに話す。

「お釣りの分、後のお客さんのコーヒー代を払ってあげて欲しい。余った分は……そうだな店内に設置されていた義援金箱に入れたらいいだろう」

紳士の発言の後に、2.3の押し問答があったが、店員に納得してもらい、紳士は帰っていった。


理由については語らなかった。ただ、一言。
「こういう日があっていいじゃないか。たまにはいいんだよ、たまにはね」

35杯目

今日は1人でコーヒーを買って大人になる。


おかしいくらい並んでいる行列の中、小さな少年はじっと順番を待つ。


小学3年生の秋葉勇人にとって、1人で苦いコーヒーを買う行為は大人への立派な通過儀礼だった。

勇人の家は、仙台市内で有数の資産家である。激務の父とは半年程顔を合わせた記憶がない。

半年前に父と約束した。
「俺がスターバックスのホットコーヒー飲んだら、1日仕事休んで」
勇人の父は笑顔で了承する。勇人のコーヒー嫌いを父は知っていた。

お父さんとキャッチボールして、楽天のナイターを見に行くんだ。

勇人はインスタントで何度も何度も練習し、苦難と努力の結果砂糖なしのミルクコーヒーを飲むまでに成長する。

そして、本日母の許可が下りようやくスターバックスにやってくる。

勇人には、30分弱の待ち時間なんてあっという間で、いつの間にか勇人はカウンターに到着していた。


さっき、コーヒーを頼んだからお金を出さないと、と勇人は財布から硬貨を取り出そうとする。

しかし店員がニコニコしながら言った。


「お客様、もう料金は頂いております」
「えっ、どうして?」

「前のお客様があなたのコーヒー代を支払いましたから」
「えっ?」
「はい。コーヒーをどうぞ」

勇人は考えた。
大人なら、この時どうするんだろう。

そのまま、もらって帰っちゃう。
でも、僕の後ろで待ってる人がいる。

待ってる大変さを、僕は知ってるんだ。
大人なら……パパやママならどうするか。

「お姉さん、僕、後の人のコーヒー代を払うよ」

僕の後ろで、ちょっと驚いていた大人の人。
ふん、僕ももう大人なんだからな、気遣いだって出来るんだ。

コーヒーを持ち帰る勇人の顔は、晴れやかだった。

156杯目

偽善そのもの、それよりも醜悪な下衆の所業。

小説家の藤原衣緒(いお)は、カウンターにて憤慨した。

「あなたのドリンク代は、前のお客様が支払いました」

冗談じゃない。

こんな偽善の押し売りに参加する為、私は並んだんじゃない。

スタバがこの辺には駅前店にしかない。異様な混みで、イラつきながら我慢して順番を待っていただけだ。


大体なんだ。

つまりは前の人がおごったから、後の人間も同じ様にして、気持ちの悪い善意の輪を広げて行こうって話しでしょう。

虫唾が走る。ウエー。

善意の行為自体は別に問題ない。だけど、他者に善意を強いるのは、我慢ならない。

衣緒は寝たきりの父と暮らしている。衣緒の父は真面目で責任感が強く、優しい人だった。

優しすぎて厄介事や仕事を、先輩・同僚・後輩に押し付けられ潰れた。うつ病になり会社を休職のち退職する。

当時の父の日記を内緒で読んだ。

先輩や後輩達は、皆公然と職場で出来損ないのゴミ・給料泥棒と罵倒していたそうだ。


そいつらは人間じゃなかった。

俺が家族を支えねば、という強い責任感から自分の現状に絶望し首を吊る。

しかし、天井の梁が折れ九死に一生を得る。

衣緒が大学を受験する一年前の話だった。
母は2年後に亡くなってしまう。

最後まで父の心配をしていた心優しい人だった。

以後父は後遺症で寝たきりになった。
衣緒は進学を諦めバイトをしながらシナリオライターの講座に通った。

公募の賞を取り、底辺ながらなんとか父と2人で生活できる程度に仕事も貰えている。

父はスターバックスのラテが好きだった。
彼の為、仕事の打ち合わせの帰りに衣緒は並んだ。


衣緒は思う。


父さん、時には子供になっても良かったの。

大人って、どんな時でも大人じゃなくてもいいの。

人に助けを求めたって、いいんだよ。


好物のラテだって、子供みたく我慢せずに飲んで良かったんだよ。


父さん、私……父さんには子供でいてほしかったんだ。


みっともなくてもいいから。

泣いてぐずぐずになってもいいから。

『助けて』って言って欲しかった。


「お客様、どういたしましょう?」
目の前の、笑顔が素敵な短髪黒髪の青年は衣緒に訊ねる。


彼はきっと私にこう言って欲しいんだろう。

後ろのお客分を払いますって。

でも、と彼女はギュッと唇を噛みしめる。

私はやらない。それよりも……もっと渡すべき人間に、私は支払う。


衣緒は財布をごそごそさせながら答える。

「払いません。別に義務でもなんでもないんだから」

「かしこまりました、ありがとうございました」

衣緒は財布から抜き出した一万円札を、店員に渡す。


店員は困惑している。

「お客様!?」
「チップだと思って受け取って下さい。それじゃ」

「そんな、チップだなんて」
「いいんです、心苦しいなら……ミルクが置かれている所の義援金箱にでも突っ込んで上げて下さい」

ぽかーんとした店員を無視して、衣緒はスタスタと去っていった。

彼にコーヒーを奢る人間はいないだろう。
加えて、長蛇の列をさばいてもニュースで話題になっても。

店舗が豊かになるだけで、彼や他のスタッフは何も変わらない。

厄介事をただ押し付けられたままだ。

だから……


久しぶりにニコニコしながら、衣緒は家路へ向かった。


「すごい、奇跡って意外と何度も起きちゃうものなのね」

バックヤードから出てきた女性店員が、同僚の男性に話しかける。

「本当、そうですよね。あんなに行列が途絶えなくて、善意の輪っていいもんですね」

「違うの」
「へ?」


「確かにそれもすごいけど、無償で赤の他人のコーヒー奢ってあげる人が、2人もいたんだから」
「ん?それはどういう……」

「後で教えてあげる。みんなに言いふらしましょう」
「先輩、あまりお客様の話しは」


「いいの。広める事が、私やあなたに出来る1つの善行なんだから」

納得していない様子の男性店員を尻目に、スターバックス勤務の女性アルバイトは、満面の笑みを浮かべていた。


(了)

以下蛇足です。

尚、実際二日間で700を越える人が、コーヒーを奢ったそうです。

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