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アレッサンドロ・コルティーニ(ソノイオ/ナイン・インチ・ネイルズ)インタビュー


2017年2月、Berlin Atonal のサテライト・イベント=New Assembly Tokyo が行なわれ、出演者のひとりとしてアレッサンドロ・コルティーニが単身での初来日を果たした。初日は古い8ミリフィルムの映像をフィーチャーした「AVANTI」というタイトルのショウを、さらに最終日にはメルツバウとの共演を披露。その時に、ただ会って挨拶するだけのつもりだったのに、なんとなく流れでインタビューもする雰囲気になってしまい、通訳さんもいない状況で話したのだが、アレッサンドロが多弁なおかげもあって、それなりの形になっていると判断し、ここに公開することにした。
余談だが、不思議なことに筆者は英語がさほど得意なわけではないのに、アレッサンドロとはかなりスムーズにコミュニケーションがとれてしまう。彼がイタリア人だからか、あるいは自分の英語力がいつのまにか向上していたのか、などと思ったりもしたが、たまたま同時期に来日していて、いっしょに中野ブロードウェイにつきあわされた(笑)カテリーナ・バルビエリちゃん(※アレッサンドロとはレーベルメイトなだけでなく、同郷でもある麗しのシンセ・ガール)には、まったく通じなかったので、どうやらそういうことではないらしい。
おそらくアレッサンドロは、耳に入ってきた音からその意味を推察する能力が高いのではないかと考えたりもする。彼のアーティストとしてのスタイルを見ていると、そんな気がしてくるのだ。すでに「モジュール・シンセのマエストロ」なんて呼ばれているが、どうやら彼は、たくさんのツマミやジャックの正確な機能を論理的に把握する以前の段階から、どんどん直感で触って弄っているうちに習得してしまっている様子がうかがえる。トレント・レズナーのように凄まじい執念で高次の表現をねちっこく追求していくタイプの天才とはまた違う、おおらかなノリでパパッと面白いもの/いい作品を作り出してしまうような天然の天才肌という印象だ。以下の発言を読んでいると、ますますそんな気がしてくる。
ともあれ、2017年には長年住み続けたロサンゼルスを離れて、(新妻&猫たちもいっしょに)ベルリンへと拠点を移し、今後は本格的にエレクトロニック・ミュージックの世界に没入していくことになりそうなアレッサンドロ・コルティーニの、さらなる活躍に期待したい。もちろん、NINのツアーにも帯同して、きっとまた日本のオーディエンスの前に姿を見せてくれるはずだ。

翻訳:片岡さと美


--「AVANTI」の音楽はとても優しく穏やかな響きを持っていますね。この作品のテーマが、あなたの家族やルーツと結びついているからでしょうか?

アレッサンドロ「『AVANTI』では、映像のための音楽を作るということを、そもそもの目的にしていたように思われるかもしれない。ただ、新しいプロジェクトを始めたばかりの段階では、自分でも何をしたいかよくわかってないことも多くてね。僕の場合ずっと、新規のプロジェクトは常に、以前のプロジェクトと相関関係にあったんだ。たとえばソノイオの『ブルー』に入ってる曲のことを考えながら、ある種の続編として『レッド』のアイディアを思いつく、みたいな感じでね。でも、インストゥルメンタル・ミュージックの場合、プロジェクトに満足するためには、"以前やったこと"じゃなくて、"次にやるべきこと"を考えるのが最善策だと気づいたんだ。だから『AVANTI』に関しては、家族を撮影した映像のことが以前から頭の中にあって、家のどこかに置いてあるっていうこともわかってたし、1年ほど前からその映像のことを考えながら音楽を作ってきたというのも自覚していた。つまりヴィジュアルがまずあって、そこからすぐ曲を思いついたわけでも、逆にレコードがあって、それをもとにヴィジュアルを考えたわけでもなく、最初からそのふたつが互いに絡み合っていたわけ。音楽のアイディアを温め始めた時点で、自然とそのファミリー・ヴィデオのことを考えていたんだ。
だからイタリアの実家に戻って、映像を見つけた途端すべてが楽になったよ。でっかいパズルを組み立ててる時と同じで、一部のピースを別の部屋、あるいは1年に数回しか訪れないような場所に置いてきてしまった感覚というか。だから組み立てるまでには時間がかかったけど、別に焦る必要はないし、時間をかけて良いものを作ればいいわけで。『AVANTI』を作ってた時は、そういう心境だったんだ。
さらに面白いのが……レコードはほとんど出来上がってたのに、どうしても自分の中では完成した気がしなくて。それがちょうど1年くらい前、あるいはもっと前だったかもしれないけど、ちょうどBerlin Atonal 2016で新しい作品を発表してほしいと頼まれて、『AVANTI』こそパーフェクトな題材だと思ってね。そして4トラックのカセット・レコーダーでアルバムをプレイするって決めた瞬間に、初めてそれがレコードとして完成したと実感できたんだ。カセットでパフォーマンスすることによって、作品に生命感/表情/温かみが加わったんだよね――完成するのに欠けていたミッシングリンクが見つかって、ようやくレコードになったんだ。
作品の鍵になっているのは……これはムード的に間違いなくメランコリックな作品ではあるけど、でも気が滅入る感覚とはちょっと違ってて、エモーショナルな作品ではあっても気分を滅入らせるようなものではないと思う。きっとヴィジュアルとオーディオ、ふたつのエレメントを一体化することで、メランコリックなムードが生まれてくるんじゃないかな。僕くらいの年齢の人間は、みんな同じような記憶を持ってるだろうから。思い出すのが辛いけど嬉しくもある、そんな記憶をね。なんの心配も悩みもなく、なんの責任も負ってない子どもだった頃の記憶で、遠い過去のことだと思うと切ないけど、幸せな瞬間だったから嬉しくも感じるんだ。よく《私的な家族の映像を作品として公開することについてどう感じてる?》とか、多くの人に訊かれるんだけど、僕自身はあれが私的なものだと感じたことは一度もないんだよ。実際、観客があの映像の中に見てるのは、僕でも僕の家族でもないと思うし、画面上の粒子や映し出される山や海辺のイメージを見て、ごく自然に自分自身の記憶と結びつけるんじゃないかな。傍観者としての記憶が呼び覚まされて、それぞれがその人ならではの反応を見せてるとでもいうか。ともかく、オーディエンスの反応にはとても満足してるよ。毎回、涙を流してる観客の数でショウの出来を判断してるくらいさ。よくない言い方に聞こえるかもしれないけど、辛い涙じゃなくて、いい涙だからね」

--「AVANTI」のステージでは、カセットテープを再生しながら、色々とコントロールしていましたよね。ピッチ、ヴォリューム、バランス、エフェクトなどの操作だと思うのですが、ポイントはどういうところにあるのですか?

アレッサンドロ「もともと作品としては、どの曲もすごくシンプルで、ほとんど2トラックか4トラックで作ってるから、簡単に4トラックのカセットに移行できるんだ。4トラック・カセットを楽器として使う手法は、ナイン・インチ・ネイルズのライヴで試し始めたんだけど、サウンド的にもずっと個性があって面白いし、ヒス・ノイズの感じもすごく気に入ってる。あと、各チャンネルにはイコライザーが搭載されていて、マニュアルでコントロールしているから、それがある種フィルターの役割を果たしてくれて、トラックによってはダークなサウンドにしてみたり、パフォーマンスの途中で明瞭にシャーシャーした音質へ変えてみたりすることもできるんだ。パニングもコントロールしてて、左から右、後ろから前にマニュアルで動かせるし、もちろんヴォリュームもコントロールしてる。さらにTASCAMはピッチホイールを搭載してて、キーボードのピッチホイールと同じように操作できるから、たまに全体のピッチを変えたりするのに使ってるよ。エフェクトも、リヴァーブとディレイをかけたりするし。ある意味『Sonno』や『Risveglio』でのショウの進化系になってるというか、つまりマテリアルは未加工の状態で事前にレコーディングされてて、それをショウでパフォーマンスしながら、ある意味ミキシングしてるとでもいうのかな。ショウごとに、作品をどう解釈するかを選ぶ権利が与えられてるわけで、ある曲について《静かにリヴァーブをきかせて演奏するべきだ》と感じる夜もあれば、別の夜にはディストーションかけまくった大胆不敵な直球サウンドにしてみたりもする。同じメロディなのにね。ひとつのコードをアコースティック・ギターで弾いた時とマーシャル・アンプを通してエレクトリック・ギターで弾いた時とじゃ、サウンドはもちろん、観客の反応が全然違ってくるのと同じことさ。つまり同じコードでも"媒体"が違うだけでまったく違う感情が喚起されるんだ。よく《生演奏しないのか、ただのプレイバックか》って言われるけど、単なるプレイバックとはまるで話が違う。動いてるマシンを僕が運転してるわけで、クラッチを外したらあとは自動運転ってわけにはいかないんだから」

--ステージをこなすにつれて、即興的な要素の割合も増えているのでは?

アレッサンドロ「あの空間の中に、インプロヴィゼーションと呼べる要素は、確かに多少あると思う。たとえば、ここ数回のショウで、最初の頃はやってなかったことをやるようになったよ。4つのフェーダーやエフェクト類で構成された世界の中で、毎晩ショウがやれることを未だに楽しみに思えるような、ある程度の即興や選択の自由は与えられていて、実際うんざりだと感じたこともない。NINのショウのほうが退屈してくると言ってもいいくらいで、実際そういう点でのエキサイトメントっていうのは、NINの場合は感じないんだ。演奏自体は楽しいけど、何もかもしっかり固定されててインプロの余地はないからね。一方で今回のステージは、一定の変更を加えられる側面が毎晩あって、ちょっとした実験をする余地がある。どの曲がどの曲の後に来るかに関しては、確かにかなり厳格に決められてるけど、それは僕がそう学んだからで、僕にはそういうやり方が理にかなってるんだ。もちろん飽きたら変えても構わないけど、今のことろは上手くいってる。
実は、このプロジェクトの中からさらに面白いプロジェクトが生まれそうなんだ。まだ本決まりじゃないんだけど、契約したばかりのレーベルからOKが出たらスタートしようと思ってる。イタリア語で"forward(前へ)"を意味する『AVANTI』の後のプロジェクト、ってことで、"backwards(後ろへ)"を意味する『INDIETRO』っていうEPにしたいんだ。『AVANTI』でショウをやる時は、メインとバックアップ、さらにもうひとつのバックアップと、カセットを3セット用意して、1回のショウで7曲やるから合計21本のカセットが必要になる。カセットテープが壊れることもあるからバックアップを用意してるわけだけど、ショウが終わった後すぐ次の公演地に移動する場合、バックアップがあればカセットを全部リワインドする必要がなくなるんだよね。実際、カセットの巻き戻しで機械がダメになることもあるし、それに僕自身リワインドするのをしょっちゅう忘れちゃうから、翌日のサウンドチェックですぐに使える巻き戻し済みのカセットが1本もない、なんてこともあるわけ。そこで思いついたのが、カセットを逆方向からプレイしてみるっていうアイディアだったんだ。つまり、1、2、3、4が4、3、2、1になるわけで、コード進行も逆転するから、すごく面白い音が生まれて、ひとつのショウの中でも同じトラックを使って違うパフォーマンスがやれるようになった。そんな感じで、EPを作れるだけのマテリアルが集まったかな、というのが現状で、そのうちの幾つかがオリジナル・トラックを逆行させて作ったものなんだよ。コンセプトとしてはすごく単純なんだけど、ものすごく効果的なんだ」

--音楽を創作するにあたってカセットが持つ可能性を、どう考えていますか?

アレッサンドロ「僕がカセットで気に入ってるところって、多くの人が嫌ってる点なんだよね。つまり、巻き戻しの件もそうだけど、一般的にはプラットフォームの限界と思われてる部分が、僕は逆に好きなんだ。だからハイエンドをブーストした時に聞こえる、シューシューしたヒス・ノイズも好きだしね。子どもの頃ウォークマンでカセット・テープばっかり聴いてたから、ノイズが自分のリスナーとしての経験に不可欠の要素になってるのかも。だからノイズを取り去った瞬間って、まるで穴が空いたような感覚を覚えるんだ。実際、そのことついてはトレント(・レズナー)から多くのことを教わったよ。NINのアルバムで使われたキーボードの音をライヴ・セッション用に転換する作業の中で、『ザ・ダウンワード・スパイラル』のマルチトラックを聴くチャンスがあったんだけど、あの作品にはノイズ・トラックがたくさん含まれてることがあらためてわかったんだ。レコードを聴いてる時はノイズのことなんて考えもしないけど、メインのトラックをミュートした時に初めて《ワオ、こんなにノイズ・トラックがあるなんて》と気がついたわけ。その時の経験が刺激になって、自分なりのやり方でノイズと付き合うようになったんだよ。
つまり僕の場合は、ノイズが使用マシンといっそう関連づけられていて、たとえばEMS Synthiにはノイズがビルトインされてるし、すごく効果的なんだ。ノイズのカラーも変えられて、ダーク・ノイズにしたりホワイト・ノイズにしたりできるしね。そういうわけで、耳障りな音を出そうと思えば出せるカセットの"限界"が、僕は気に入ってる。それに、青春時代のサウンドだから。あと、個性がうんと増すと思うし、長く続いたクリーンなデジタル時代に対する反乱的な意味もある。ハードディスク・レコーディングやCDプレーヤーは僕も大好きだけど、カセットはその正反対の存在だと思うな。あと、カセットの構造/設計って本当に素晴らしいよね。1本のカセットの中でどれだけのことが起きてるか、みんな忘れちゃってるみたいだけど、もう天才的と言っていい。ウォークマンにしてもそうで、日本で昔のウォークマンを見つけたいと思ってるんだ。ステレオマイク内臓のやつをね。自分で作ったカセットを、iPadじゃなくそのままカセット・プレーヤーで聴きたいんだよ。そういえば、ストックホルムでシモン・ストーレンハーグっていうアーティストに会ったんだけど、彼も80年代に子ども時代を過ごしていて、未だにウォークマンにヘッドフォンをつけてカセットを聴いてるんだって。自分でミックス・テープを作っていて、すごくイカしてるんだ」

--わかりました。さて、今回の来日ではメルツバウとの共演も行われますが、これについても話を聞かせてください。

アレッサンドロ「このコラボレーションは、あっという間に決まったんだ。Synthiを演奏してる秋田さんの写真をインターネットで見かけて――たぶん昔の写真だと思うけど、そのうち同じ所属レーベル(※Important Records)から作品を出していることがわかったから、さっそく担当者にメールした。そしたら2時間後にはOKの返事をもらえてね(笑)。そこで彼とファイルを交換し始めて、それが確か去年の夏だった。ただ、そこからレーベル的にリリースの準備が整うまでに、ちょっと時間がかかってしまったんだけど。レコードとしても、この春にようやくリリースされるよ。僕の知る限り、メルツバウとライヴで共演するのは今回の東京でのショウだけになりそうなんだ。夏にもベルリンでコラボしたかったんだけど、8月は秋田さんがヨーロッパまで来られなくて、実現できなかった。だからこれが唯一のチャンスになりそうだし、明日の公演は本当に楽しみにしてる」

--僕も楽しみです。では、その他に今後どんな予定があるか教えてください。

アレッサンドロ「まずは『AVANTI』のレコード用のミックスが終わったから、マスタリング用のファイルを準備しなきゃならない。マスタリングが始まるのは3月の第1週で、その後5月にはヨーロッパでインストゥルメンタルのソロ・ライヴをもっとやって、ヨーロッパの後は中国にも行く予定だよ。5日間ほど滞在してショウをやることになってる。そして中国の後、6月にはオーストラリアでもショウをやって、オーストラリアから戻った次の日からNINとのリハーサルを始めることになってるんだ。そうして、ニューヨークでのNINのショウへと続くんだけど、その後のNINでの予定はまだ僕にもわからない。今年いっぱいは、別のレコードの制作にも取り組む予定で、それもインストゥルメンタルの作品なんだけど、リリースできる形になるのは2018年になってからかな。『AVANTI』のレコードは夏頃に出す予定で、この作品に関しては少なくともあと1年くらい、いずれかのヴァージョンでライヴ・パフォーマンスを続けるつもりでいるよ。これまでのところ、みんなにショウを楽しんでもらえてるみたいで高評価も貰えているし、このアルバムで世界中を回りたいっていう気持ちがますます強まってるんだ」

--『FORSE』シリーズの最後を飾る、ライヴ盤をリリースする予定もあるんですよね?

アレッサンドロ「そう、今のところまだ詳細は未定だけど、確かに今年それらも出せたらいいなと思ってる。2作品あって、そのうちの1枚は、友達のオーストラリア人アーティスト=ローレンス・イングリッシュとのコラボレーションで、Berlin Atonal 2015で共演した時のライヴ・アルバムなんだ。そこで収録した音源を1年後にLAへ来たローレンスと聴いてみたら、すごく良いサウンドで驚いたんだよね。ライヴの音って、普通はなかなか思うように再現できないものだからさ。それもImportant Recordsからリリースすることが決まってるんだけど、あとImportantからは『FORSE』トリロジーのCDリリースについても話し合ってるところ。つまり3部作をまとめたCD版と、それとは別に『FORSE』のライヴ盤も予定してるというわけ。そっちは2年前にカリフォルニア大学でやったライヴで、『FORSE』の曲をライヴでやる時はいつもそうなんだけど、アルバムの曲は1~2曲やるだけで、あとはショウのために新たに書いた曲でほぼ構成されてるんだ。インプロとまではいかないけど、そう、『FORSE』の追加マテリアルっていうのかな。アルバムに入ってないけど属してはいるという意味でね。使ってる楽器は同じだし、ヴァイヴも間違いなく同じだから。これは、去年亡くなったドン・バックラへのトリビュートになるだろうね。そうそう、4月にはカリフォルニアのバークレーで、ドンのトリビュート・コンサートもやる予定だよ。ドンの家族やその友人たちも交えてね。そういう機会を持つことができて、とても嬉しい。ドンとはすごくいい友達だったし、素晴らしい追悼の場になると思う」

--そのトリビュート・コンサートはどんなものになりそうなんですか?

アレッサンドロ「他に誰が出るかはまだわからない。今はまだ企画段階で色々と模索中なんだ。4月の中旬の週末にやるのはほぼ決まりなんだけどね。バークレーで、確か4月の20日か21日あたりになるんじゃないかな。当日は自分の所有しているバックラのシンセをたくさん持っていって、ミニ博物館みたいなコーナーを作ろうかと思ってる。生前のドンがいかにたくさんの素晴らしい楽器を作ったか、みんなに見てもらうためにね。ドンの息子さんにも参加してもらうつもりだし、本当に楽しいトリビュートになると思うよ。“Everything Ends Here”は絶対にやるつもりさ。最後にライヴでやったのが確か2011年か2012年かで……いや、2010年だったかな? サンフランシスコ・エレクトロニック・ミュージック・フェスティヴァルでドンと一緒にやったんだ。だからこの曲に関しては、ドンへのトリビュートとして1人で演奏したいと思ってるけど、他の作品もきっとやるだろうし、ソロの作品もやってほしいと言われてるから、『AVANTI』もやるかもしれないね」

--SONOIOとしての最後のレコード、『イエロー』になるかどうかわからないですけど(笑)、それはもう出さないことにしたんでしょうか?

アレッサンドロ「出そうとは思ってる。まだ詳細は決まってなくて、ただ、色のタイトルにはならないことは確かだよ。『ブルー』とか『レッド』の類にはしない。まだちゃんとした名前もつけてないし、アートワークも決めてないけど、過去の作品と違った形にするつもりなんだ。『レッド』や『ブルー』とは音楽的にもちょっと違ってるしね。もう『レッド』や『ブルー』からかなり時間が経っているし、前作の延長線上みたいなサウンドのアルバムを作るのもおかしな話だから、それは当然のことだと思う。実際、僕の歌い方も変化しているしね。他のレコードとは違う歌い方にトライしてるよ。自分としては気に入ってるし、みんなも気に入ってくれるといいんだけどな(笑)。とにかく、作ってて楽しかったよ。曲を1~2年、場合によっては3年寝かせて距離を置いたのがよかったんだ。その間は曲のことをまったく考えなかったおかげで、作らなきゃ!っていう義務感から解放された状態でレコーディングに戻れた。曲を書き始めた頃は頭の中が《よし、新しいレコードを作らなきゃ》っていうモードだったんだけど、3年も経った頃には《何も特別なことはしなくていい。好きなようにしていいんだ》っていう心境に変わってたんだよね。プレッシャーや義務感から解放されて、今がそのタイミングだと感じた時に作ればいいんだって思えるようになった。そこで、レーベルをやってる友達に、音源を送ってこう伝えたんだ。《もったいぶったやつだと思ってほしくないんだが、君のところでこいつをリリースしてみたいと思わない? あるいはリリースしてくれそうなレーベルを知ってたら教えてほしい。ツアーやライヴは期待してもらいたくないんだ。気に入ったレコードをそのままの姿でリリースしてくれる、そんなレーベルを探してる》ってね。そしたら作品を気に入ってもらえて、《ぜひリリースさせてほしい。リリースをフォローするショウはやりたくないという君の気持ちも尊重する。うちには他にもライヴをやらないアーティストはいるし、それとは関係なく音楽がよければリリースしてるんだ》と言ってきてくれた。
つまり僕にとっては、自分の音楽を気に入ってくれてるレーベル=家族がいるっていうことが、いちばん大事なんだよ。金が欲しいわけじゃないし、ただ自分が作った音楽をきちんと世の中に出して、人生の中の一章が終わるのをしっかり見届けたいっていうか……終わるっていうのはちょっと違うかもしれないけど。ハード・ドライヴにアルバムまる1枚分の音楽が入ったままになってるのって、やっぱり辛いもんだよ。やり残した仕事があるような感じがする。だから、その作品のために良い"家"が見つかって嬉しかったし、この先どうなるかは様子見かな。ライヴに関しても、一切やらない!なんて感じにはなりたくないから、もしソノイオの新作が大成功して(笑)ライヴのリクエストがあったら、考えてみようとは思ってる。でも、『AVANTI』のショウよりもそっちを優先するとかいうのは、かなり難しいだろうな。パフォーマンスの点から見ても、昨日の六本木でのショウは単なるライヴ演奏を超えた、人と人が繋がる場所になってたからね――少なくとも今の僕にとっては。僕としてはインストゥルメンタル・ミュージックのほうが、より表情に富んだライヴ・パフォーマンスができると思ってるし。でも、歌詞の入った曲も作ってるし、作った曲は僕の人生の一部でもある。つまり全ての作品が"存在してる"んだ」

--インスタグラムを見ると、最近はシンセだけじゃなく、ギターも演奏しているようですが。

アレッサンドロ「そうだね。『AVANTI』なんかは、確かに自然な流れでやってるプロジェクトではあるけれど、それでも深く掘り下げれば掘り下げるほど、プロフェッショナルな仕事としての側面が強くなって、より責任を伴う状況に変わってくる。だからこそ逆に責任や義務とは一切無縁のことがやりたくなって、それで去年くらいからまたシュレッドでギターを弾くようになったんだ。古いIbanezのギターを買ったり、子どもの頃に熱狂的なファンだったポール・ギルバートからギターをもらったりして、まさにテクニック的な練習を始めたんだよ。でも、決して取り憑かれたみたいにやってるわけじゃなくて、逆に脳のスイッチを切って頭を休めるために、テレビの前でリラックスしながら弾いてる感じなんだ」

--そういえば、新しいお気に入りのギターを手に入れたと言ってましたね。

アレッサンドロ「そうなんだよ。ビューティフルなギターで、アメリカで見つけたんだ。Ibanez JEMに、Ibanez Universe……どれも子どもの頃すごく欲しかったギターなんだ。14~15歳の頃にね」

--それらを使って、新しい音楽を作る予定はないのですか?

アレッサンドロ「うん。SONOIOの新作は、だいぶ前にほとんど完成していて、そこにはギターもたくさんフィーチャーされてるんだけど、もっとアンビエントなギターで、Jazz Masterとかを使ってる。新しく手に入れたギターで速弾きを始めたのはもっと最近になってからで、もっぱら気晴らしの範疇なんだ(笑)。義務感とか一切なしでね」

--どういう曲を弾いているんでしょう?

アレッサンドロ「いや、曲を弾くとかいうレベルですらなく、ただ練習してるだけなんだ。でも、うちのフランク(飼い猫)はギターが大嫌いなんだよ……シンセサイザーは大好きなんだけどさ(笑)」


他では読めないような、音楽の記事を目指します。