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自作の推し短歌ください・②

昨日に引き続き、2首目です(明日はお休みします)。

愛してもいいと思った 海岸であなたが貝に躓いたとき / 坂中茱萸

主体と〈あなた〉の関係は、それまでほどよい距離感で均衡を保っていたように感じた。
それが〈貝に躓く〉という隙※があらわれたことにより、主体の心のうちには、これまで占めていたあなたではないあなたが入り込んできてしまった。

以上の読みをもたらすのは、心の機微を一手にひきうける〈も〉の存在である。
これまでの〈あなた〉との距離感はもちろん、愛するという選択はあくまでも主体の意思によって選べること、に見せかけて実はすでに愛する方へ転じそうな予感をはらんでいることなど、を助詞一語に集中させている。

ある関係性が結実するとき、裏を返せばそれ以前に保たれていた関係性は崩れるとも言えるわけで、そのギリギリ、保たれるか変質するか、のバランス感覚がこの一首にはあると思う。それが〈躓く〉という行為によってもたらされることも実に予感的である。

※(野暮なことをいえば躓くことができるほどの貝があるのか、という問題があるがここではささやかだが固く存在しているものとしてとらえた)

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