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クールなネコと愛嬌たっぷりのネコ。冒険好きなイヌと臆病なイヌ。なぜ性格が違う? そもそも動物の個性ってなに?『まとまりがない動物たち:個性と進化の謎を解く』本文より【試し読み】


私たちは、特に動物を愛する人たちは、動物に個性があることを当然のこととしています。たとえば「ネコはクール」などとよく言われますが、そんなに単純ではないことはネコ好きならばみんな知っています。愛嬌たっぷりのネコだっているのです。
動物にそれぞれ個性があること――じつに当たり前のように思われますが、考えてみれば不思議です。はげしい生存競争を生き抜かなければならない動物に、なぜ性格の違いがあるのでしょうか? 種として優秀なタイプに統一されればよさそうなものを、なぜみんな違う個性を持っているのでしょう? それにどんな意味があるのでしょうか? というか、そもそも個性とはなんでしょう?
近年、動物の性格(個性)の研究が注目されています。動物の個性と進化の関係という注目のテーマをユーモアをまじえてわかりやすく書いた新刊書『まとまりがない動物たち:個性と進化の謎を解く』の本文を特別公開します。


動物には個性がある――それはなぜか
動物の心の動きについてはすでに多くのことが明らかになっており、とりわけオオカミやゾウ、クジラといったカリスマ性のある動物のことはよく知られている。
みんながみんな認めているわけではないが、動物、特に哺乳動物が感情をもっているという考えは目新しいものではない。
1980年代のジェフリー・M・マッソンとスーザン・マッカーシーの画期的研究など、数多くの著者がこのテーマを追求している。
シンシア・モスはゾウの悲嘆と弔いの儀式の描写などを通して、ゾウの情動面を論じているし、G・A・ブラッドショーはゾウが心的外傷後ストレスの作用を受けやすいことを記録して、ヒトと動物の共通点を強調した。
チンパンジーが人間に似た感情移入をすることや、ボノボが抗争の平和的解決に熟達していることを示す調査結果は広く知られている。
特に、昔から大きな脳をもつ高等動物と考えられてきたこれらの種については、情動をもつとする説はいまに始まったことではない。
ダーウィンでさえ、チンパンジーなど類人猿をヒトと比較して、こともなげにこう指摘する。「サルの表現活動の一部は実に興味深い……確かに、ヒトのそれときわめてよく似ている」

本書を書いた目的は、既成事実を再検証することではない。
多くの人が直観的に、あるいは既存の著作を通じて知っていること─動物には情動も知性もあることを改めて述べ立てるつもりはない。
本書の主眼は、特定の生物種は考え、感じているという認識にもとづいて、個体の特性が人間に、地球上の数多くの生物種に、そして私たちと彼らの関係にどんな意味をもっているかを探ることである。

動物の知性と情動については語るべきことがたくさんある。
まず最初に、動物は全部が全部同じように感じているという考え方を私はとらない。
たとえ同じ種でも、動物は個々にもっと複雑にできている。
その情動反応、その個性はひとつひとつ違う。
本書で私は、自分の動物の相棒との暮らしを観察した結果と逸話だけでなく、野生生物学者としての仕事から得た知見をもとに、ピングイノ(著者の飼い猫)のように、どんな種類の動物も唯一無二であり、独自の個性をもっていることを示そうと思う。ヒトであれ、動物であれ、それぞれの独自の個性がお互いを結びつける絆になることも。
第二に、私は曲がりなりにも科学者であるから、動物に個性があることを受け入れるだけでは満足できない。
なぜそうなのかを究明するところまで手を伸ばすつもりだ。
そしてもうひとつ、慣れ親しんだ領域を経巡って、ネコやゾウ、霊長類についての話をすることもできるが、今回はまったく縁のない場所まで足を伸ばしてみようと思う。
ヒトとは縁遠い存在である恐竜やその現代の末裔はどうなのかも探ってみたい。

ネット書店リンク集には以下からどうぞ↓

『まとまりがない動物たち
 個性と進化の謎を解く』

ジョン・A・シヴィック 著
染田屋 茂 訳
鍋倉 僚介 訳
定価:本体2,400円+税
四六判、272ページ

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