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短歌入れれます(2020.10~)①
はじめに
お久しぶりの「短歌入れれます」企画です!前回は2月だったらしい。
このたび募集したところ全部で9首いただきました。ありがとうございます。先着順で、一日一首ずつ評していきます。10月中にすべてアップする予定です。なお今回は作品も引用します。
またわたしの評を読んだことある方はご存知かと思うのですが、そんなに面白いことは書きません。ただし思ったことを真剣に書きます。よろしくお願いします。
一首評(本題)
BPM80くらいの風が吹き俺のチャリまた盗まれている / あの井
この歌を決定づけるのは上の句〈BPM80くらいの風が吹き〉の部分なんだけど、先に下の句から考えます。
自転車の盗難、まあまあショッキングな出来事です。物を盗まれるという悲しさに加えて、自転車を盗まれるとそのあと歩いて帰らないといけないからなおさらだるいでしょう。そういう出来事が〈また〉起こってしまった。そうそう起きない不運の再発に、人によっては悲しみを通り越して怒りさえ感じるかもしれません。
しかし、主体からはこの歌の時点でそこまでの悲壮感が漂っているようには感じませんでした。印象的なのは、〈盗まれている〉ことがわかった瞬間の、「まじか、またか」という驚き。結句が過去形でないことも、より「今」この時の驚きを立ち上げているように思います。加えて〈チャリ〉という砕けた表現や、チャリのあとの助詞「が」の省略により、話し言葉の持つフランクな方向へ印象づけられる。ショックな出来事が起きるとすぐに悲しさがやってくるのではなくて、ワンクッション挟まる、その心の動きが捉えられているように思いました。
ようやく上の句の話になりますが、まずBPMを「Beats Per Minute」、日本語でいうと一分間の拍数、だと解釈しました。音楽用語だと「テンポ」のことです。BPM80は、ややゆっくりなテンポです。だからこの表現の意味としては、「ゆっくりと風が吹いてきた」と解釈しました。景色としては風情のある感じですが、いわゆる指示記号で表現されているので、そのあたりのニュアンスは語の意味を掘り下げないと読み取りづらいようには思いました。
この表現の効果ですが、映像作品などでショックな出来事の直前に、目の前の物事がスローモーションになる描写があると思うのですが、あれに近い効果も感じました(上の句の音数は「6・8・5」でややもったりしていること、〈80くらい〉というぼかしかたもその要因だと思います)。
また歌の構造上、「ゆっくりとした風が吹いてくる → 自転車の盗難」と接続しますが、詩情ある描写から急転して現実を突きつけられる展開の変化も面白いです。面白さで言えば〈BPM80くらいの〉が修飾する先が〈風〉なのも不思議です。人は驚いたとき、よく心臓がドキドキすると思うのですが、この一首では「拍」であるBPMを結びつきの強い心臓につなげなかったのもよかったように思います。ただ歌意としては、語と語の結びつきを探る必要があるので読解の負荷は高くなるように思っています。
BPM80で検索するとこれが一番に出てきました。これくらいのテンポです。有名な曲だと、スピッツ「楓」、小田和正「たしかなこと」、青山テルマ「そばにいるね」が該当するようです。
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