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自作の推し短歌ください・①

というタグ遊びをしたところ、7首いただきましたので、1日1首ずつ評をします。

真夜中に楽器を吹けばやってくるだろうすごく怒るおじさんが / 平出奔

言われてみれば確かにありそうで、しかし実際にこの状況が普通に起きるかといえば、あまりないのではないか。〈真夜中に楽器を吹〉くという行為は想像に難くないが、(吹くタイプの楽器ではあるようだが)楽器名への言及もなく、真夜中に吹く状況の背景は一切見えてこない。
また、〈すごく怒るおじさん〉というのも思い浮かぶようで、おじさんがどのよう怒るかのディティールは描写されていない。上の句にどこかアニメチックな印象を受けるのは、おそらく主体自身がこの光景を自分の目で目撃したことがないからではないか。

かといって、主体の「想像」のなかで展開されているこの光景はちっとも曖昧ではない。確かに輪郭を持って立ち上がる。そのような説得力を持たせるのは、〈だろう〉の一語にあるのではないか。

〈楽器〉や〈すごく怒るおじさん〉という大まかで、読者の想像を狭く指定しない把握は、ともすれば描写を読者へ投げっぱなした状態にしてしまう。しかし〈だろう〉という推量に近い思い馳せの一語を得たことで、この大まかな把握は、光景に対して、読者に自発的なイメージを喚起するように働く。「主体が想像する」ことに注目させることで、「想像すること」へのリアリティが明らかにされる一首である。

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