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はじめての一首評 〜どう書いたらいいんだろ?〜

短歌を作ったり読んだりしていると、「一首評」という言葉に出会います。一首評は、字面の通り、短歌作品一首に対して評をすることです。評は基本的に、作品を読んで思ったことを書く、言葉にすることから始まりますが、「何を書いたらいいんだろう」「どう言えばいいかわからない」など、なかなか悩ましいものです。この記事では、「一首評を書く」プロセスについて考えてみたいと思います。

念のために書いておきますが、これは評を書くための一つのやり方として、私が実践しているもの、になります。いろんな書き方や言語化があると思いますので、まずは気軽に評に取り組むことをコンセプトにしたいと思います。

1. 短歌作品を読む

評をする上でまず大切なのは「作品を読む」ことです。目の前にある一首を、まずは上から下まで読んでみる。最後までいったらもう一度読む。そうやって読んでみると、
・一首のなかで、はっきりと言葉にしてあること
・一首のなかで言葉にされていないが、想像できること
・一首を読んで呼び起こされた自分の体験や記憶
など、さまざまなことが思い浮かぶと思います。まだ言葉にしなくていいので、この一首を読んだらこんなイメージが出てきたなあと感じてみます。
一首を読むというのは簡単に見えて、大抵の場合、いろんなイメージが押し寄せてくる、もしくはうまくイメージできない、などこんがらがった状態になることが多いです。「わー!!」となってもいいので、一首を最後まで読んでみます。

2. 一首を読んで、思い浮かんだイメージを言葉にする

読んで何かイメージが浮かんだら、それを言葉にしてみます。言葉にし始めるときにとっつきやすいのは、その歌で描かれている状況でしょう。ここでは最初の手がかりとして「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうした」の5W1Hに当てはめつつ、状況をつかみます。例として以下の短歌をもとに考えます。

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日 / 俵万智(『サラダ記念日』)

いつ:7月6日(夏) どこで:家??(※書いてないので正確にはわからない) 
何を:7月6日という日を どうした:サラダ記念日(と決めた)
なぜ:「この味がいいね」と君が言ったから

ひとまず、この一首で読み取れるのは以上の情報です。さらにここから、明確に書かれてはいないけれど、展開として他に想像できたことを言葉にします。

・「この味がいいね」→料理に対する褒め言葉。褒め言葉はうれしい。
・料理を振る舞う関係にある→君は親しい人?
・記念日というのは特別な日のこと→〈サラダ記念日〉は造語で、記念日ということで、7月6日を個人的な思い入れのある日にしたいと思った。

と考えついたことを踏まえて、最初の状況と照らし合わせながら、この歌から読み取ったことを次のように表現してみます。

親しい人に自分の手料理が褒められてうれしかったので、7月6日という本来であればなんでもない日を特別な記念日にしようと思い、「サラダ記念日」と定めた。

ここまで言葉にしてみると、「なんでもない日を記念日にしてしまうくらい、親しい人に褒められてうれしくなった人物の姿」が思い浮かぶかと思います。

3. 一首からどんな印象や雰囲気を感じたか、言葉にする

状況がわかったら(あるいは状況がわからなくても)、この一首からどんな印象、雰囲気を得ることができたか、言葉にします。複雑なことを考えなくても、
明るい?暗い?静か?楽しい?怖い?切ない?など、感じたことを言葉にしてみます。先ほどの短歌を再び読んでみましょう。

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

先ほど述べた「なんでもない日を記念日にしてしまうくらい、親しい人に褒められてうれしくなった人物」がうれしがる姿を描いたこの一首は、楽しげでうれしそう印象があります。また「7月6日」という夏の暑くなる時期に出てきた「サラダ」に爽やかな印象を受けるかもしれません。

4. 一首の表現でよいと感じた点を言葉にする

最後に、その一首における表現や描写などで、良かった点を言葉にします。

・描写が丁寧で、状況がはっきりと想像できた。
・比喩(例え)がこれまでに見たことがないもので、かつ的確に示していた。
・作品の表現から新しいものの見方(発見)を得られた。
・音のリズムが良く、声に出して読むのが楽しい。

他にもいろいろ出てくると思います。また、一首の表現において違和感のある箇所も出てくると思います。そのときは、その点について述べます。気をつけたいのは、「〇〇ではないからこれはダメ」と頭ごなしに否定しようとすること。「この作品は苦手だな」「いまいち面白さがわからない」と感じることも当然あると思いますが、表現に絶対的な正解はありません。その上で、何に引っかかっているのかを、丁寧に考えて言葉にしていくと、新たな表現を得るきっかけになるかもしれません。

と、以上ここまで書いてみましたが、5W1Hに当てはめることができない作品もたくさんあります。その上で、何が作品のなかで明確に言葉にされているか、書かれていないけれどどんなイメージを思い浮かべて補ったか、を言葉にしていくと、読めないと思っていた歌を解釈するきっかけになります。評をすると「自分の読みが間違ってるかも」と思うことも出てきますが、自分から出てくるのは自分の読みだけです。作者の意図を探ることで作品の解釈を導くこともできますが、まずは自分が読み取ったものを言葉にしてみることで、その作品をより味わうきっかけになるのではないかと思います。

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