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短歌入れれます(2020.10~)⑧

前回評は上記からお願いします。

本日の一首

理不尽は理不尽でしか冷ませないさけるチーズをさかないで焼く / 長井めも

一読して「理不尽に対する怒りを抱え、それをどうにかやりくりしようとする作中主体」の姿を思い浮かべました。
歌の構造としては、上の句が下の句の光景の説明として提示され機能する形です。

まず気になったのは上の句の表現でした。上の句は「毒を以て毒を制す」ということわざの形を借りているので、意味内容を取りにいくことができるのだと思います。ただ「理不尽」は「道理をつくさないこと。道理に合わないこと」を意味していて、それ自体が熱を帯びたりするわけではありません。その観点から見ると〈冷ませない〉には違和感が残ります。ただここにはおそらく省略があって、理不尽に対する「怒り」が入れられているのでしょう。怒りであれば、はらわたが煮えくり返ったり頭を冷やしたり、温度に連関させることができます。

それを踏まえ一読したときに気になったのは、結句の〈焼く〉との組み合わせです。「焼く」という行為は温度を「上昇させる」ほうに持っていきます。上の句の「冷ます」とは逆向きのベクトルです。上昇と下降が一首のなかで同時に展開されると、どちらに着地しようとしているのかややぶれるようにも思いました。
一首としては〈でしか冷ませない〉という言い回しや下の句の行為から、怒りのさなかだとわかるので、怒りによるこのしっちゃかめっちゃかな感じもありかなと思うのですが、上の句は「説明」を担っている分、スルッと入ってきづらいのは気になるところでした。

下の句で展開されるのは「理不尽な扱い」そのものです。わざわざ割きやすく食べられるようにした雪印の商品「さけるチーズ」を割かずに、しかも焼く。「焼く」ことで、業火によって責め苦を受けさせているイメージが浮かびます。八つ当たりみたいですが、ただそれが調理という日常の(ささやかな)一コマであるために、怒りを「おこ!」としてポップな方向に処理する感覚があります(怒るんだけど、理不尽なことをしてきた相手には激しくは攻撃できない感じ)。

個人的には、下の句にユニークさがあると思うので、上の句は言い差しぐらいにして、そちらに力点がいくようにするかなあと思いました。

また気になったので検索したところ、下の句のレシピ、公式で公開されていました。


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