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短歌入れれます(2020.10~)②

「短歌入れれます」②です。企画趣旨、前回の評①は上のリンクをご覧ください。

本日の一首

静かに大地を割る指紋認証そんな気なしにこわせる世界 /ぱんにん

定型の音数で区切ると、上の句は

しずかにだ・いちをわるしも・んにんしょう

となります。意味で区切るなら

しずかにだいちを/わる/しもんにんしょう
そんな気なしに/こわせる世界

8・2・7・7・7かな。抑制の効いた調べですが、「わる」の切り替えが強め。一首全体の音の密度は低く感じます。

この歌の解釈が難しいと思ったのは、上の句が「景色そのもの」なのか「比喩表現」なのか定まらないところです。
指紋認証はスマートフォンでの導入で一般的になったと思うのですが、「機器のロックを登録した指紋を読み取らせることで解除する」というかなり具体的な行為です。指を押し付けるときは、音を立てずに内側から外側に向かって力がかかるイメージがあるので、それが〈静かに大地を割る〉イメージを導くのにはなるほど、と思いましたが、じゃあこの「大地」とは具体的に何を指すのかまでは明示されていません。下の句でも〈世界〉という観念的な言葉が出てくるので、ファンタジー的な世界観での情景か、現実世界の脆さに思いを馳せているのか、解釈できるなと思いました。

この歌の構造を見ると「上の句体言止め・下の句体言止め」です(余談ですが私はこのタイプの構造を、「見得切り型」と呼んでいます。歌舞伎の見得を切る、キメの感じがするから)。
このタイプの構造は、一つに事物の対比を強調させる効果があります。対句法のイメージです。裏を返せば、上の句と下の句の接続がぶつ切りになりやすいともいえます。なお、今回は対比というよりかは、「A=A’」、同じことの言い換えとして使われています。

上の句:「指紋認証」というささやかで何気ない行為が、大地という盤石なものを壊すことができる
下の句:何気なくやったことが、盤石な世界を破壊できる

上の句だけだと光景の描写に留まり、作者の意図までは反映されていないので、下の句でもう一度説明する形になっている。下の句があることで意味内容は分かりやすくなったと思うのですが、やはり説明になってしまうことと、上下の接続に一瞬ラグがあるので、ここが滑らかにつながると、イメージの展開がスムーズだと思いました。最初に韻律の指摘をした通り、上の句は音と意味の区切りが大きくずれるので、そこも相まっているような気がします。

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