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短歌入れれます(2020.10~)③

「短歌入れれます」③です。評②は上のリンクをご覧ください。

臨月の母のお腹に還りたい眠りの海で数える羊 / 花房香枝

一首のなかで用いられる語同士の連関が重層的な歌だ。

「臨月」、妊娠中の胎内では、胎児は目を閉じ眠っているかのようにイメージされることが多い。このイメージを維持しながら接続する「眠りの海で数える羊」と言う表現は、「眠れないときには羊を数える」という謂れを踏まえつつ、「海」という比喩(として解釈した)に加えて「羊」という字面からも羊水を想像させるだろう。また、「海」は生物が陸上する前段階の生活空間であったり、ニライカナイの思想のような「還」るという動作と関わる場所でもある。

作品を読む上で以上のようなことを考えたわけだが、そういうことを抜きにしても、一読して情景がイメージできそうな一首のようにも思われた。守られているお腹のなかは主体にとって「安全」を象徴する場所であり、誰にも邪魔されることのない眠りについて安心を求めようとする主体の心境がある。
なお先ほど臨月との連関で「眠りの海」は胎内の比喩として解釈したが、単純に睡眠の詩的表現として読むこともできるだろう。その場合は、安心を求める心境のなか、羊を数えて眠りにつこうとする主体像がイメージされた。

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