見出し画像

デイヴ・グロール(フー・ファイターズ)インタビュー

 これは、かなりレアなインタビューだと思う。1998年の映画作品『X-ファイル ザ・ムービー』の日本公開に合わせて、どういうわけだか知らないが、そのサントラに楽曲を提供していたフー・ファイターズのデイヴ・グロールが、プロモーションで取材を受けるという。そうして行なわれたのが、以下の対話だ。
 まだフー・ファイターズとしては駆け出しに近い頃とはいえ、はっきり言って、こんな仕事を引き受けたデイヴの気持ちもよくわからないし(確かに『X-ファイル』シリーズに、そこそこ入れ込んでる様子は伝わってくるが、やはり彼からはSFオタクと呼べるほどのディープな資質は感じられない)、じゃあ折角だからインタビューしましょうと準備したこちら側も、やったことがない映画のプロモーション用取材ということで、いかにもな、わざとらしい質問を投げてみたりしている。そこに全力で答えているデイヴのサービス精神がまた……
 それでも、バンドに関する話もそれなりにしており、レギュラー・アルバムの谷間の時期だっただけに、ちょっと他にはあまりないような、熱心なファンにとっては興味深い発言も結構あるのではないだろうか。なお、この段階でデイヴが「メンバー全員で何十曲も作って、新譜はダブル・アルバムになっちゃうかも」とか語っている構想は、フランツ・スタールがあっけなく脱落することによって早々に瓦解してしまうことはご存知の通り。デイヴ・グロールとフー・ファイターズが、完全に調子をつかむまでには、まだしばらく時間がかかるのだった。ともあれ、ちょっと珍しい感じの記事を面白がっていただけたら幸いです。


スカリーのような女性のためだったら、自分の命を犠牲にしても構わない。ジリアン・アンダーソンは世界一ステキな女性だと思う。

--本日は『X-ファイル ザ・ムービー』のサントラ盤に関するインタビューということで、よろしくお願いします。あなたは当然もう映画はご覧になったと思うんですけど、まずは最初に率直な感想を聞かせてください。

「すごくよい映画だよ。TVシリーズのファンだった人も、まだこれまで1度も『X-ファイル』を見たことがない人たちでも楽しんで見られる作品だ。映画を見てファンになった人には是非、次のシリーズから見てもらいたいな。SF、陰謀、サスペンスの要素が含まれているエキサイティングな映画だね」

--映画になったことで、かなりスケールもアップしていたと思うのですが、個人的に気に入ったシーンや、印象深かったセリフなどはありますか?

「特に気に入ったシーンは、映画の後半なんだけど、まだ見てない人のことを考えると言わない方がいいのかな?(笑) モルダーとスカリーが危機一髪で逃げる場面、地下にある何かが飛び立つところだね」

--ちなみに、ダナ・スカリーみたいな女性が、もし現実にいたとしたらどうでしょうか?

「彼女のためなら何でもするよ! スカリーのような女性のためだったら、自分の命を犠牲にしても構わないと思う。今までアメリカに、彼女ほど素晴らしいセックス・シンボルは存在しなかった。まず彼女は聡明で、ミステリアスで、美人だし、それに何よりも仕事をしている。セックス・シンボルといっても、パメラ・アンダーソンのような存在ではなく、一般の女性に通じる素晴らしさを持ってるんだ。要するに、こういう女性は実際にいるかもしれない、と思えるような要素を持っているってこと。男性はそういう点に惹かれるし、セクシーだと感じるんだよ」

--スカリー役のジリアン・アンダーソンにも惹かれますか?

「大好きだよ。実は1度だけ会ったことあるけど、きちんと話をするほどではなかった。世界一ステキな女性だと思う(笑)。まあ、『X-ファイル』をずっと見てきているから余計にそう思うのかもしれないけどね!」

--彼女は、あなたにとってのセックス・シンボルそのものなのですね?

「その通りだよ!(笑)」

--この『X-ファイル』シリーズの魅力はどこにあると考えますか?

「『X-ファイル』のおかげで、空想科学の世界をもっと現実的に考えられるようになったり、言われたことをそのまま鵜呑みにするのではなく、もしかしたら?と疑問を抱くようになった。この作品を見ることによって、自国の政府は本当に信用しても大丈夫なのだろうか?って感じるようになるかもしれない。そういうアイディアが革命的だと思うんだ。過去アメリカには、こういったTVドラマはほとんど無かったんじゃないかな。権力者に対して何か隠していることがあるのでは?と、みんなが独自に情報を入手しようと考えるきっかけにもなると思う。俺がパンクにハマった頃は、政治や音楽業界の在り方に対して納得していなかった。だからこそ、パンクが俺の心に訴えかけるところがあったんだろうね。俺の中には今でも、政府に対して冷笑的なところがある。で、『X-ファイル』を見ると、そのフィーリングを経験することができるんだ。俺にとって『X-ファイル』は、TVでのパンク・ロック・ショウそのものだから好きなんだよね(笑)」

--では、そんな映画のラスト、エンディング・ロールのバックに自分の作った"ウォーキング・アフター・ユー"が流れてくるのは、どんな気分ですか?

「めちゃくちゃ嬉しいよ。例えば、映画『オズの魔法使い』が大好きな人にとって、あの映画の曲を書くのと同じ気持ちなわけだから(笑)。とにかく素晴らしいね。『X-ファイル』との関連性を持てるだけでもスゴいことだし。こうして『X-ファイル ザ・ムービー』のサントラに関わったということでインタビューを受けるっていうのも、俺にとっては最高のことなんだ」

--この"ウォーキング・アフター・ユー"は、セカンド・アルバム『ザ・カラー・アンド・ザ・シェイプ』に収録されていたナンバーですが、今回のサントラ用に、元トーキング・ヘッズのジェリー・ハリソンをプロデューサーに迎えて再録音したようですね。この曲を『X-ファイル ザ・ムービー』のサントラのために選んだ理由は何ですか? また、何故わざわざ録音し直そうと思ったのでしょう。

「セカンド・アルバムに収録されているのは、実はデモ・ヴァージョンなんだ。『ザ・カラー・アンド・ザ・シェイプ』制作中にもレコーディングし直そうかと思ったんだけど、俺の声もデモの方がエモーショナルだったから、その時には結局ラフなヴァージョンのまま収録することにしたんだ。そして『X-ファイル ザ・ムービー』からサントラの話を受けた時に、アルバムでのテイクとは多少違うフィーリングを出したいと思ったんで、再録音したんだよ。だからサントラのヴァージョンの方が、よりプロデュースされて、洗練されてるだろ?」

--なるほど。ジェリーは、最近だとファティマ・マンションズやメイフィールド・フォーなどのプロデュースを手がけていますけども、彼とやることになった理由は? そして実際に仕事をしてみて、どうでしたか。

「ジェリー・ハリソン以外にも何人かのプロデューサーの名前は挙がっていたんだけど、誰かがジェリーの名前を出した瞬間から、彼にやってもらいたいと思ったよ。というのも、俺たちはトーキング・ヘッズの大ファンだったし、ジェリーがこれまでにプロデュースしてきた作品も好きだったからね。彼との仕事はスムーズだろうと想像していたんだけど、実際その通りだった。1日半くらいで出来上がっちゃったね。ロック・バンドをやってて嬉しい経験のひとつは、かつて大好きだったバンドのメンバーがプロデューサーになっていたら、その人に頼めば一緒に仕事ができるかもしれないってこと。次はジミー・ペイジかピート・タウンゼントにやってもらおう!なんてことも言えるんだから(笑)。まあ、依頼しても必ずしも引き受けてくれるとは限らないけどね。でも、とにかくジェリーと一緒に仕事ができた以前に、子供の頃からファンだった人物に会えたんだからスゴいことだ」

--この曲のビデオ・クリップの内容は、映画のシーンがたくさん挿入されているような、よくあるパターンのものではなく、ガラス越しに愛する男女がモチーフになっていて、これがモルダーとスカリーの関係性を暗示しているらしいとも言われています。この2人の関係について、あなた自身はどう捉えていますか?

「この曲は、自分が実際に置かれていた状況について書いたんだ。どんなことがあっても一生涯、君のことを愛し続けるから、もし俺が君から離れようとしても絶対に俺を離さないでくれ、とね。モルダーとスカリーの間にも緊張感があるから、この曲が『X-ファイル』のサントラには合っていると思ったんだよ。モルダーとスカリーはお互いに愛を確認したことはないものの、2人の間に愛があることはわかっている。何かあれば、相手のために死ねるという気持ちを持ってるんだから……それって大変なことだよね。相手のために死ねるっていうのは……。それで、映画のシーンを挿入してビデオを映画の広告にするよりも、シンプルに男女の関係を出した方が曲のフィーリングが伝わりやすいと考えたんだ。もともとは映画の登場人物に3人くらいは出てもらおうかとも思ったんだけど、そういうわけで止めたんだよ。確かに君も言う通り、ガラス越しの男女というのは象徴的だよね」

--この"ウォーキング・アフター・ユー(X-ファイル・ヴァージョン)"は、ネイト・メンデル、テイラー・ホーキンス、フランツ・スタール、そしてあなたの4人によるラインナップになってから、初めて正式にレコーディングされた記念すべき作品ということになるのではないでしょうか?

「そうだね。レコーディングはとても早く、簡単にできたよ。俺たち4人は仲がいいし、音楽的にもお互いに理解できているから、こういう仕事はやりやすいんだ。まして、この曲は1年以上ツアーでプレイしてきているから余計に早くできた。実はドラムのテイラーは、まだほとんどレコードでプレイしていないから、それだけに、この曲がラジオでかかると嬉しそうだし、誇りに思っているようだよ。この曲のレコーディングはエキサイティングだったし、指摘されたように今の4人になって初めての正式レコーディングだったから、バンドにとって意義のある作品になったよ。ちなみに、今日はこれから全員でリハに入ることになっているんだ。メンバー全員が俺の家に集まってるよ。次のアルバム用の曲作りをするつもりさ」

--そういえば、フー・ファイターズのファーストは、あなた1人で全て作ってしまっていたので、4人編成のバンドになってから初めて録音したのは、やはり『X-ファイル』TV版のサントラに提供した"ダウン・イン・ザ・パーク"だったじゃないですか。どうしていつも、正式に固まったメンバーのお披露目を、X-ファイルでやることになってしまうんでしょうね。

「(笑)本当だね! どうしてなのか俺にもわからないよ! こうやって、なんとかハッピーにやっていけているのもまた『X-ファイル』のおかげなのかもしれない。単なる偶然だけど、面白いよな」

--今回のサントラには、制作者であるクリス・カーターの趣味がかなり強く反映されているそうですが、フー・ファイターズ以外の収録曲で面白いと思ったトラックなんかはありますか?

「ビョークと、カーディガンズの曲だね。俺の周りでは、ビョークは他の惑星から来た人だと考えられてるんだよ(笑)。彼女は、地球人ではないだろうって。だからこそ『X-ファイル ザ・ムービー』のサントラに参加してるんだよ。ビョークの住んでた惑星には、きれいな音と美味しい食べ物しかないんだ、きっと」

--では、他にも参加アーティストを幾つかあげてみるので、簡単にコメントしてもらえると嬉しいです。最初はウィーン。

「ウィーンとは何度も一緒にツアーをしているし、彼らのことも音楽も大好きだ。その《突飛な天才》的センスを、クリス・カーターは気に入ってるんじゃないかな。突飛な天才的というのはつまり、その不思議な要素は誰もが理解できるわけではないだろうけれど、強い興味の対象になるってこと」

--ダスト・ブラザース。

「彼らは変わっているというか、その頭の中には、サウンドやリズムのカタログが入っているみたいだ。もともとは双子だったんじゃないかな?(笑)」

--マイク・オールドフィールド。

「彼は素晴らしい音楽を作ってきた人だよね。もし自分の人生のサウンドトラックが頭の中で聴こえてきたとしたら、それは多分マイク・オールドフィールドが作っている音楽だろうな。彼は人生のサウンドトラックを作れるアーティストだからね」

--最後にノエル・ギャラガー。

「ノエル・ギャラガーは……何だろう? 彼は最高だよ!(笑)」

--(笑)。そもそもフー・ファイターズというバンド名もそうだし、これまでのアートワークの幾つかを見ても、あなたのSF好きは明白ですが、いつ頃からこうした世界にハマっていたんですか? 映画に限らず、アニメやマンガなども含めて、フェイバリット作品を教えてください。あと、子供の頃なりたかったキャラクターとかいましたか?

「そうだなあ……『スター・ウォーズ』の大ファンだった。俺がなりたかったのは、R2-D2なんだ(笑)。彼は人間じゃないけど、その頭脳に憧れたんだよ。だって、幾つもの言語を理解できて、コミュニケーションを図ることができるし(注:どちらかといえば、幾つもの言葉を話せるのはC-3POの特徴)、誰にでも好かれるしね。ある時、ゴミ箱でR2-D2を作ろうとしたことがあったんだけど、失敗に終わったよ。子供の頃はあまりコミックは読まなかったな。それよりも普通のSFの本を読んでた。『ファイアー・イン・ザ・スカイ』とかね」

--ファースト・アルバムのジャケットにも写っているような、オモチャなんかも相当集めているんじゃないかと想像します。もし今、オモチャをとるか楽器をとるか選択を迫られたら、どうしますか?

「うん、確かにオモチャはたくさん持ってる。まあ、オモチャも楽しいけど、家の中で自分がルーク・スカイウォーカーのまねをして遊ぶくらいのことしかできないだろ?(笑) だから、どちらかを選ぶとしたら、やっぱり楽器だよ。俺ももう30歳だしね」

--今後も、SF的な要素をモチーフにして、曲を作ることは考えられるでしょうか?

「うん、ただ、デビュー・アルバムではUFOやSFのことをモチーフに曲を作ったりもしたけれど、セカンドはもっとパーソナルな作品になっている。というのも、ファーストのおかげで、俺たちはSFバンドと言われたりするようになってしまったからなんだ。例えば雑誌の取材を受けて写真撮影をして、何ヶ月か後にその雑誌が送られてくると、表紙を飾っている俺たちは宇宙へルメットを被っていて、バックにUFOが写っているような写真になってたりしてさ。まるで実際に宇宙まで行って撮ったような写真も、最初のうちは楽しかったけど、あまりにどの雑誌も同じようなノリになってくると、ちょっと待てよ……と思うようになったんだ。SF的な要素をモチーフにした曲はまだまだ書けるけど、それよりも愛や感情の曲を作りたいね。その方がステージでも歌いやすいし。だって毎日ステージでUFOのことを歌うなんて、変だろう?」

--わかりました。さて、ファンとしては、フー・ファイターズのニュー・アルバムが待ち遠しい日々を送っています。現在、制作の方はどのような状況になっているのか、少しだけ教えてもらえませんか? 「もしかしたらダブル・アルバムになるかも?」という、あなた自身の発言も確認されているのですが。

「今はちょうど、曲作りをしている最中なんだ。俺の家にスタジオを作っている途中でもあるんだけど、次作のレコーディングはホーム・スタジオで、時間をかけてやるつもりだよ。できたら来年の夏頃にはリリースしたい。今までは全曲を俺1人で作ってきたけど、今回は4人のメンバーがそれぞれ曲を持ってくるし、デモ・テープも作るようになったんだ。だから、これまでは16~17曲レコーディングして、その中から12~13曲を選ぶというやり方をしてきたけど、メンバー4人とも作曲して、例えば1人10曲ずつ書いてきたりしたら、合計40曲になってしまうだろ?(笑) だから今の段階では、まだ具体的にどうなるかはわからないけれど、曲の出来によっては収録曲が10曲になるかもしれないし、もしかしたら3枚組とか4枚組になるかもしれない(笑)。まあ、それに関しては、もう少し様子を見て決めることになるね」

--メンバー・チェンジも経て、新作の内容は、より意欲的に音楽性の幅を広げたものになるのではないかと勝手に予想しているのですが、フー・ファイターズでは、キーボードや打ち込みの導入とかはありえますか?

「ドラム・プログラミングというのは、それほど好きではないんだ。ステージでパフォーマンスをする時、実際にステージに立っているミュージシャンではなく、テープが音を出しているだけ、というのはエンジョイできない。だからスタジオで作る音は、機械に頼るのではなく、ライヴでも自分たち自身で再現できるものであるべきだよ。つまり、スタジオでキーボードのサウンドを使ったら、ステージでも誰かがキーボードをプレイしてその音を出すべきだ。テープを使うというのは、本来のバンドの姿を出していないことになる。うちにも使ったことのないシンセサイザーや機材はあるけどね。世の中には音の幅を広げたり、隙間を埋めるためにシンセサイザーとかを使うバンドやアーティストもいるだろうし、使うのは簡単だろうけど、そのやり方じゃあフェアじゃない気が俺はする。それに、テイラーはとても優れたドラマーだから、きっと新しいサウンドになるはずさ。フー・ファイターズらしいサウンドを作るよ」

--では最後に、日本の、SFとロックンロールを愛する人々にメッセージを。

「レイディース・アンド・ジェントルメン! みなさんは今、最も新しく、最高のバンドを聴く必要があります。ロックンロールとSFには、逃避、そしてファンタジーという共通点があり……(と、ここまでは演説調で語り始めてみたものの、途中で笑い出してしまい、素に戻って)ロックンロールとSFは両方とも、刺激的なものだ。ロックンロールもSFも、行ったことのないところ、空想でしかない世界に行けるような気分にしてくれるからね。みんな刺激を受けて、想像力を高めてもらいたいな」

--余談になりますが、UFOを見たことはありますか?

「科学的に説明できないような物体を見たことはあるけれど、俗に言われている緑色した小さな生物が走り回っているのは見たことないな(笑)」

--私が読んだ本によると、ペルーの奥地、特に山の近くではUFOが頻繁に目撃されているとのことです。現地の人々はあまりに頻繁に見るので、それほど話題にはならないようですが。それとやはり南米のどこかの国では、山羊や牛といった家畜の血が吸われることがあり、それも宇宙人の仕業ではないかと囁かれているという話も、TVで見たことがあります。

「本当に? よし、それじゃ、早く荷物をまとめてペルーへ行かないと!」

--次のアルバムのレコーディング場所は、急遽ペルーに変更ですか?

「そうだね(笑)」


他では読めないような、音楽の記事を目指します。