見出し画像

自作の推し短歌ください・⑥


バターナイフはバター塗ってりゃいいんだよとバターナイフがいうかなしさよ / 白水ま衣

一見、とぼけた味のある文体で親近感のようなものを感じさせるが、歌の意味内容は自虐の悲哀がただよう。

ナイフであれば食事中の「切る」という行為の必要な場面で重宝されるが、バターナイフはバターを取り分けて塗る、ぐらいしか使い道がない。(というか、そのための専門道具だから、用途が限られているのが普通なのだ)
その使い道の少なさを他者から指摘されるかなしみというものも存在するが、この一首では、四句目で発話主がバターナイフ自身であることが提示される。
そのことにより、身の丈に合わない願望を未練ありげに投げやりに諦める、態度の悲しさが浮き上がる。

とここまで読んできたが、バターナイフをなにかのシンボルとして読み替えることも可能だ。そもそもバターナイフは発話せず、また意志ももたない無機物であるため、このバターナイフのものとされる発話は主体により編集されたものである。ゆえに、このような発話をする人物に置き換えることも容易だろう。
ただ個人的には、バターナイフがそのようなことを言うもの悲しさの上に乗るおかしみがこの歌の魅力なのだととらえたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?