短歌入れれます 6/3-6/14

ご投稿いただいたみなさま、ありがとうございました。今回は「面白いな」と思った歌から3首とりあげます。

音と声は似ているようで声こそが贈り物なり お元気ですか / 松本夏南

声⊂音だと思うので、〈音と声は似ているようで〉というのは把握として若干気になるところではありますが、ここではどちらも「聴覚的に捉えられるもの」としての〈似ているようで〉という把握があるのだなと思いました。
聞こえた音から言語、指示性だったりメッセージ性が想起されると、それは声とみなされて相手に届けられる。届けられる、というよりかは、声を聞いた側は、声から自然と話者の発話内容を探ろうとする側面があるのだと思いました(それが「あ」とか「ぎゃー」とかであっても)。
歌ではそれを〈贈り物〉としてポジティブに〈なり〉と断言する。だから結句で〈お元気ですか〉という挨拶が、着地点として素直に導入されたのだと感じました。発話者としての〈お元気ですか〉を言いたい気持ちはしっかりとあり、一方でこの口調にそれほどハイテンションな印象がないのは、初句二句の77で引き延ばしている点と「なり」を使ったかもしれません。
助動詞〈なり〉は、口語と混ぜたときに「ぬ(ずの連体形)」とか「し(きの連体形)」にくらべて目立ちやすい印象があり(この助動詞が持つ意味も断定だし)、文体としてどう扱うかが難しいところです。ここでは〈こそが〉の強意でカバーしている感じもありますね。

駅を出て最初に飛びこんできた文字それが私の名前になった / 岡方大輔

「物語、始まりそう」と思いました。
〈飛びこんできた〉〈文字〉というところから、存在感のある看板があって、そこに書かれた文字が目に飛び込んできた景をイメージしました。〈最初に〉だから、周囲にはほかにもその候補となりえたものがあって、割合にぎやかな駅周辺だったのかもしれません。
と上の句までは比較的生活詠的に読めたのですが、下の句で急にその感じがぐらつきます。多くの場合、人間は生まれたら名付けられるものです。しかし〈私〉は、駅をでてこの土地に降り立つことで名前を取得した、という。そのような状況にいたる可能性はいくつか考えられるわけですが、一首の中では明示されておらず、その謎によってスリルを孕んだ一首になったと感じました。

頸椎に ラムネを一つ 積み重ね ほろほろ溶ける 恋をしようや / 幾年

最初、上の句の景がうまく想像できず読めなかったのですが、〈頚椎〉と〈(粒)ラムネ〉の見立ては新鮮だなと思いました。〈一つ〉で〈積み重ねる〉という動詞のチョイスはいいのか、少し考えたのですが、頚椎の上にさらにラムネを積むということであれば成り立つのかなと。下の句では、積んだのに、ラムネだから〈ほろほろ溶け〉てしまうところに〈恋〉のイメージの強さ、を見ました。
個人的には〈恋をしようや〉の「しようや」の文体が結構攻めていておもろしろかったです。ここが「しようね」「しようよ」だと、甘すぎてとれなかったと思うので。〈しようや〉に含まれる強引のニュアンスが効いているのかもしれません。

以上です。たくさんの投稿ありがとうございました。
明日以降の募集分からは「ぐっときた歌」について評します。
引き続きよろしくお願いいたします。

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