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エマ・ルース・ランドル インタビュー

Red SparowesやMarriagesといったバンドでも活躍し、その存在感をじわじわと高めてきたシンガーソングライター=エマ・ルース・ランドル。2018年9月にリリースした最新ソロ・アルバム『On Dark Horses』では、Jaye Jayleのエヴァン・パターソンとの出会いを通じて、これまでバンドとソロとで自然に分けられてきてしまった要素を統合したような、彼女自身にとっても大きなステップを踏んだ内容となった。あらためて彼女の持つポテンシャルの大きさを示す秀作に仕上がっているので、ぜひ日本でも、より多くのリスナーに聴いてほしいと思います。

取材協力:片岡さと美


日本のアニメや映画は、私が本当に不安と戦っていた困難な時期を乗り越える助けとなってくれた

--最新作『On Dark Horses』は、Jaye Jayleとのスプリット作品「The Time Between Us」を経て、エヴァン・パターソンとトッド・クックが参加し、彼らの拠点でもあるケンタッキー州ルイヴィルの La La Land スタジオで制作されましたね。新作のレコーディングでは、過去の作品と特にどのような違いがあったか、制作時の様子を教えてください。

エマ「私の新しいアルバム『On Dark Horses』には、それ以前の3枚とは違う点が幾つかある。まず、ちゃんとしたスタジオで、フル・バンドをバックに録音したのは今回が初めてだった。『Some Heavy Ocean』と『Marked For Death』は、どちらもホーム・レコーディング環境で作ったから。ディラン・ネイドン(ドラムス)、トッド・クック(ベース)、エヴァン・パターソン(セカンド・ギター)という他のミュージシャンたちとアルバムを完成させたことは、本当にサウンドを豊かにしてくれた。プロデュースとエンジニアを担当してくれたケヴィン・ラターマンも、ちょっとしたギターやキーボードを加えてくれたし、彼によるミキシングのアプローチはサウンドの方向づけに一役かってくれたの」

--Evanは新作に何をもたらしてくれたと思いますか? 逆に、先頃リリースされたJaye Jayleの最新作『No Trail and Other Unholy Paths』には、あなたが参加していますが、自分は彼らの作品に何を提供できたと感じていますか?

「エヴァンは、彼のユニークなギター・アプローチで、私の歌のフレームワークに味わい深いサポートを加えてくれた。私たちはこれまでにも共同ツアーをして、『Marked For Death』の曲をいっしょにプレイしたし、彼はいろんな意味で私の延長上みたいにして、たくさんの美しいメロディとテクスチャーを足してくれていると思う。ジェイ・ジェイルの作品への私の貢献の仕方もそれと似ているけど、もうちょっと計画的にきっちり書かれたものにはなっていない感じかしら。私は作曲プロセスの段階では参加していなかったから、スタジオに着いてすぐに、etherealなギターとヴォーカルを付け加えたの。ふたつのアルバム(『On Dark Horses』と『No Trail and Other Unholy Paths』)の間には素敵なロマンスがあると思う」

--『On Dark Horses』というアルバム・タイトルは、どのようにしてつけられたのでしょうか? ジャケットのカバー写真も含めて、この言葉に込められた意味を教えてください。

「作品の中心になるトラックだと思った"ダークホース"という曲に、なにかしらの形でちなんだアルバム・タイトルにしたいと考えていた。論文みたいな感じの題にするために、論文の執筆者(ライター)が《〜について》って"On"を付けたみたいな響きがあるのと同時に、騎手(ライダー)が馬に《乗る》ような感じが出てるところも気に入ってる。そういうダブルミーニングになってるの。ダークホースとは、勝算が無いくせに、なんだかんだで優位に立ってしまう人のこと。
ジャケット写真は、私がちっちゃなポラロイド・カメラで撮ったシリーズの中から選んだ。黒い馬の像は、La La Land スタジオで見つけて、途端に魅了された。足が幾つか壊れて横たわっていたの。誰かが留め具をつけてくれたおかげで、なんとか立てるんだけど、その様子は"ダークホース"という曲の歌詞を表しているように思えたのね。私の歌はとても個人的な内容なんだけど、このメタファーに命を吹き込んで自分の顔を曖昧にすることが、アルバムのアートワーク的にも理にかなっていると感じられた」

--この最新作で、あなたはソロ・アーティストとしてさらに強固な個性を確立したと感じています。今後はソロ名義での活動がメインになっていくのではないでしょうか? 過去に在籍してきたバンド=Marriages、Red Sparowes、The Nocturnesと、ソロワークとではどういった点が最も違っていますか?

「キャリアの現時点では、今後もほぼソロ活動メインになるだろうと確かに感じてる。MarriagesやRed Sparowesで活動できないのは寂しいけど、近い将来それらのバンドで再び集まって、もっと音楽を作れたらいいなと思う。ソロとバンドの最も大きな違いは、ソロでは私は純粋なライターであり、他のバンドではコラボレーターであるということね」

--あなたの最初のソロ作品が『Electric Guitar: One』だったことが示しているように、あなたはシンガーソングライターであるのと同時に、非常にユニークなギタリストだと思います。過去、いつ頃からギターに興味を持ち、どのように習得していったのか教えてもらえますか?

「親切な言葉をありがとう。私は12歳の頃ギターに興味を持つようになって、何年か後に古いミュージック・ストアで働くようになったの。その店ではレッスンやコンサートもやってたから、仕事が暇な時間には大勢のアーティストや先生たちからたくさん演奏のコツを教えてもらったわ。正規の教育は一切受けてないけど、何年もの間、様々な指導者から教えを受けていたってわけ。言ってることわかるかな」

--特にギタリストとして尊敬しているミュージシャンや、お気に入りのペダルなどについても教えてください。

「私はいつだってビリー・コーガンと『サイアミーズ・ドリーム』における彼のプレイを愛してきた。子供の頃は、スマッシング・パンプキンズの曲に合わせて弾こうと何回も試みたものよ。それから、もちろんジミ・ヘンドリックスもね。もっと大きくなってからは、マーク・コズレク、ニック・ドレイク、クリス・ウィートリーみたいなプレイヤーにも魅了されるようになった。オープン・チューニングを使う人々、別のチューニングっていうものを発見したことは私にとって大きな演奏のターニング・ポイントになっていると思う。
私のペダルへの愛は長年強くなったり弱くなったりの繰り返しだけど、一番お気に入りの定番ペダルは、エレクトロ・ハーモニクスのメモリーマン・ハザライ(4つ持ってるの)で、それを使わない時は無いって自信を持って言える」

--Marriagesの作品に『キツネ』というタイトルがつけられたりしたこともありましたが、あなたは日本の文化に興味を持っている様子です。Borisのアツオ氏に紹介してもらって、日本のアニメも見ているそうですが、そうしたものからも曲を書く時のインスパイアを得たりしますか?

「何年か前、本当に夢中になってた時期があって、宮崎駿の諸作品、とりわけに『千と千尋の神隠し』の魔法に魅了された。何ヶ月も毎晩見てたし、今でも時々そうしてる。テレビ・シリーズのアニメも見るようになって、特に『犬夜叉』と『ナルト』が大好きだったな。それから黒沢明の『夢』を見て、狐の話に魅せられた。それは、古い木版画のイメージを探す道へと導いてくれたの。私はそうした映画の幻想的な世界に逃避できるように感じてたのね。そして、それらの作品すべては、私が本当に不安と戦っていた困難な時期を乗り越える助けとなった」

--つい先頃、チェルシー・ウルフとの共同ツアーが行なわれましたね。ツイッター上でも時折あなたとふたりで仲良くやりとりしているのを見かけたりしますが、単なるレーベルメイトであることを超えて、彼女のどこに共感を覚えますか?

「私は本当にチェルシーを尊敬し崇拝してるの。彼女は優雅でも激しくもあり、聴くといつだってゾクゾクしてしまう歌声を持っている。私たちは同い年で、自身の芸術/音楽のために、人生の多くを費やして熱心に取り組んでいるという点で共感を覚えるんだと思う。彼女はいつも自らの創作の限界を押し広げていて、私も一生懸命やらなきゃってインスパイアしてくれる」

--先頃リリースされたディラン・カールソンの最新作『Conquistador』にもゲスト参加していますが、この作品に関わることになった経緯や、彼と一緒にやってみた感想を教えてください。

「ディランと私は同じレーベルに所属していて、たぶんスタッフの1人が、『Electric Guitar: One』での私の仕事を見て、私をレコーディングに呼んで、ちょうど作っていたものに何か付け加えてもらえば?とディランに提案してくれたんだと思う。それで彼は私に電話してきて、招待してくれた。私たちはニューヨークで会って、カート・バルーとレコーディングしているゴッドシティ・スタジオがあるセイラムまで一緒にドライヴしたの。
私はデモも一切聴いていなくて、うまくいくか半信半疑だったんだけど、それが逆に功を奏して、まるで冒険のような経験ができたし、そこから生まれる自発的な創造性がたくさんあった。まず、ディランが彼のパートを録って、私はそれを覚えてから、すべての変化を感じとるようにして、そこかしこにスライドかボウ・ギター、あるいはパーカッションを少しだけ足したの。以来、私たちは友人になった。それって途方もないことよ。なぜなら彼は私に大きな影響を与え続けた個人的なヒーローだったんだもの。私はディランと、彼の妻ホーリーを本当に愛してる」

--ぜひ、この素晴らしい最新作の発売に合わせて日本でライヴを実現させてほしいと願っています。なんならJaye JayleやChelsea Wolfeと一緒に来てくれたら最高です。日本のリスナーに何かメッセージをいただけますか。

「日本へ行くこと以上に熱望していることはないの! あなたが想像している通り、日本を旅して、神社を訪ねたり、そこで音楽を演奏することを、いつだって夢見てきた。それ以上に私を幸福にさせてくれるものなんてない。もし、私が日本のファンにメッセージするとしたら、それは簡潔に、みんなに会うのが待ち遠しいってこと。どうもありがとう!」


他では読めないような、音楽の記事を目指します。