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ペイジ・ハミルトン(ヘルメット)インタビュー

 ヘルメットは、2016年10月にアルバム『Dead to the World』をリリースした。本当は、その直後にメール・インタビューを思い立ったのだが、色々あってペイジ・ハミルトンの手元まで質問表が届いたのは翌年の夏頃になってから……それをこうして公開するまでには、さらに半年が過ぎ去ってしまった。本当に申し訳ない。それでも、非常に興味深い内容になっていると思うので、ぜひ読んでみてください。


--昨年リリースされた新作『Dead to the World』は、『Seeing Eye Dog』以来6年ぶりのアルバムです。このアルバムを制作するにあたって、作曲、アレンジやレコーディングについてどのような構想を持っていましたか? アルバムの基本コンセプトを聞かせてください。

ペイジ「アルバムの制作にあたって、あらかじめ何かマスタープランのようなものを考えることはない。ただ曲を次々に作っていく感じだよ。メモを取るようにしてるんだ。いろんなものを観察しながらね。移動中もテレビを見ている間も歯医者に行くときも、歯医者で治療中の間もだ。ツアーで世界中を飛び回っている時もそう。そこから曲の形に作り上げていって、アルバムにしていくんだよ」

--アルバムのジャケットは広大な砂漠を一人の男が歩いている写真で、強烈なインパクトがあります。裏面も同様の構成で別の男が旗を持っていますが、このアートワークを選んだ理由を教えてください。アルバムの収録曲とは何か関係があるのでしょうか?

ペイジ「もちろん関係ある。中でも "Red Scare" は、ジャケットのアートワークと最も関係がある曲だね。この曲はデヴィッド・ボウイの "Red Sails" や、ナット・キング・コールの "Red Sails in the Sunset" などにインスパイアされて作ったんだ。
砂漠にいる男は、私にとっていくつかの意味を持っている。彼は世の中に背を向けてあてもなく砂漠をさまよっている。これは私自身にも置き換えられるし、ほかのどのアメリカ人にも置き換えられるだろう。ずっと《赤》にまつわるアイデアが頭から離れなかったんだ。アカ=コミュニストっていう意味もあって、アメリカでは不快な言葉として捉えられる。ジャケットに使われている赤い砂漠、白い雲、青い空はアメリカ国旗の色でもある。赤い砂は砂漠、つまり、ロシアに代わってアメリカの敵となったアラブ(右翼メディアによれば、だけどね)を象徴してもいる。国民をコントロールするために政府はいつも恐怖を煽っているわけで、その恐怖はアメリカ人の心理に深く食い込んでる。そのせいでみんな、くだらない情報筋とか、ニュースの言うことに何の疑問を持たなくなってるんだ。
ずっと昔からアメリカ人には常に敵が必要だったんだよね。おかげで今じゃ敵だらけだし、この調子だと世界を敵に回すことになる」

--前作に続いてエンジニアにトシ・カサイさんが起用されています。今回の彼との作業はどのような感じでしたか? 何かレコーディングにまつわるおもしろいエピソードなどあれば聞かせてください。

ペイジ「ヘルメットはトシとレコーディングするのが大好きだよ。髪型は変えたほうがいいと思うけどね。もう70年代じゃないんだって誰か言ってやってくれよ!(笑)
私は彼が作り上げる音を信頼しているし、具体的なテイクに関して彼がしてくれる意見をすごく参考にしてるんだ。例えばスタジオで私とトシの2人きりで、ギターのオーバーダブを録っているとする。その時ギターソロのパフォーマンスや音の色作りで何か決めかねることが出てきたら、トシに相談役になってもらうんだけど、すると大抵何か意見を言ってくれるんだよ。彼はただの技術屋じゃなくて、音楽のことがすごくわかってるエンジニアなんだ。彼のワイルドなエピソードは特に思い当たらないけど、とにかくたくさんハンバーガーを食べるね。ストレスが溜まっているときにはまるで禅の境地みたいな平穏をくれるし、彼が本当に《大》好きなんだ」

--今作ではチェロでフィリップ・ピーターソンを起用していますね。ストリングスのアレンジもあなたがしたのですか? 起用を思い立った経緯や、仕上がりについての自己評価を教えてください。

ペイジ「フィルは前作『Seeing eye dog』でも演奏しているよ。一緒に演奏しやすいし、たくさんアイデアを持っている。特にこう弾いてほしいというのがない限り、彼には思いのまま弾いてもらってるよ。それを自宅スタジオのロジックを使って編集したり、トシのスタジオのプロトゥールスで編集することもある」

--今回のアルバムではエルヴィス・コステロの “Green Shirt” をカバーしています。前作『Seeing Eye Dog』ではビートルズの “And Your Bird Can Sing” をカバーしています。こうしたポップな曲をカバーしようと思った理由を教えてください。原曲のどういうところが気に入ったのですか?

ペイジ「どっちもずっとお気に入りの曲なんだ。“Green Shirt” の歌詞がテーマにしていることは、このアルバムにすごく合っている。今やニュースは大衆娯楽に成り下がっている。テレビからは意味のないおしゃべりが垂れ流されて、何も考えなくてもいいし、能動的になる必要もないんだ。そしてそれを誰も疑問に思うこともない。ニュースが言うんなら間違いないってね。社会への無関心やファシズムがどんどん幅を利かせてる……美女が原稿を読んでるだけの“インフォテイメント(ニュースの娯楽化)”が、合衆国じゃ当たり前のことになってるんだ。
"And Your Bird Can Sing" は作曲を始めた時からずっと手本にしている曲だよ。この曲がテーマにしているのはうぬぼれ、自己陶酔、即物的なものへの執着、ものをため込む癖、嫉妬、ほら吹き、軽薄さ……そしてギターソロのハーモニーが今でも最高にクールだ。ソロをハモらせた最古の曲の一つだろうね、シン・リジィやアイアン・メイデンだってこのソロを聞いて惚れ込んだはずだよ。この2曲とも"ヘルメット化"するにあたって、いつものドロップCチューニングを使っている。コードからは3度の音を抜いて、あとからサステインさせて単音で付け足している。そうすることでストリングス(ヴァイオリンやチェロ)のような質感がコードに加わるんだ」

--このアルバムでは曲作りの方向性として、ヘルメットならではのサウンドを維持しながらも、より楽曲重視の傾向が強くなっていると感じました。ヘルメットのオリジナル・メンバーでの最後のアルバム『Aftertaste』の頃からすでに、楽曲重視の方向にシフトしつつあったといっても差支えがないでしょうか? 再結成以後、4枚のアルバムをリリースしコンスタントに音楽を作り続けてきて、発表していますが、この方向性で着実な前進を遂げているという認識がありますか?

ペイジ「ヘルメットの作曲ではいつも曲の構成を意識してきたけど、曲の表現の幅をどう広げるかという点で、いつも違うアイデアを試すようにしているんだ。C-G-Am-Dっていう似たようなコード進行の曲ばかり巷に溢れる中で、そういうありきたりを打破したいという思いがあってね。ニューヨークの喧騒、日常の一部になってる街の音には、グルーヴやリズムがあって、メロディ、さらにはハーモニーまであるんだ。たとえばある時ニューヨークのタクシー運転手が抗議デモをやって、ブロードウェイを何百台ものタクシーでふさいでしまってね。みんながそれぞれクラクションを鳴らして大音量の美しい不協和音を作り出していたよ。ニューヨークで生きていると、こういった経験も音楽的な影響として魂に入り込んでくるんだ。たとえば『Strap it On』に入っている "Murder" も、こういう出来事の影響が表れてる。まだ、ある意味“ポップ”的な曲の構造も使っていたけどね。作詞については、意識の流れ的なものや、物語的なもの、空想的なものもあれば、コメディ、皮肉交じりのものとか……いろいろだね。でもヘルメットのサウンドを発展させ続ける中で、よりトラディショナルなものからの影響が表面化してきた、っていう感じかな? ハハハ」

--私は90年代にあなたにインタビューしたことがあるのですが、あなたは当時のメンバーであるヘンリー・ボグダン、ジョン・ステニアーと共に生み出すグルーヴを中心にしてヘルメットの音楽性を発展させていくことにこだわりを持っているように見えました。今作『Dead to The World』はデイヴ・ケイスが加入後最初のアルバムになりますが、再結成後のヘルメットではメンバーの編成についてどのように考えていますか? あなたがバンドの中心となって、あるべき音楽のヴィジョンを追求していけるような強固な骨組みさえあれば、バンドのラインナップは固定している必要はなく演奏する人間は流動的でもいい、と考えていたりしますか?

ペイジ「うーん。質問の意図をちゃんと理解できているかわからないけど、ヘルメットの音楽をやるためには本当にいいプレイヤーが必要なんだ。これ見よがしな派手さがある音楽じゃないからね。つまり変拍子やなんかもさりげなく、無理なく自然にやれてなきゃならないんだ。聴き手もダンスフロアでつまづいて初めて『ん? 今何か妙なことが起きたぞ』と気づく、そのくらいさりげなく微妙なものなんだ。自分のテクニックを常にひけらかしてないと気が済まないようなミュージシャンを見るとゾッとするよ。『ママほら、両手離して自転車に乗れたよ!』って自慢してる子供レベルというか。私はグルーヴが好きだし、グルーヴと戯れるのも好きだ。それが自分にとって普通のことなんだ。リフとターンアラウンドがあれば、あとはドラマーは自分が何をすればいいかわかるだろ」

---ちなみに、ジョン・ステニアーが現在在籍しているバトルスについては、どう思いますか?

ペイジ「実は1曲しか聴いたことがない。ヘルメットのショウの後で誰かが楽屋で聴かせてくれたんだ。なんだかライヴ感に溢れているけど、どういう音楽なのか1回聴いただけじゃよくわからなかったな。ステニアーのドラムは好きだし、ヘルメットの前座を大昔にやってくれた時のドン・キャバレロもよかった。だからバトルスの曲も素晴らしいんだろうと思う。いずれ突っ込んで聴くつもりだよ。タイヨンダイ・ブラクストンとは親しいし、彼のソロ、特に『Central Market』は素晴らしい。だけど、どうやら仲違いでバトルスを脱退したらしいね。バンドのつらいところだな」

--ステニアーとボグダン抜きでヘルメットを再結成するのは心情的にとても大変なものだったのではないでしょうか。ニューオリンズのナッシングスタジオでチャーリー・クロウザーと出会ったことが、その大変な時期から抜けだすことに役立ったと聞いています。彼との作業で最も思い出に残っていることを教えてください。

ペイジ「ああ、彼は最高だよ。どれだけ感謝しても足りないくらいだ。 詳しくは次の回答で説明するね」

--ナイン・インチ・ネイルズとの交流は、『The Fragile』でギターを弾くように頼まれたことがきっかけですか? NINのサイドプロジェクトであるテープ・ワームにも参加していたようですが、結局リリースには至っていませんね。具体的にどのようなことをしていたのでしょうか。

ペイジ「当時はニューヨークで、個人的に色々と波乱があった時期でね。そんな時、チャーリー・クロウザーがニューオリンズにレコーディングしに来ないかと誘ってくれたんだ。ヘルメットでNINとツアーしたことがあったからメンバーも知っていた。ほとんどの期間は自分の曲の作業をチャーリーとやっていたんだけど、そのうちトレント・レズナーともジャムをするようになった。彼はすごく親切で寛大な人で、好きなだけここにいてもいいって言ってくれたんだ。みんなでロジックの使い方を教えてくれて、リヴィングルームには私専用に作曲用のコーナーまで作ってくれた。そんな経験をさせてもらって感謝してもし切れない気持ちだし、トレント、チャーリー、NINのメンバーたちにはその自覚はないかもしれないけど、彼らは私のすごく辛い時期を支えてくれたんだよ。本当に大好きな人たちだ」

--ヘルメットの休止期間中、ジョー・ヘンリーやデヴィッド・ボウイとも共演されていますね。共演からなにか得られるものはありましたか?

ペイジ「ジョーもデヴィッドも共演できてとても光栄だった。憧れのミュージシャンの音楽を学んで自分のものにする、というチャレンジが好きなんだ。他のミュージシャンの音楽に自分ならではの味を加えさせてもらえるのは、とてもエキサイティングな体験だよ」

--デヴィッド・ボウイは遺作となってしまった 『Blackstar』でニューヨークのジャズ・ミュージシャンを起用していますが、この作品についてはどう思いましたか。

ペイジ「デヴィッドのことも彼の音楽も大好きだ。『Blackstar』もいいアルバムだね。言葉も出なくなるような美しさがある。自分の死を悟りながらもあんなに素晴らしい音楽を作ってレコーディングまでやったなんて信じられないよ」

--最近お気に入りの音楽はありますか。最近面白いと思ったアーティストや共感できるアーティストはいますか?

ペイジ「いろんな音楽を聴いているよ。8月に南オレゴンであるブリット・フェスティバルに出演するんだが、今はそれに向けたオーケストラの曲を2曲練習しているんだ。マイケル・ティルソン・トーマス の "Playthings of the Wind" と テディ・アブラムス の "Unified Field" っていう曲だよ。ここ3週間くらいはほとんどこれしか聴いていない。頭の中をすっきりさせたいときにはアビシニアンズ のアルバム『Satta Massagana』をかけながら演奏してみたりする。レゲエも大好きで、アビシニアンズは素晴らしいよ。あと最近エマーソン・レイク・アンド・パーマーを聴き直してるけど、『Brain Salad Surgery(恐怖の頭脳改革)』は本当に完璧なアルバムだね」

--少なくとも日本では2017年現在、Spotify/Apple Music/Amazonなどのストリーミングサービスで『Dead to the World』を聴くことができませんが、ご存知でしたか? もし意図的にそうされているのであれば理由を知りたいのですが。

ペイジ「なんだって! 全然知らなかったよ。クソ、日本でも聴けるようにしたいんだが」

--現在『Betty』の曲を完全再現するツアーをされていますね。そもそもどうしてこれをやろうと思ったのですか? 現在のメンバーでアルバムの曲を演奏するのはどんな感じでしょう。

ペイジ「ちょうどオーストラリアとニュージーランドの Betty ツアーが終わったところだ。きっかけはロンドンのエージェントが『Betty』のアニバーサリーツアーをやらないかと提案してきたから。『Meantime』のアニバーサリーツアーが成功したからね。今のメンバーで演奏するのは最高だよ。メンバーみんな献身的だし、覚えるように頼んだことはなんでも貪欲に吸収してくれる。今までのメンバーではそうもいかなかったんだ。両方のアニバーサリーツアーをやれて本当によかったと思ってる。でも『Aftertaste』のアニバーサリーツアーをやるつもりはないけどね!」

--ツアーでは『Betty』の曲と同様に他のアルバムの曲や新曲も演奏したようですが、その経験を通して、自身の90年代を振り返ってみた時、今と当時で音楽を作っていく姿勢の面で大きな変化は何だったでしょうか? また、まったく変わっていないところも何かありますか?

ペイジ「曲を作ることも、レコーディングもライヴをやることも当時と同じ姿勢で臨んでいるよ。何かアイデアを思いついたら、それを追求するんだ。どんな作曲家もそうだけど、人生の歩みは作品に影響する。そして私は、1989年にヘルメットを始めてからもう28年も人生を歩んでいる。流行に遅れまいとして曲に不自然なものを無理やり取り入れたりしたこともない。ただ音楽に導かれるままに作っているんだ」

--『Dead to the World』はearMUSIC というレーベルからリリースされていますが、日本のインディ・レーベルが国内流通の契約を申し出る余地はありますか? もし可能であれば、知っているレーベルに声をかけてみようと思います。

ペイジ「もちろんだよ! 日本でリリースされるのは大歓迎だ。新作の曲をライブでやるのは大好きだし、また日本にもツアーで行きたいよ」



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