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『廃坑』#6

⬜︎前回の物語は下のリンクから




⬜︎ #6トレパネーション


8.


「正直言ってそれは無理だと思いますよ」

「だよね…。」
怒られた。

「私は実際に見てきたからわかるけど、そんか簡単な話じゃないよ」

「そうですよね」

「実際に見てないあなたはそう簡単に言えるかもしれないけど、すごいんだから、あの場所」

「そうですよね…ごめん。」

「いや、謝らなくていいけど」

「実際にのんさんはそこにいる方々に会ったわけですもんね」

「うん。夜になると窓に向かってダンスをしていたり、他人に急にイスとか物を投げつけたりする人がいました」

「確かにそう言う人もいるのかもだけど、…でもよくわかんないけど、とにかく、のんさんみたいに優しい人が鬱とか病気になるべきではないと思うんですよね」

「なんでですか」


「なかには本当に全然何考えてるかわかんない人もいるかもしれないけど、なんでのんさんがそこにいたのか全然わかんないですよ。」

「…」


「だって意味わかんないですもん。どんな症状があるのか深く聞きつもりはないですけど、優しい人だからどんどんなんか、人の言葉の攻撃とか吸収しちゃうんじゃないですかね、たぶん。話し方でそんな感じしましたよ。」

「いや…」

「ずっと安全な場所で守られてればね…。いや別にここを病棟にしたいとかやっぱなんでもいいや、のんさんがここで守られていれば。」

「うん、いや…」


「普通にここにいればいいよ。もう黒田とかも追いかけてくることないでしょ。ここ安全地帯にしよう。」

「いや、私はここにいるって、あなたは勝手に来たんでしょ。というか、堺さんの関係者って本当なの?私の説明するよりもあなたはなんでここに来たの」

「ごめん、ちゃんと、おれの方の説明してなかったっけ。あと、その関係者なのは、それは嘘。」

「はい?!…。」

「ごめん、たまたま一人で旅してて、この近くの駅に降りたんだけど、そのあとこの辺り歩いてて。そのあと、崖から落ちて溺れて意識戻ったらここにいて。それでこの廃坑にいたんだよね。咄嗟にノートに書かれてた堺って文字みて、関係者って…。そう答えました。ごめんマカルムさんとしての、のんさんとは色々喋ってたから、もうお互い知ったような気になってたけど俺の方が自分のこと話さなきゃだったよね。それは本当ごめん。色々逆に聞いちゃって。」

「大丈夫、そうだったんだ。まあもともと私もここの人じゃないから。堺さんの知り合いっていうから大丈夫だとは思ってたけどね。でも違ったんだ。でも、悪い人ではなさそうだし。」

「ほんと?でもそれはごめん。嘘ついてた。」

「いいよ。あとさっきの話…」

「ああ…、のんさんの話だけじゃなく、他にその病棟にいた人たちとかもさ。例えば邪念とか幻覚とかってアートだよね。そういう人たちの診療所に、みんなで書き上げたアートを、シンボルにして、社会への下剋上的なアート拠点にしたいんだけどさ、そんなことできそうじゃない!どう、ここを。」 

「うん…」

「いやまぁ、そこはいいんだけど、なんか辛い思いをしてる人たちの居場所がもっと選択肢あるべきだと思うんだよね。鬱で会社に行けない人とかもさ。」

「うん」

「今時、LGBTだの、多様性だの言うけど、精神障害の方とかの面での配慮が足りてなさすぎると思うんだ。鬱の方とかもそうだけどさ、そう言う人たちのアートってものすごい力があると思うんだ。この拠点でそんなアートを作り出すような居場所を立ち上げたい。それどうかな。」 

「うん。出来たらすごいと思いますけど…。」


「なんか、心の病がある人だって、他にも色んな病気がある人いるじゃないですか。その、のんさんが病棟で見てきたような人達だって。そういう人達ともこの地球にいる以上、当然どこかでは出会うわけじゃないですか。特に東京って人がグチャグチャだから色んな人に出会うじゃないですか。嫌でも嫌じゃなくても。全員が手を取り合うべきだよね。毛嫌いってもどこかで出会うんだから。そういう人たちが居場所ないからって自殺するのは違うって。どんな人も同じように生きる権利あるからさ。」 

「それはそうだと思いますよ」

「例えば、幻覚は、アートになるし、そもそも幻覚って、その人が強い印象に残ってる記憶の一種だったり、するから、病気って言わなくていいような気がする。もちろん日常生活に支障をきたすから治したいって病院にいくわけだと思うけど、治らない方もいるじゃないですか、そう言う方の幻覚というか、その記憶はアートとして消化できたり、実際そういうデザイナーっているじゃないですか。」 

「なんかわかりますよ、いますよね」

「でもなんかその人にとって普通なのに、それを病気と病院に言われるパターンもあるように思うんですけど。あと、性格を病気って診断されるパターンって酷くないですか?みんなが基準は自分でいいのに。全員がありのままでいるべき。社会に馴染む必要なんてなく、新しい違う社会を作ればいい。社会から守られる場所があってもいいと思う。病棟だけじゃなくて。」 

「うん」

「ありのままを否定されて、発散の場が無いから拗れていったりするんだと思う。だから発散する場所があるべき。色んな形の。適材適所の。なんていうか難しけど。でも、それはともかく、まずは、のんさんが第一優先で守られるべきだね。とりあえず黒田はもういないから。もうのんさんは傷つかないでほしい。でも、そういう意味では、この、施設が守られる場所になってるわけだよね。」


「うん、そうだね。堺さんとここにいるときはそうだった。黒田が来てからは地獄でしたけど。もういないので。」

「そうだよね、そのことは思い出したくないよね。ごめん。…あ、あの机の上に置いてあった絵ってのんさんが書いた絵でしょ?」

「そうです」

「あの絵めっちゃ好きですもん。あの絵貰いたいです」

「いいですよ、あげますよ。」

「ほんとに、、!ありがとう」

「こう言う絵もっと発信していこうよ、あと同じような人たちももっと集めて、治療所っていうよりも事務所、オフィスにしたいです。アトリエ。」

「…」

「自分もそんなことできるのか全然わかんないけど、とにかくこの絵は、仕事になるよ。」

「たしかに社会の馴染むように抑えつける治療所ではなくて、活かせる能力を見つけるように適材適所を見つけて仕事にできるような、なにかそんな場所があったらいいなとは思います。この絵は、どうかわかりませんけど…」

「いやいやこの絵いけるよ。絶対。そしてそうそう、そう言う場所です。アートじゃなくても、他にはどんなものがいいか今はパッとでてこなくて申し訳ないですけど、そんな場所があるべきのように思います。なんかスポーツとかかな、他で言うと…。この施設に通う人たちでの競技大会とかも作ることができたらいいな。こんな色々言っといてまだ理想でしかないですかが。」

「でもそれすごくいいですね」

「ほんと?ありがとう」

「具体的にどうすればいいのかわかりませんが…。一緒に考えません?」


「いいですよ」


「ほんと?!!え、考えよう」

「考えよう」

「まじかやったー。えじゃあ色々アイディア出しましょうよ」

「とりあえず、堺さんの作業部屋行きますか」

「いいですねそうしましょう」

「すごい大きい部屋があるんです」

「えー、自分まだその部屋行ったことないかもです」

「本当ですか、びっくりしますよ」


扉を開き、黒田の死体から目を背け、廊下に出た。しばらく歩き、高価なドアを開けた先に、その部屋が広がっていた。



「でかっっ!!!!!!!すげーー」

「すごいでしょ」

「すごい」



9.

中学生時代に学校にあった音楽室3個分くらいで、体育館とまではいかないが、すごく大きな部屋だった。

「あそこにあるのってなんですか?金属のやつ」

「あれはトレパネーションっていうものの装置です。私もよくわかってないですが。」

「トレパネーション…?」

「マカルムに聞きますか?…あ、マカルムって私のことではないですよ?」

「わかってますってー。聞きましょ」

「はーい、マカルム」

「ドウサレマシタカ」

「トレパネーションって何か検索して」

「ワカヒマシタ。…ピコン。トレパネーショントワ、セ…」

マカルムは、読み上げると同時にこの部屋にある、大きなモニターに検索されたWikipediaを表示した。「穿頭(せんとう、英:Trepanation)あるいは穿頭術は[1]、頭皮を切開して頭蓋骨に穴を開ける民間療法の一種とされる。穿頭は古くから神秘主義に基いて行われ、その場合には、開けた穴をふさぐ処置を行わずに頭皮を縫合する。現代では、医療的に治療のために行われる処置も穿頭と呼んでいる。

被術者らによると「脳の圧力を下げ、気分を高揚させる」や「意識がより明瞭になる」、「うつ病が軽減された」等とする報告がある。」


「へー。堺さんって精神病的なことも研究してたのかな、ってかこの装置怖すぎるでしょ。」

「怖い。私も、どんなことを研究とか仕事してたのかなんとなくしか聞いてなくて。」

「なんか色々本とか、堺さんの書いてたノートとか読んだらわかるんじゃないですか?堺さんのやってたこと。読んだらダメかな?」

「読んでみますか?」

「あ、うん」



トレパネーション…?
堺さん…?
…黒田?
この場所って…


10.
 続く


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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