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私が隣にいるうちに

あなたが笑う
あなたが笑ってる
その理由が
私だったらいいのにな
あなたが流す
その涙のわけもぜんぶ
私が理由だったらいいのにな


嗚呼


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通いなれたいつもの道を、今日も歩く

『あ、こんな所に...』

少し進んだ先で、見過ごしそうな道路の隅っこに、1輪の花が揺れる

『「当たり前」...じゃないよね』

この花を前は見落としていたように、今まで一体、どれだけの当たり前を見落としてたんだろうとか考えてみる。

物思いにふけながら歩くと、意外とすぐに目的地に着いた


『お邪魔します...』

「ん...」

出会った頃は無愛想だった彼も、いつしか出迎えてくれるようになった

『ん、ただいま』

「.....寒いだろ、早く入れよ」

『ふふ、ありがと』





『ご飯出来たよ〜』

「.......なんでいつも俺なんかに」

『もー、それは言わない約束でしょ?』

先に言っておくと、私と彼は恋人では無い

かといって、友達でもない

例えるなら.....【家族】かな?

でも、私は家族なんて思ってない

私を救ってくれた恩人



そして...私の好きなヒト



『どう?結構自信あるんだけど...』

「ん、うまい」

『ふふ』

「なんだよ、そんなに笑って」

彼は嘘がつけない

だから、言葉の一つ一つで一喜一憂してしまう

『じゃ、また明日来るから』

いつも通りの決まり文句
こう言うとだいたい

「もう遅いだろ、泊まれよ」

『もう!○○君のえっち〜』

「はいはい、もうなんでもいいからここにいろ」

『仕方ないな〜』

本当はすごく、すごく嬉しいけど、同時に異性として魅力がないのかなとか思って落ち込んでしまったり

『いいの?』

「何回言わせんだよ、早く寝ろって」

いつものようにベッド放り投げられ、彼は床に寝転がる

『ごめんね…?』

「こっちの方が寝起きがいいんだよ、だからお前はそっちで寝ろ」

『でも...』

「.......やっぱり追い出すぞ?」

『寝ます!寝ますから!』

「ん、おやすみ」

『え...?』

いつもは言ってくれないのに

「?」

『........ずるい』

灯りを消すころには、彼はもう寝てしまったみたい

『はぁ...なんで言えないかなぁ...』



“一緒に寝よう?”



なんて言えたらどれだけ楽なんだろう

ただ、私と彼はそういう関係じゃない訳で

『........』

彼の寝顔を覗きながらいつも考える

いつか泡みたいにあなたも、私も綺麗に消えてなくなるのかなって

だったらせめて、その日まで...

『私の......』




我儘を



『っ.....言えるわけないよ...』



羞恥心など無視して、1人でつぶやく


私が隣にいるうちに



愛をもっと私にください



『○○......』



欲張りでごめんなさい



でも、、、



〝何があっても、俺がそばに居てやる〟



そう言ってくれた、貴方の愛に溺れていたい



「ん.....うっ...」

『○○.....!』


そんな貴方は、今日もうなされている

すぐさまベッドを飛び降りて、優しく抱きしめる


『大丈夫だよ、私がそばにいるから...』

「ん...」

少しだけ、表情が柔らかくなった気がする

『.......良かった』

けど、それと同時に自分が嫌になる

彼が苦しむのを見て、聞いて、力になれている実感が湧いて、嬉しくなっている自分が

でも、


『○○...好きだよ、大好き。愛してる』


もっと愛してあげたい


『だから...』


彼が私に抱いてる感情は多分、さっき言ったこと

『私も...愛して...?』


重すぎる気持ちを今だけは声に出してみる


でも、それくらい溢れるような想いで


貴方を包んであげたいの



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懐かしい夢を見ている

誰よりも優しい父さんと、誰よりも明るい太陽のような母さんがいた。

貧しくても、幸せだった。

頑張ったらいつか報われる。
父さんがいつも言っていた

ただ、現実はそんなこと無かった

父さんが借金の保証人になって、次の日には2人とも家にいなかった

当然、高校を中退して働いた。

そこでやっと知った



妬み



憾み



辛み



クソみたいな嘘



世の中の大半がコレだ

頑張れば報われるなんてのはただの嘘でしかなかった

金が無けりゃ、頼れる人もいない

夢の中でも外は土砂降りの雨が降り注ぐ。

雨が降り続いている空を睨み
いつしか自分自信を憎む感情が湧いた

もう、すべてが消えてなくなりゃいい



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次の夢は、あの日の出来事


「なんでお前は毎回毎回突っかかってくんだよ」

『心配だから』

「もう構わないでくれ...!」

『構う、君が私を助けてくれたみたいに』

「あれはただの気まぐれなんだよ、」

『じゃあ、私も気まぐれ』

「..........もう、俺に信じられるもんなんてないんだよ」




『だったら、私が君を信じてあげる...!』



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『ん...朝か...って』

「ん...すぅ...ふへ」

目を開けると、ピタッと密着して離れずに寝息を立てているひかる

『ふへへ...』

何故かニヤケている

「っ.....おい、起きろ」

『んん....』

「おーきーろ」

柔らかいほっぺをむにーっと引っ張ると、一瞬で目を覚ました

『いだ!?...ひどい...』

「なんで毎回毎回ベッドから落ちてくるんだよ」

『それは.....』


知ってる


「.....寝相まで文句は言わねえけど、自分の身体くらい、もっと大事にしろ」

『ごめんってば』

バツが悪そうな顔を浮かべながら微笑んでいる

「ありがとな...」

『ん、なんか言った...?』

「別に、朝飯作ってくる」



本当は知ってる
悪い夢から目覚めた時、いつもひかるが傍にいてくれる事を

それと、オレがひかるに抱いているこの気持ちの正体を

けど、オレにはその言葉を口にする権利は無い

ただ
今この一瞬、この時間だけはひかるの愛に溺れていたい。


自分でも欲張りなのは分かってる。

ただ



もっと俺に愛を



こんな俺に、愛を



この、なんも無い空っぽな俺に



教えて欲しい


『何を〜?』

「ん、食器の場所」


いつの間にか、口に出てたみたいだ


『自分家なのに忘れちゃうの!?』

それと同時にひかるとは一緒にいてはいけない、
その気持ちが強くなってくる

『ん...おいひぃ...』

「食べながら喋んな」

『美味しいご飯を作る○○が悪い』

「......そうかよ」

『あ、今照れたでしょ〜』

「うっせ」

こんな、誰にでも愛されるような子が、俺みたいなヤツのそばに居ちゃ、幸せになれない

以前聞いたことがある

何でいつも俺の傍に居るんだって

その時の答えが

“私かそうしたいから”

じゃあ、今みたいなどうしようもない生活を送ればいいのか。
そう聞くと、本人は違うと首を横に振る。

“貰ったものを、返しているだけ”

何を上げたのかすら分からないけど、そう言ってひかるは傍に居てくれる

いつか、この関係には終わりが来るのが分かっていても、今だけは甘えていたい。


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出会ってから早1年

未だに私は彼の家に通っている

ただ、変わったことといえば

「ひかる」

『んー?』

お前呼びから、ひかる呼びになったこと

「これ、見てみろ」

『ん〜...ふふっ』

私のツボにくる、面白い動画

「ははっ、ひかるなら笑うと思ってた」

言葉遣いも、柔らかくなった

最近は、お仕事にも余裕が出来たみたい

でも

それでも

「んじゃ、おやすみ」

『ん...おやすみ』

今日も床に寝転ぶ貴方
あれから、枕とタオルケットまで自分で用意していた

そんなにしなくてもいいじゃん…

ぶっきらぼうな貴方に私は沢山の愛を教えてもらった

貴方は気づかないかもしれないけど

『ねーえ?』


だから


「ん?」



『好き』


気づいて欲しい


けど
私は勇気が無いから

『この家、自分家より住みやすくて、好き』

「......ややこいこと言うな」

『ん〜?何と勘違いしたの〜??』

「.......寝る」

『ははっ、拗ねた〜』

「少しだけ、期待したんだけどな...」

『.........へ?』

え、ちょ、まっ

「あーあと、コレ」

ポイッと投げられたものを受け取る

『…..アルクジラ!?』

のぬいぐるみ

「ひかる、ホゲータは全部集めてんだろ、だから」

『え、でも、私がこの子好きだって…』

「……そんなの、1年も一緒にいれば分かる」

『〜〜〜っ』

「そんじゃな、おやすみ」

そう言うと彼は、すぐに夢の中に入っていった

目を向けると、気持ち良さそうに寝息を立てている


『ほんっとずるい…』


顔が熱くなる


『こんなん、ずっと大切にするにきまっちょーやんかちゃ…』


こんな、何でもない日にこんなの、、、


『…….はぁ』

私たちはきっと、両想いだ

お互いにとって、無くてはならない存在

ただ、そこに恋慕が加わっているのが私だけなわけで

貴方が何を思っているのかは分からない

ハッキリと伝えた方が楽なんだろうけど

もしダメだったら、今までの全てが壊れてしまいそうで

あなたが笑う、あなたが流す涙も全部、私が理由だったらいいのになって、ずっと考えてしまう

私が隣にいるうちに、その全てを私のものにしてしまいたいって感じてしまう

ただ一つの贈り物ですら、涙が出そうになるくらい幸せな気持ちになる

だからこそ、胸が苦しいし、大きめなベッドのサイズ感すらも悲しくなる

貴方との先程のやり取りを思い出すだけで胸が…

胸が…?

アレ…?

『でもさっき…』


“少しだけ、期待したんだけどな···”


顔がじんわり熱くなってくるのを感じる

『期待…してもいいんかな』


これは、人を信じられなくない男の子と、その男の子に救われた女の子のお話 。

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