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短歌入れれます(2020.10~)④

短歌入れれます④です。前回評は上のリンクからお願いします。

本日の一首

明日にも飲むかもしれない錠剤がさっきなくなって泣いちゃったんです / 坂本阪本

待って待って。

一瞬「それは困ったねえ」と声をかけたくなったんだけど、待って。〈明日にも飲むかもしれない〉って何。〈錠剤〉とあるから薬とかサプリメントだと思ったけど、基本服用する間隔って決められてるだろうし、習慣的に服用してなくても錠剤を飲むことが想定されるシーンってそんなに幅ないよね......? 「明日にも」の「にも」の逼迫した感じ、から考えると、主体にとってはなにかとっておきの錠剤なんかな......てかこの錠剤そもそも何用なんだ。

と、のっけから不安にさせてくるこの一首、読み進めるとさらに「???」な感覚が引き起こされる。

仮にこの錠剤がここぞのときのお守りのようなものだとして、〈さっきなくなって〉ってなんだ。紛失したのはわかるけど、めちゃめちゃ今なくしてる感じするけど。この今っていうのは、それまで肌身離さずじっと目も離さないくらいの勢いだったのに、一瞬目をそらしたらもうないぐらいのやつじゃん。〈なくして〉ではなく〈なくなって〉なのも、自分以外のものの手によって、という含みがあって謎だ。「明日にも」っていうぐらい逼迫してて、なくしたら絶対ダメそうなのにまじで何があった。てかちゃんと探した? なくて泣いちゃったのに「よく見たらありました」とかならんよね??

とここまでツッコミが炸裂してから、いやこの歌はもっと単純に「大事なものがなくなって悲しかった」ということを言いたいのではないか、とも考えた。それにしては、言い回しの不安定さが気になる。やけに持って回ったような言い回しは、定型の音数を優先したことによるものかと思いきや、よく見れば韻律は5・8・5・8・8なのだ。音数とともに不安感がフォーカスして引き延ばされる感覚。全体的に狙ってるのかいないのか、警戒したくなる一首だった。

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