反戦【星になった子どもたち】

戦争が激化し、子どもも戦場へ駆り出される時代。
A国の兵隊だったとある少女は、孤島での戦闘中に、仲間の部隊とはぐれてしまう。
森の中をさ迷っていると、運悪く敵であるB国の兵たちに見付かってしまい、捕虜にされる。

兵たちの目的は、A国の情報ではなく、少女の強姦だった。

今夜のお楽しみだと言って、兵隊たちは少女を樹に縛り、一人の少年兵に見張りを任せた。
少年は悲しそうな表情で、一言「了解」とだけ答えた。

それを受け、少年の上官たちは戦場へと向かっていった。


だんだんと日が落ちていく。
少女は自分が今夜犯されてしまう恐怖に震えながら、空を見上げた。
すると、儚くも美しい星たちが、夜の空をいっぱいに満たしていた。

彼女は星が好きだった。将来は天文学者になりたくて、ずっと熱心に勉強をしていた。
それなのに、なぜ今戦場にいなければならないのだろう?
そう思い、彼女は涙を流した。

だがふと見ると、見張りの少年も空を見て泣いていた。

「なぜ泣いてるの?」

彼は答えた。

「こんなに星が綺麗だなんて、知らなかったんだ」

B国の空は、いつも工場から排出されたスモッグによって、星なぞ見えないくらい汚れていたのだ。

「家族にも、見せてあげたいよ」

「……………」

それをきっかけに、少女は少年へ星について教えてあげることにした。

「輝く星がたくさん連なってるのが天の川。あれが銀河の中心なの」

「銀河ってなに?」

「たくさんの星の集まり。私たちの地球も、銀河を構成するひとつの星でしかないの」

「そうなんだ!知らなかった」

少年があまりに楽しそうに話を聞いてくれるので、少女もだんだんと饒舌になっていった。

「天の川を挟んで、二つの強く光る星が見える?あれは、ベガとアルタイル。日本という国では、あの二つは恋人の星なの」

「恋人なのに、天の川を隔てて遠くにいるのはどうして?」

「会ってはいけないことになってるの。でも、一年に一度だけ会える日があって、その日を二人はいつも楽しみにしているの」

「そうなんだ、会えるだけいいね。僕らみたいに戦争している国同士の人だったら、きっと1日だって会えないんだから」

「そうね」

それから彼らは、お互いの境遇について喋りあった。

少女の家族は、爆撃でみんな死んだこと。
少年は、貧しい家族を救うために、志願して軍に入ったこと。

少女の夢が、天文学者であること。
少年の夢が、お腹いっぱいにご飯を食べること。

そんな話を二人でした。


どんどんと夜がふけていく。
そろそろ少年の上官たちも帰ってくるだろう。

「…………」

少年は意を決した表情で立ち上がり、少女を縛っていた縄を切った。

「いつも心を殺して、見て見ぬフリをしてきたけど、君だけは……。どうかここから逃げてほしい」

「なら、あなたも行こう?これからも、一緒に星を見たいの」

迷う少年の手を引いて、少女たちは走り出した。

すると遠くに、少女たちの上官の姿が見えた。

「いけない!私の上官は、捕虜を絶対取らないの!必ず殺してしまう!」

そして二人は元の道を戻ろうとするが、そこには少年たちの上官が追ってきていた。

「挟まれた!」

少年たちはそこから動けなくなってしまった。

だが、各部隊の隊長たちは、少年たちなど気にもとめていなかった。

「向こうにB国の兵が見えるぞ!撃て!皆殺しだ!」

「A国のバカどもが、姿丸出しにしてやがる!今がチャンスだ!」

銃撃戦が繰り広げられた。

お互いに見えやすい場所だったため、双方とも次々に死んでいき、どちらの部隊も全滅した。

その銃撃戦のど真ん中にいた少年たちは、蜂の巣にされた。

血が噴き出す身体を必死に動かして、二人は見つめあった。

そして、真っ赤に濡れた手を繋ぎあった。

そのまま彼らはその場に倒れ、空を見上げた状態で倒れた。それ以後、彼らは二度と動かなかった。


たくさんの星が見える。
そこには、ベガとアルタイルも見えていた。