短歌入れれます(2020.02~全首評)⑨

三首アップです。次回が最後になります。

街田青々さん

下の句で提示される光景が、上の句で展開される主体の想像の根拠となる構造ですが、根拠として読むには若干の分断があるように思いました。二句目の動詞と結句の表現(特に名詞)にイメージ上の連関を見出すことはできるのですが、主体が上の句で言及したように想像する経路が描かれていないので、なぜ下の句から上の句の表現が引き出されたか、それによって上の句で言おうとしたことは正確にはどういうことだったのかが、謎となっているように思いました。最後を断定にせず、〈で〉の言い差しにすると理由を導くニュアンスがつくようには思いました。

橋本牧人さん

主体は、この一首に描かれる状況へ戸惑いを提示しながらも、どちらかというと面白がっている感じがあります。それは三句目の口調の文体によるところが大きく作用しているからだと思います。個人的には結句の言い差しが客観性を帯びているので、ちょっと誰の視点で見ているのかがわからなくなる感覚がありました。破調気味の韻律ですが、定型に寄せているタイプなので音数としては気になりませんでしたが、はねる感覚に落ち着かなさはあります。

中嶋可絵さん

ミステリアスな状況ですが、その背景は一切語られずにストーリーが進行するタイプの一首だと思いました。その場合、オチにあたる結句のインパクトやギャップが読者の注目を集める上では重要になると思うのですが、インパクトは感じました。また二句目から四句目にかけて細部の描写が具体的なのも、(この歌の物語背景には踏み込めないけど)光景をイメージさせる力があると思います。初句の名詞と結句の名詞に、作者がイメージの類似性(色とかサイズ感とか)を見出しているようにも感じたのですが、初句の名詞が固有名詞なので、これがなにか知らないと、この一首においては読み進めるハードルとなりそうです。

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