見出し画像

短歌入れれます(2020.02~全首評)⑤

本日は四首です。

鯖寿司さん

インパクトの強い不思議な一首だと思いました。状況がミステリアス(日常と非日常の融合)ではありますが、それ以上に、三・四句目の形容から、おそれの念も抱きつつ相手に惹かれてしまう主体の好意(心酔)のようなものを感じました。三句四句の表現は、初句二句で登場する相手を主体目線で見た時の言い換えとして読みましたが、抽象度の高いものを抽象度の高いもので例えているので、言わんとしていることはわかるものの、描写としては少し具体性に欠けるかもしれません。全体的に内容の圧縮された一首ではあると思うので、連作で読んでみたいと思いました。

平出奔さん

「言われてみればありそう、なくはない」情景で共感を誘う、それも結構絶妙なところを突いてくる一首だと思います。この具体的な状況が持つエモさ(懐かしさに訴えかける力)への着目が巧さでもあると感じます。個人的には、結句を問いかけにしたことによって、共感やツッコミを狙ったような効果が見えてしまっているのがもったないと思いました(わかりやすく問わなくても、読者を立ち止まらせる内容だし、主体がそう思ったことが描写されるだけで成立したと思うので)。定型よりの破調のリズムは癖になるなあと思いました。

だやさん

言い方によってはシニカルなギャグのようになりそうな一首ですが、静かなトーンによって落ち着いた美しさの方へまとめていると思います。この歌で展開される想定を、主体自身はどうやらそのようには思っていない感じを受けたので面白かったです。冷静な口述の文体がそうさせるのかもしれません。四句から結句にかけての名詞が指し示す意味内容は、掘り下げてしまうとよくわかりませんが、二句目の名詞とイメージの連関をもたせうる語ではあるので、それほど違和感がないような作りにしてあるのだと思いました。

7235さん

二句切れで読みました。全体的に動詞が多い傾向にあり、それが一首の情報量を多く見せているように思います。初句二句と三句以下のつながりが少しわかりにくいのは、三句目の接続助詞でつないだものが、結句で言い差しになったことで、何に着地しようとしたのか散漫になっているからかもしれません。主体のなかでは、初句二句に出てくる相手よりも、儚く見える結句の名詞のほうが圧倒的に価値が置かれている様子が、シビアな印象を与えているように思います。

前回はこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?