見出し画像

短歌入れれます(2020.10~)⑤


折り返しました、⑤です。前回評は上のリンクからどうぞ。

本日の一首

月面でくしゃみをしたら果てしない宇宙旅行の始まりでした / 5.74ft歌会サイト「うたの日」 2020/7/12 題詠『くしゃみ』

意味内容は取りやすく「月面という無重力空間では、くしゃみをするというちょっとした衝撃で身体が浮いてしまい、そのまま宇宙に投げ出されてしまった」と解釈しました。この太字部分を〈果てしない宇宙旅行の始まり〉と比喩的に言い換えることにより、「果てしなさ」「旅行」「始まり」といった言葉のイメージが、詩情をもたらしてくれているように思います。ただし一首における状況がユーモラスなので、ポエジー過多にならないのは一つポイントかもしれません。

今回考えたいのが結句の「た」です。この助動詞「た」は、おもに過去や完了、存続を意味します。つまり「現在から見て昔のことや、昔からスタートして今に続くこと」を示します。この一首では〈始まりでした〉とあるので、存続の意味合いが強いかなと思います。〈始まり〉にあたるのは、現在(うたわれている地点)から見て過去の地点に当たるわけです。ということは、この一首の時点ではすでに宇宙旅行をしてしまっている最中となります。

そんなの言われなくてもわかるよと思うかもしれないのですが、この一首では「宇宙旅行をしちゃってる」ことは示唆されるのだけど、具体的な宇宙旅行についての描写はありません。きっかけはあるけれど、現在のことに対する言及がない。そのことで読者の側は、この一首の現在(うたわれている地点)はもちろん、旅行が始まってからのこと、そして今後のことを想像する余地を手に入れることができる。というか余地を手に入れさせられるわけです。読後感や余韻と呼ばれるものとも(多分)少し違って、読者が自由に想像できる空間が展開されます。そうやって創造的な想像力を手にすることは楽しさでもあって、初句二句のユーモラスさから、シリアスな情景よりもわくわくした印象が導かれるのではないかと思いました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?