「短歌入れれます」一首評・3/3
みかんより何十倍もみかん的なくだものに縁のある冬の昼 /水沼朔太郎
〈何十倍も〉は〈縁のある〉にかかるものとして読むと、「みかんといえば冬」のイメージを裏切るシーンに出くわした状況としてとりました。
[無粋ですが、語順を整理してしまうと「みかんよりみかん的なくだものに何十倍も縁のある冬の昼」という形です。]
意味の上では、〈何十倍も〉の語が、このシーンに立ち会った際に主体が得たインパクトの大きさを示していると思うのですが、〈冬の昼〉というどちらかといえば静的な舞台が結句にくることで、「そういうこともあるよな」と出来事を重大事件のように扱うことなく、ひとつの景色が置かれている歌だと捉えました。〈冬の昼〉も厳冬はイメージされず、それは〈みかん〉のもつオレンジ色の明るさに連関するのかなと。また〈冬〉は幅のある語ですが〈冬の昼〉まで言ったことで、ある一日という限定された時間性を思います。
〈何十倍も〉が〈みかん的なくだもの〉にかかる読みもあると思いますが、その場合〈みかん的なくだもの〉の読み解きに終始してしまい、歌の読みどころから離れるように思いました。
【短歌入れれます】とは
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