【ハートフル】サンタクロースは誰にでも
起
あるところに、貧乏で孤独な老婆がいた。
彼女は人付き合いが悪く、家族も友達もいないまま、80歳の誕生日を迎えてしまった。
そして、持病も抱えており、医者からも『もう長くない』と宣告されていた。
「独りぼっちで死にたくない。最期くらい、誰かに愛されたい」
そう思っていた彼女は、ふと街角にあったサンタの人形を見つける。そこに群がる子どもたち。
「そうだ、サンタみたいになれば、自分も愛されるかも知れない」
そう考えた老婆は、飴や駄菓子を道行く子どもたちに与えようとする。
しかし、誰もそれを受け取ってはくれない。しかも、警察に『不審者』として通報されてしまう始末。
「私はどうせ、最期まで独りなんだ」
老婆の頬に、涙がつたった。
承
そんな中、一人の少年が老婆のところにやって来た。
彼はボロボロの服を着て、げっそりと痩せこけている。
そして、老婆が持つお菓子をじっと見つめていた。
「欲しいのかい?いいよ、どうせ捨てるつもりだ」
すると、少年は老婆からお菓子をひったくり、そのまま礼も言わず去っていった。
そんな少年に老婆は腹を立てたが、少年を追う元気もなかった。
だが、その日から少年が老婆宅へと毎日訪ねてくるようになった。
お菓子をもらえるまで帰らず、じっと玄関の前に立っている。
「お前には、もうあげるもんはないよ!」
そう叱責するが、少年は決してそこを動かなかった。
転
そんなやりとりが何日か続いたある日のこと。
少年がいつものように訪ねてきた。老婆もさすがに今日こそは追い返そうと、玄関を開けて怒鳴ろうとした。
しかし、老婆は怒鳴れなかった。
少年が頬に真っ青なアザをつくって、泣いていたからだ。
「………………」
老婆はしばらく考えてから、少年を家に招いて、手当てをしてあげた。
その日以来、彼女は少年が来ても拒まなくなった。
老婆には、もう分かっていたからだ。
「この子が欲しいのは、お菓子じゃない。私と同じで、愛されたいだけなんだ」
それを知った老婆は、少年に何かしてあげたいと思った。
来週、ちょうどクリスマスになる。そこで彼女は考えた。
「あの子に、たくさんお菓子を買ってあげよう。ケーキやシュークリームを……あの子がお腹いっぱいになれるように」
老婆は少ない貯金をすべて使って、クリスマスの朝方に、ケーキとたくさんのお菓子が老婆宅に届くように、お店へ依頼した。
だがクリスマスイブの夜。
突然、持病の発作が起きた。
老婆は病院へ行こうとするが、もう自分にはいくばくかの金もないことを思い出し、道の真ん中に横たわった。
雪がちらちらと降っている。
老婆は、少年の顔をふと思い浮かべた。そして、彼が美味しそうにケーキを食べている姿を想像して、優しげな微笑みを浮かべた。
その時、老婆はようやく、孤独ではなくなった。
そして、静かに息を引き取った。
結
翌日のクリスマスの朝。
少年はいつものように老婆宅へ行くと、お店からケーキが届いていた。
中にあったケーキに文字があり、「メリークリスマス」と書かれている。
「わあ!きっとサンタさんが持ってきてくれたんだ!」
そう信じた少年は、二人分のお皿とフォークを用意した。
外からクリスマスソングが聴こえてくる。
少年はそれに耳をすませて、老婆のことをじっと待ち続けるのであった。
終わり