見出し画像

自選30首-1

結社誌「かりん」より
父の言うちえこの好きなものすべて幼き頃のわれのそれなり       2017.8
日和ってんじゃねえよですよと後輩の声ぞ刺さりてハツも頼みぬ     2017.9
そうか君も秋に去ったな見上ぐればセメントのビル壁苔むして      2017.11
長雨に明るい自販機打たれおり指先の熱移らぬ「つめた~い」      2018.1
加油加油弾ける音から香りたつ身を焦がしてもきれいな鍋巴       2018.1
文脈を違えながらも話しおりイカ墨パスタのソースを飛ばす       2018.2
たんぽぽの綿毛見つけて「たんぽぽ、」と触れずにおればあなたが触れる 2018.2
もーだめだっておどけてみせる目玉焼きぐちゃぐちゃでまた笑ってしまう 2018.3
エリンギはキノコの仲間やないよってうつむきながら嘘に浸った     2018.4
ぬばたまのクロネコヤマトが来た外の雨の凍えを吸って ほら、雪    2018.4
アパートの小春日和のへやのなかHUHUHUと打鍵するかろやかに    2018.4
缶チューハイ半分飲んで捨ててみる誰も叱らず誰も喜ばず        2018.4
生卵腐れてしまい思い出す植木鉢にも水をやること           2018.6
やるせない しかし群れ咲くしののめの朝鮮薊に触れれば痛い      2018.6
言うことを聞かない子にはおしりをぺーんぺんぺん草の野はらに拓く   2018.7
五月晴れ風なめらかな新宿にプールびらきの匂いがよぎる        2018.8
みんなみんな分かってくれない夜があり洗濯バサミかちかち鳴らそ    2018.8
海の音うすく流れるまま眠りスマートフォンの充電尽きて朝       2018.9

短歌連作サークル誌「あみもの」
第三号「春ですか、もうわかりません」 2018.3
顔ですか春の湿りに侵されて誰に会ってももうわかりません
らゔあんどぴゐすうららかてのひらにちぶさつめたい清澄白河
第八号「湖に触れ」 2018.8
いやよって、横顔だった 晴れていた くしゃみの音もすごくよかった
湖にみずの匂いがすることを秘密と思う するから、電話

詩誌『福岡ポエトリー』vol.5より「Shu. Ha? Re:」 2017.6
まよなかに体が溶けてゆかぬよう豆電球を消さずにいた子
足がいたいねもうすぐかなあなんて冗談めいて瞬いた光、星かなあ、あれ

『吃・chī』(チー)vol.2より「李(リー)とちー」 2018.9
痩せなきゃ。と思う心だ。わっはっは。ツナ缶ばかり食べて見せて春
マヨネーズ照り焼きパンの もうずいぶん前にだめだと気づいていたが

『福岡歌会(仮)アンソロジー』
Ⅳ より「歩みのための」 2016.6
柔らかくなったガルボを食べ終えて歩みのための天国に入る

Ⅴ より「すいぞくかん【水族館】」 2017.6
船のなき港に揺るるハマユウのうつむき長くまひるまを過ぐ
生き延びよしばし眼は打ち捨てよ 海底都市、ぬるい息を殺せ

6 より「惑-性」 2018.6
差し掛けた傘に見出す庇護欲のゆがみのうちに雨は呼ばれて

2016.4~2018.9で詠んだ歌から選びました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?