【ファンタジー】俺のために死んでしまえ

とある青年がいた。

彼は一人で森の中を散策し、その風景を写真におさめるのが好きで、よくそうした遊びをしていた。

その日も、彼はいつものように森を散策していた。

夜も更け始め、そろそろ帰ろうかという時、とある集団を見つけた。

茶色のフードを被り、ろうそくを手に持っている。

そんな格好をした者たちが、大勢いる。
彼らは、フードを深く被っているので、顔が見えない。

その集団の中央には祭壇があり、顔のない悪魔の像が置かれている。

「悪魔教か何かの集団か?気味が悪いな……」

青年の体を、妙に冷たい風が撫でた。

そんな中、儀式が始められていく。

祭壇の前に眠った赤ん坊がおかれ、周りの者がナイフを手にしている。

「まさか生け贄に!?」

青年は息を飲んだ。

悪魔教のことを彼はよく知らないが、生き物を生け贄に捧げるといった、それらしきイメージは持っていた。

正義感の強い青年は、その赤ん坊を助けることにした。

集団を押し退けて祭壇へ行き、赤ん坊を抱いて、周りの者たちに啖呵を切る。

「この子は、殺させない!生け贄なんてさせないからな!」

悪魔教の者たちが、物も言わずに赤ん坊を奪おうと追いかけてくる。

真っ暗な森の中を、赤ん坊を抱き抱えて逃げる。

そんなある時、赤ん坊はお腹を空かせて泣いてしまう。

「よしよし、すまねえな……。何かあげられたら良いんだが、生憎何もないんだ……」

赤ん坊を見つめて、優しくあやす。

その赤ん坊の泣く声で、追手は自分の居場所がわかってしまう。

追手をなんとかまきながら逃げる青年。

だが、何時間と続くいたちごっこは、次第に彼を追い詰めた。

腕に5キロの赤ん坊を抱えて走る身体的疲労。

そして、赤ん坊の泣き声と、それに伴う焦燥感。そしてなりより、不気味な悪魔教の者たちに追いかけられているという恐怖が、彼の心を蝕んでいった。

「なぜだ……?森から出られない……。もう、出口にはとっくについているはずなのに……」

闇夜であるのに加えて、森から出たいという焦燥があるゆえに、彼は出口を見落としていた。

「ふぎゃあ!ふぎゃあ!」

「頼む……頼むから静かにしてくれ……」

「ふぎゃあ!ふぎゃあ!」

「……うるさい、頼むから」

そしてとうとう、悪魔教の者たちに挟み撃ちにされた。

前にも後ろにも、奴らがいる。
手にはナイフを持っている。

「う、うう……!ぐう……!」

少年はもはや、なすすべがなかった。

「ふぎゃあ!ふぎゃあ!」

「うるさい!うるさいうるさいうるさい!黙れ!!お前が泣くから見つかったんだぞ!」

彼は赤ん坊に八つ当たりをした。だが、それをしたところで、何も変わるわけでもない。

しかし今既に、彼の頭はおかしくなっていた。

「この赤ん坊さえ!この赤ん坊さえいなければ!俺はこんな目に遭わなかったんだ!」

自ら助けたことを棚にあげ、赤ん坊を責める。

そしてその勢いのまま、赤ん坊を地面にたたきつけて殺した。

ゴッ!と、鈍い音がした後、赤ん坊は泣かなくなった。

「おお……」

その時、今まで何も口にしなかった悪魔教の一人が、少年を指差して言った。

「悪魔が、ここにおられる」

その瞬間。

青年の影が、ぬう……と伸びた。

そして、それは次第に大きくなっていく。

青年の頭は、もう正常ではなかった。

白目をむいて、その場に座り込む。

「は、はははは…………」

「はははははははははははははははははははは」

「はははははははははははははははははははははははははははははははははは」

青年の笑い声が、辺りに響く。

影はどんどん大きくなり、やがて影にのみコウモリのような翼がうつりだした。

そして、その影は夜の闇と合わさって、より巨大になった。

その闇の中に、赤く光る丸い目が見えた。

終わり